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第五章 封じられた真実
第五話 歪められた歴史
その後も、ハヤトは地下書庫へ籠り続けていた。
黒い少女。
幽閉塔。
五人の精鋭。
あの事件について、もっと詳しい記録があるはずだった。
帝国規模の大事件だ。
大量の魔物が発生し、 兵と魔導師が三十人以上も動員された。
負傷者も多数。
それなのに、残されている記録はあまりにも少なすぎる。
「……あり得ない」
ハヤトは低く呟き、次々と資料を開いていく。
歴史記録。
軍事記録。
皇室日誌。
だが、どこにも、肝心な部分が残されていなかった。
まるで、誰かが意図的にそこだけ切り取ったみたいに。
静かな地下書庫で、紙を捲る音だけが響く。
時間の感覚は、とうに消えていた。
気付けば、外は白み始めている。
けれど、ハヤトはその手を止めることができなかった。
机へ肘をつき、疲れたように額を押さえる。
父上に聞くか――
ふと、そんな考えが浮かぶ。
だが、ハヤトはゆっくり首を振った。
「……いや」
恐らく、父も知らない。
この国で語られているのは、ただ一つ。
“光が闇を討った”
太陽の皇子と、五人の英雄による伝説。
幼い頃から聞かされてきた英雄譚。
歴史の教科書にも載る、この国の正史。
けれどハヤトの胸の奥では、何かが警鐘を鳴らしていた。
違う。
これは、何かが歪められている。
黒い少女は、本当に“悪”だったのか?
なぜ彼女が現れた後に、魔物被害は消えた?
なぜ事件の詳細だけが残されていない?
そして、事件後なぜ百年もの間、魔物が現れなかった?
「……見つけなければ」
掠れた声が漏れる。
「真実を」
◇
翌朝。
中庭へ現れたハヤトを見て、シュンタが真っ先に顔をしかめた。
「うわっ!めっちゃ酷い顔しとる」
ハヤトが苦笑する。
「失礼だな」
「いや、寝てへんやろ」
図星だった。
目の下には、薄く隈が浮かんでいる。
ジュウタロウはそんなハヤトを見つめ、静かに口を開いた。
「……何を見つけた」
単刀直入だった。
ハヤトは少し息を吐き、昨夜調べたことを二人へ話し始めた。
三百年前。
異常な魔物大量発生。
行方不明者。
黒い少女の出現。
そして、彼女が幽閉されていた半年間、魔物被害が消えていたこと。
それから、幽閉棟での魔物大量発生事件。
その後の、帝国の歴史書にも載っている英雄譚。
シュンタの笑みが、少しずつ消えていく。
ジュウタロウも、黙ったまま聞いていた。
「さらに、その幽閉棟事件の後約百年間」
ハヤトは静かに続ける。
「帝国内で、魔物が確認されていない」
「……百年?」
シュンタが目を見開く。
「ああ。
そしてその後、また少しずつ増え始めている」
静かな風が吹く。
三人の間へ、重い沈黙が落ちた。
やがて、ジュウタロウが、ぽつりと言った。
「フィルディアにも、似たような記録がある」
ハヤトが視線を向ける。
ジュウタロウの銀の瞳は、冷静だった。
「魔物が増加した後、突然出現しなくなった時代があると……」
ジュウタロウは続ける。
「それから幽閉塔の件、
大事件にしては記録が少なく、
しかも都合よく、肝心な部分だけ消えている……」
「これは意図的だ」
シュンタが低く唸る。
「でも、誰がそんなことすんねん」
その瞬間。
ハヤトの脳裏へ、ある存在が浮かぶ。
太陽神信仰。
英雄譚。
“光が闇を討った”という教え。
そして、帝国で歴史と信仰を管理している場所。
ぽつりと呟いた。
「……教会か」
空気が止まる。
そしてシュンタが頷いた。
「なるほどなぁ」
「確かに、こういう“正義の歴史”が残されるのって、だいたい権力か宗教が関わってるかもなぁ」
軽い口調。
けれどその言葉は、妙に現実味があった。
ハヤトはゆっくり目を伏せる。
教会。
帝国最大の信仰組織。
太陽神を祀り、民衆から絶対的な支持を得ている存在。
皇室とも深く関わっている。
もし、本当に歴史が歪められているのだとしたら……。
「……行ってみるか」
ハヤトが静かに言った。
ジュウタロウが片眉を上げる。
「教会?」
「ああ」
黄金の瞳が、真っ直ぐ前を向く。
「何かが、あそこに隠されている気がする」
夏の風が、中庭に咲く花を揺らし、三人の間を通り抜ける。
汗ばむほどの陽の光の下で、それが急に、やけに冷たく感じた。
コメント
1件
いやー、今回も重かったな……。ハヤトが地下書庫で必死に調べてるシーン、目の下の隈とかにもう“真実追う覚悟”が滲み出ててグッときたわ。「あり得ない」って呟く感じとか、読んでてこっちまで息詰まる。シュンタとジュウタロウも相変わらずいいコンビで、特に教会の話になった時の空気の変わり方、ゾッとした。次、三人で教会に乗り込むってことか? もう続きが待てない🔥