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負傷者の治癒と死者の弔いを手早く済ませたマリアは、迷いを抱きながらもスタンピードによる悲劇を食い止めるため先へ進むことを決意する。
「ここで止まるわけにはいかないものね……止まれば被害が増えるだけ。ダンバート、さっき話してた黄昏って町はどうなってるの?」
「ちょっと待って」
マリアに尋ねられたダンバートは空に視線を向ける。空を飛ぶグリフィン達と意志を交わすためである。二分程度空を眺めていたダンバートは、視線をマリアへと戻す。
「いやぁ、スゴいわ。四百の群れ相手にかなり頑張ってるみたいだよ?今乱戦に持ち込んだみたい」
「それは凄いわね。指導者には是非とも会ってみたいわ」
ダンバートから話を聞いたマリアは黄昏の町と『暁』に強い関心を抱く。それこそ指導者に会ってみたいと思う程度には。
だが暁の代表、つまりシャーリィが『勇者』であることを知っている魔族達はそれに難色を示す。
ダンバートはそれを悟られぬよう、然り気無く話題を変える。
「んー、今は目の前の問題に対処しようよ。獣王を倒さないとその人間達の頑張りも無駄になっちゃうからね」
「……そうね。今は目の前の問題について考えないと。この先はどうなると思う?ダンバート」
「普通に考えて、やっぱり決戦だろうね。獣王が話し合いに応じるならそれでいいけど、それなら襲って来ないだろうし」
「私だって、今さら引き下がれないわ。必要なら戦う覚悟立ってある。もちろん迷いはあるけど…」
杖を握りしめながらも迷いを見せるマリア。
「それで良いと思うよ。そもそもお嬢様は優しいんだから、戦いには向かないんだしね。さっきの戦いで不甲斐ないところ見せちゃったけどさ」
「そんなこと無いわ。皆はちゃんと私を護ってくれた。この先がちょっと不安だけど」
マリア達の誤算は、獣王に付き従う獣人の数が多すぎたのである。
「この先にはまだまだ獣人が居るだろうね。さっきだって少なくない人数を逃がしちゃったし」
ダンバートも『ロウェルの森』の奥地へ視線を向けながら肩を竦める。
「ダンバート、勝てる?」
「勝てるよ。ただし、完全に滅ぼすには勇者の力が必要だよ。前回は勇者に破れて魔王様に封印されたんだから。封印に留めたのは魔王様の慈悲だね。勇者にお願いしてたからさ」
ダンバートの言葉を聞き、マリアは目を閉じて記憶に向き合う。
「……『彼』は獣王が改心することを望んでいたわ。獣人との融和を本気で目指していた。そんな彼の願いを、獣王は踏みにじったのね」
「そうなるね。怒った?」
「いいえ、悲しいだけよ」
マリアは首を横に振りながら答える。その姿に魔王を重ねたダンバートもまた、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
そこへ、見回りをしていたゼピスとロイスが戻る。
「お嬢様、皆の士気は天を突かんばかりです。今すぐにでも行進を再開できるでしょう」
「この先にある危険は皆承知している。それでも倒れた同胞のため、なによりお嬢様のために奮起している。問題はない」
「ありがとう、ゼピス、ロイス。休憩はここまでよ。警戒しながら奥地へ向かいます!」
同じ頃、奥地にある遺跡では復活した獣王ガロンが獣人達から報告を受けていた。
『魔族の一団だと?しかもそれを率いるのは人間の小娘か』
「ははっ!奴等滅法強く、少なくない犠牲を出してしまいました!」
平伏すのは先の襲撃を指揮した熊の獣人ドムア。
「そんな一団に破れ去ったと言うのか?ドムア。何と不甲斐ない。よくもまあ、おめおめと我らが君の前にその醜態を晒せたものだな!」
詰るのは狼の獣人ガルフ。
それをバロンが制する。
『止めよ、ガルフ。我は不測の事態故の失態を咎めはせぬ』
「はっ」
ガルフも膝をつき頭を下げる。
『ドムアよ、我は一度の失敗は許す。その一団は引き返したか?』
「いえ、ここへ向かってございます。畏れ多くも、我が君にお会いしたいなどと戯れ言を述べておりました」
「我らが君に?人間の小娘風情が!?何と傲慢か!」
『ほう、我に会いたいか。良かろう、会ってやろうではないか。ただし、ここまで来ることが出来れば、であるがな』
「御意。ドムア!二度目はないぞ!こんな場所で止まるわけにはいかんのだ!不届き者を必ず始末しろ!」
ガルフの叱責に対してドムアも肩を怒らせる。
「言われるまでもないわ!我が君、その小娘の首を必ずや御前に!」
『働きに期待しておる』
「ははっ!」
遺跡を辞したドムアは、配下の者達を集める。そして忌々しそうにガルフを詰った。
「ガルフめ!獣王様の寵愛を良いことに調子付きおってからに!」
「アイツだけじゃねぇ!他の狼の奴等もデカい顔をしてやがる!」
「さっきだって俺達が身体を張ったのにアイツらが不甲斐ないから負けたんだ!」
熊獣人達は怒りを露にする。獣人とは言えその部族は多種多様であり、熊獣人と狼獣人は古来から対立関係にあった。
獣王ガロン復活の手引きをした狼の獣人ガルフにより、狼獣人達は増長しそれに熊獣人達は不満を持っていたのだ。
「安心しろ、このままじゃ終わらせねぇよ!あの小娘の首を手土産に、ガルフの野郎に一泡吹かせてやる!野郎共!今度は様子見もなしだ!」
「「「応っっ!!!」」」
熊獣人を主体として五百を越える獣人達がマリア達を迎え撃つべく森を北上する。
そして黄昏南部陣地では。
「自動車を一台用意してください!セレスティン、後始末を任せます」
「御意」
ブラッディベアを打ち倒し、群れを完全に殲滅したシャーリィはセレスティンに後を任せて自動車を用意するように命じる。
それに驚いたルイス、ベルモンドが駆け寄る。
「自動車?どっか行くのか?シャーリィ」
「『ロウェルの森』へ向かいます。直ぐに向かいたいので、自動車を使おうと思います」
「はぁ!?なんでだよ!?」
「勇者様のお力を使ったからでしょうか?感じるのです。あの森には、私の敵が、滅ぼすべき相手が居ます」
「なんだって……?」
じっと南を見つめるシャーリィにルイスは言い知れない不安を覚えた。
「お嬢の感覚はわからねぇが、少し休んでからじゃダメなのか?妹さんも休ませたままだしな」
「ベル、速やかに対処する必要があるんです。このスタンピードは人為的なものです」
「……なに?」
ベルモンドはシャーリィの言葉を聞いて目を細める。
「確かに感じるんです。あの元凶を叩かないと、また私の大切なものが奪われる。今すぐにでも滅ぼしたい」
まるで熱に浮かされたような視線を向けるシャーリィに、ベルモンドは一瞬迷うが直ぐに判断を下す。
「わかった」
「ベルさん!?」
「ルイ、こうなったお嬢は聞き分けが悪い。その代わり、俺達も一緒に行くからな」
「もちろんです」
「ーっ!わかったよ!無茶はすんなよ、シャーリィ!」
シャーリィもまたベルモンド、ルイスを連れて『ロウェルの森』へ向かう。戦いは新たな局面を迎えていた。