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その夜、阿部亮平は自室のベッドの上で、静かに悶絶していた。
「うぅ……」
電気もつけず、月明かりだけが差し込む部屋で、彼は勢いよく枕に顔をうずめる。脳裏にフラッシュバックするのは、数時間前の楽屋での出来事。
『もしかして…やきもち妬いてるんでしょ?』
佐久間大介の、悪戯っぽく笑う顔。
そして、それに何も言い返せず、ただ顔を赤くすることしかできなかった、自分の不甲斐ない姿。
「〜〜〜っ、なんで僕は、いつもこうなんだ!」
枕に顔を埋めたまま、阿部は足をバタバタさせる。Snow Manのブレインと呼ばれ、クイズ番組ではその知識で並みいる猛者たちをなぎ倒し、気象予報士の資格まで持つ自分が、こと佐久間大介に関しては、連戦連敗なのだ。
いつもそうだ。
僕がどんなに理論武装しても、冷静を装っても、佐久間は、その天真爛漫で真っ直ぐな一言で、僕の計算も論理も、全てをいとも簡単に飛び越えてくる。
そして気づけば、いつも僕ばっかりが顔を真っ赤にさせられて、言葉を失っている。
「悔しい…」
ぽつりと呟いた言葉は、本心だった。
でも、その悔しさの中に、どうしようもないほどの温かい何かが混ざっていることにも、阿部はとっくに気づいていた。佐久間の言葉に、行動に、心をかき乱されるのは、決して嫌なことじゃない。むしろ…。
(…いや、だめだ!このままじゃいけない!)
思考が甘い方へ流れそうになるのを、阿部はぶんぶんと首を振って打ち消す。認めたら、負けだ。
(そうだ。悔しいなら、やり返せばいいんだ。僕だって、やればできるはずだ…!)
そう思った瞬間、阿部の中で、今まで燻っていた何かが、カチリと音を立てて燃え上がった。
「でも、次こそは…!」
ガバッ!
阿部は勢いよくベッドから起き上がった。月明かりに照らされたその瞳には、クイズ番組で難問に挑む時と同じ、いや、それ以上の闘志の炎が宿っていた。
「次こそは僕が佐久間を完敗させてやる…!」
ただ赤面させるだけじゃない。
「僕の一撃で、顔を真っ赤にして、言葉を失わせてみせる…!」
宣言と共に、阿部はベッドサイドの電気をつけた。煌々と照らされた部屋の中、彼は迷いのない動きで机に向かうと、真新しいノートと、一番書きやすいお気に入りのペンを手に取った。
ノートの表紙に、彼は丁寧な、しかし力強い文字で、こう書き記した。
『対・佐久間大介 完全勝利マニュアル』
ここに、Snow Manのインテリジェンスが、その知の全てを懸けて挑む、壮大な作戦が静かに幕を開けたのだった。