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くるみちゃんママ、もとい、千夏さんの家から帰って洗濯物を取り込み、晩御飯の用意をする。
「おかあちゃん、ごはんなに?」
「何が食べたい?」
「ハンバーグ!」
「わかった、美味しいハンバーグね」
「わーい♪」
いつもの日常、いつもの夕方。
可愛い息子。
こんな変わらない風景がずっと続くと思ってたけど。
変わったのは健二に対する私の気持ち。
もしかすると、健二の私に対する気持ちも変わったのかな?
結婚して子供が産まれても、ずっと同じ気持ちでいられると思ってたのは妄想だったとわかった。
翔太が産まれて、私の中の一番大切な人が健二から、翔太に変わってしまった。
でも、健二はその次で大切な家族であることには変わらない。
でも健二は?
翔太が一番だとしたらそれは当然だけど、私は何番め?
マリという女は何番め?
あれこれ考えていたらハンバーグを焦がしてしまった。
煮込んでしまえっ!
「ただいま!翔太、これお土産だぞ!」
玄関を開けると同時に翔太に戦隊ヒーローのお菓子を渡す健二。
私のほうは見ない。
「おかえり!今日は早かったんだね」
「ん、うん、まとめて片付けちゃったからね」
「残業もあって早朝会議もやって、今日は疲れてるんじゃない?」
「?!……あ、そうそう、朝早くてまいったよ。もう眠いから先に風呂入るわ」
なんなんだろ?今の『間』は。
会議も嘘かもしれないなと思った。
ご飯を用意してるフリをしながら、健二のスマホを探した。
仕事に持っていくバッグにあった。
暗証番号は、最初は私の誕生日だったはず。
エラー。
だよね。
そのあとは健二の誕生日、翔太の誕生日、結婚記念日…。
全部エラー。
もっと単純に番号をZになぞる、違う。
縦横になぞる、違う。
同じ数字を並べる、違う。
「パジャマがないよー」
「あ、いま持ってく!」
私は慌ててスマホをもとの位置にしまった。
「あー、さっぱりした。お?今日はハンバーグか?」
「おとうちゃんもハンバーグすき?」
「うん、おかあちゃんのハンバーグは美味しいもんな。ハンバーグも!だけどね。さ、食べよっか」
なんとなく無駄に私をヨイショしてるようで、気持ち悪い。
「今日はサービス!頑張ったおとうちゃんにビールもう一本追加!はい、どうぞ」
「お?いいねぇ、今日は暑かったからビールが美味いわ」
ご飯を食べて、翔太に絵本を読み聞かせてくれる健二。
おとうちゃんとしては、申し分ない。
寝かしつけながら、一緒に寝てしまった健二を、そっと転がす。
起きない。
私は自分のスマホをカメラにして、健二のスマホを持ってきた。
指紋認証。
右手の薬指でロックがはずれた。
すぐに離れて、LINEを見る。
寝言で言ってしまったことを、マリに話したようだけど、その前のやり取りは残ってなかった。
残されてた今日の昼間のやり取りを写真に残す。
健二『マリちゃん💕今度はいつ会える?』
マリ『わからない』
健二『来週も行っていい?もう、毎日でもマリちゃんを抱きたい❤️』
マリ『私の名前を寝言で言ってしまって、奥さんは?』
健二『あいつのことなら、大丈夫、なんたって俺に惚れてるから疑ったりしないよ』
マリ『女って意外と鋭いよ、特に奥様に進化した女はね』
健二『進化?いや、あれは退化だろ。女としては』
マリ『そんなことより、このやり取りも残さないでね』
健二『ロックしてるから大丈夫』
マリ『あまい!とにかく削除して』
健二『わかったよ。じゃ、俺のこと好きって言って!俺はマリちゃん💕のこと、大好き❤』
マリ『おやすみスタンプ』
ふーーん。
サービス残業は、マリって女にサービスしてたってことか。
一つ一つ、叩き起こして説明してもらいたいけど、今は翔太の寝顔を見て、ここはグッと我慢する。
……にしても、女としては退化?
あーーーっ!!
イライラする。
私が健二に惚れてるから、疑ってないと?
ダメだ!
どうしよう、この腹立たしさは誰に言えば?
悶々としたまま朝になった。
2日続けて眠れない夜は、さすがにまいる。
何事もなかったように、それでも笑顔を作ることはせず仕事に送り出す。
離婚しないと気が済まないかもしれない。
とりあえず離婚経験者のお母さんに話してみよう。
〈おはよう!今日朝、行ってもいい?話しがあるの〉
ぴこん🎶
《仕事行くまでならいいけど。翔太も来る?》
〈翔太もばぁばに会いたいってうるさいのよ。連れてくわ〉
簡単に家事を済ませて、翔太と実家へ向かった。
お母さんは午後からのパートに出かける前だった。
翔太の大好きなホットケーキを焼いてくれていた、生クリームたっぷりで。
私はお母さんと二人分のコーヒーを淹れる。
「はい、どうぞ」
「ありがとう、で、話ってなに?」
「あの…さ」
「なに、言いにくいこと?」
「アイツ、うちの旦那浮気してたの!」
「え?」
「最近、夜誘ってこないし、疲れてるのかなって思ってたんだけど。こっちから誘ったの、アイツは半分眠りかけてたんだけど。そしたらアイツ、なんて言ったと思う?」
「なんて?」
「まだしたいの?マリちゃん、だって!私は綾菜だよ!マリって、誰?」
思わずテーブルをバン!と叩いてしまった。
「おかあちゃん、おこってる?」
「ごめんごめん、おかあちゃんは怒ってないよ。それで?健二君はなんて?」
「寝言だって!それから、LINEのやり取りも見てやった」
「健二君、ロックしてなかったの?」
「そんなもの、指紋で見れたよ」
「あまいなぁ、健二君は」
「はぁ?そこ?違うでしょ!とにかくあったわけよ、LINEが。ハートいっぱいで。また会いたいとか、大好き!とか」
「あーぁ、やらかしてるね」
「でね、何が一番頭にきたかって、アイツの返事、あの一言!」
「なんて書いてあったの?」
「奥さんは大丈夫?ってマリからのコメントにね、嫁のことは心配いらない、アイツは俺に惚れてるから疑ったりしない、だって。その上女として退化してるって!バカにされたもんだわ!!」
そこまでしゃべって、コーヒーを飲んだ。
「で?どうするの?」
「離婚する!」
「ちょっと待って、綾菜、まだ完璧な証拠はないから、早まっちゃダメだよ」
「証拠ならLINEがあるじゃん?ちゃんとスクショしといたよ私」
「LINEなんて、ふざけてやり取りしましたって片付けられたら終わりだよ?もっとちゃんとした…たとえばホテルに入ったとか、彼女のためにお金を注ぎ込んでるとかの証拠、LINE以外の確実な」
そうか、やっぱり確実な証拠か。
「そうか、それがないと慰謝料とか取れないよね?てか、お母さん、詳しいじゃん、相談してよかった」
「翔太のことも考えて落ち着いて。ね!」
ふーっと深呼吸する。
もしも離婚したらここに帰ってくればいいんだ。
そう思うと少しだけ気が楽になった。
「あれ?あの人は?仕事だっけ?」
お母さんの旦那さん、私にとっては義理のお父さんだけど。
「なんかね、長期の出張だって、今日から半年くらい」
「そうなの?じゃ、お母さん、羽伸ばせるね、自由じゃん?」
たとえば、健二とも離れて生活していたらこんなに腹が立ったりしなかったのかな、なんて思った。
でも、私には翔太がいる。
この子のためにも、しっかりしないといけない、あらためてそう思った。