テラーノベル
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雨はいつの間にか止んでいた。
停電も夜中のうちに復旧したらしい。
ピザ屋の店内には、朝の柔らかい光が差し込んでいる。
……ただし。
ソファの上では、まだ事件が続いていた。
エリオットはチャンスの上に乗ったまま。
チャンスは半分起きているが、まだ完全には動いていない。
「……だから」
チャンスが低く言う。
「降りろ」
エリオットはネクタイを指でくるくるしている。
「やだ」
「なんで」
「近い」
チャンスはため息。
その時だった。
カラン
店のドアのベルが鳴った。
二人とも止まる。
「……」
「……」
店の入口から声。
「エリオットー?
昨日停電してたけど大丈夫ー?」
朝番のスタッフ。
エリオットの顔が一瞬だけ固まる。
チャンスがぼそっと言う。
「……終わったな」
エリオットは慌てて動こうとする。
でも。
ソファが狭い。
バランスが崩れる。
そして――
ドサッ
二人まとめてソファから落ちた。
「痛」
「お前のせいだ」
その瞬間。
カウンターの向こうからスタッフが覗き込む。
「エリオッ――」
言葉が止まる。
床には。
スーツの男(銀髪)。
その上に。
金髪の店員エリオット。
しかも。
ネクタイを掴んでいる。
「……」
「……」
数秒の沈黙。
スタッフが言った。
「……ごめん」
くるっと振り向く。
「見なかったことにする」
エリオットが叫ぶ。
「違う!!」
チャンスがぼそっと言う。
「説得力ゼロ」
スタッフは入口からもう一回言う。
「開店準備するから……
ゆっくりどうぞ」
「違うって!!」
スタッフは完全に勘違いした顔で奥へ消えた。
静まり返る店。
エリオットはゆっくりチャンスを見る。
チャンスは天井を見ながら言う。
「……おめでとう」
「何が」
「誤解された」
エリオットは数秒黙って。
そして。
またネクタイを引く。
ぐい
チャンスが呆れる。
「まだやるのか」
エリオットは笑う。
「どうせ誤解されたし」
「開き直るな」
チャンスは小さく笑った。
そして。
ゆっくり立ち上がる。
ネクタイを直す。
「……朝飯」
「ピザ?」
「それしかないだろ」
エリオットは嬉しそうに立ち上がる。
「作る」
キッチンに向かう。
でも途中で振り返る。
そして。
ネクタイ。
ぐい
チャンスが笑う。
「お前」
「ん?」
「ほんとそれ好きだな」
エリオットはにこっと笑う。
「うん」
朝のピザ屋。
新しい一日が始まっていた。
……ただし。
奥のスタッフはまだ、
ニヤニヤしていた。
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