テラーノベル
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暗い部屋。
照明の灯りは最小限。カーテンは締め切られ、壁には一枚の白い封筒が貼りつけられていた。
封筒には、丁寧な筆跡でこう記されている。
「あなたのような者こそ、真に裁く力を持つと信じています」選定者より
机の上に置かれたその封筒を、少女は静かに手に取った。
彼女の名は霧島ユナ。
十九歳。法学部に通う大学生。
並外れた推理力と記憶力、論理性により、教授からは「判事の卵」と評されていた。
だが彼女自身は、その称号に誇りを感じたことは一度もない。
正義など、幻想だと思っていた。
「……奇妙な招待状…」
中には、整然とした活字の案内文が一枚。
『模擬裁判を通じて、法と倫理を学び、実践する。
あなたはその適性を認められ、特別研修への参加を許可されました。
日程:10月28日~11月3日
場所:白楓島 法学研修施設』
白楓島。
地図には滅多に載っていない、かつて法務省の研修に使われていた無人島だ。
「……なぜ、あんな場所が?」
だがそれよりも、ユナの好奇心を強く刺激したのは、
同封されていた“名簿”だった。
招待された参加者はユナを含め、九名。
全員が、全国から選ばれた学生たち。
学業成績、論理試験、面接などを経た者のみが招かれる、いわば法学の精鋭。
その中には、彼女の名も、そして見覚えのあるいくつかの名前もあった。
「これは……偶然なの?」
違和感。
まるで選ばれたのではなく、狙われたかのような名簿。
彼女の中で、わずかに眠っていた警戒心が、静かに目を覚ます。
だがそれでも彼女は行くと決めた。
「真実」を知ることに、彼女の知性は抗えなかった。
扉が開く。
法では裁けぬ罪の、その檻へと。
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