テラーノベル
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「やぁ、私が最後みたいだな」
焦るふうでもなく、彼女は挨拶代わりのように話しかけてきた。
普通は『あー、遅刻するかと思っちゃった~、こんにちは』くらいの挨拶をするのでは?
あとはさぁ、『今日は晴れてて良かったね』とか、地味にお天気の話で
会話を繋ぐものなんじゃないの。
……な~んて私も一人目の子で他のお母さんたちとの遣り取りは
未経験なんだけど。
脳内で彼女に対して非難めいたことをあれこれグダグダ考えながら
目の前の人の行動を見ていたら……彼女、あとは余計なことは話さず、
さっさと先生のところまでプランターを貰いに行ってしまった。
いけないっ、私ったら後から来た人に負けてるじゃないの。
悔しい~。
だけどこんなことに闘志を燃やす私って小さい人間だわ。
いやだぁ、もう。
今日の私の出で立ち、土いじりするから洋服コーデは
ブルージーンズに白の長袖チュニックにした。
対して彼女、大林さんはというと、黒のTシャツにインディゴの
スリムパンツ、Tシャツの上にはマフラーのような丈長めのタイのような
形状のものを鎖骨辺りで結び目を作りそのまま下に垂らしている。
なんなのなんなの、そのモデルが纏うようなコーデ。
しかもタイは実に彼女に映えてる。
颯爽と現れた瞬間からただのTシャツとパンツを纏った彼女は
皆の目に特別な人間として異彩を放ち、私をも
いろいろと困惑させたのだ。
私はどうして困惑などしたというのか?
園の行事と言えばまだ入園式と今回のふれあい保育で2回しかないと
いうのに、振り返ってみれば、一度目と今日では彼女に対する心象は
明らかに違うけれど『困惑した』という点においては同じだ。
お迎えの時など、ふたりの時には感じないもの、明らかに私は
周囲の婦女子の熱に煽られているのかもしれないと気付いた。
私ったら影響され過ぎ。
大林さんは女性で宝塚には入団してなくて、男役のスターでもない。
ただの一主婦なんだから、周りに煽られてるんじゃないわよ苺佳。
そんな風に私は自分にカツを入れた。
比奈ちゃんと眞奈が仲良しなので必然的に私たち親子は
二組で一塊みたいな形になってプランターに苗付けをしていった。
なるべく眞奈にやらせようと私は口だけでサポートして
最初見ているだけだった。
片や、大林さんってば、楽し気に比奈ちゃんと一緒になって手際よく
ドンドコドンドコ苗の植え付けを進めていき、あっという間に
ほとんど終了させてしまった。
彼女は手を動かしつつ、比奈ちゃんとおしゃべりをし、眞奈にまで
話かけたりしてくれた。
その様子を眺めていた時、私の脳裏に病院で脚を診てもらった時のことが
ふと蘇った。
あの時も彼女の細くて長い指がきれいな動きをしていたなぁ~とか、
本当にこの人の手はほどよいバランスを保っていて、ずっと見ていたいと
思わせる手の造形をしているなぁ~とか。
◇ ◇ ◇ ◇
「ね、そろそろ動かないとやばいんじゃないの?
眞奈ちゃん、だいぶ遅れてるよ」
彼女の声ではっと我に返り、私は焦りまくり。
『えーっ、ずるい。うちの眞奈なんて1苗終わっただけなのにさぁ。
いいわけ? 親がほとんど手伝って楽しむなんてー』
ぶつくさ心の中で呟きながら周りを見渡すと、あれぇ~、みんな
手伝ってるぅ~。ひどーい。
「ねぇ、なんで子供だけにやらさないで手伝っちゃうの?」
「何言ってんだよ。ふ・れ・あ・い保育だろ。親と一緒にやるんだよっ。
苺佳も早く眞奈ちゃん手伝ってやりな」
「んもうっ~、しょうがないなっ。大林さんには敵わないよ」
◇ ◇ ◇ ◇
眞奈と並んでプランターに入れた苗の上から一生懸命土を被せてるうちに
手がドロドロになったので手洗い場に向かった。
手を洗ってると2人のお母さんたちが寄ってきた。
手を洗うのかと思いきや、洗わず私に問いかけてきた。
「ねぇ、眞奈ちゃんのママはいつの間に比奈ちゃんママと仲良くなったの?
昔からの知り合いだとか?」
「え~と、昔からっていうほどでもないんだけど、その……」
「彼女、むちゃくちゃ雰囲気あって中性的魅力っていうの、素敵よね~。
仲良しでうらやましいなぁ~」
「いえ、仲良しってほどでもない……ン……」
「ちょっと薪田さん、子供たちが何か呼んでるみたい」「あらまっ」
「もっと彼女のこと、いろいろ訊きたかったんだけど。
古家さん、じゃあまたね」
「はい、また」
疲れたぁ~。先が思いやられるわー。
早くしないとうちだけ遅れてるからと内心焦りまくりながら、
貴重な時間をおばさんたちに取られて少し腹立たしいなどと毒づきながら
小走りで眞奈のところへ戻った。
◇ ◇ ◇ ◇
苗付けに集中しようと作業を始めると「ママ、瑤ちゃんが手伝ってくれたんだよ」と
眞奈から報告があって、『ありがとう』と言い掛けたのに対して──
少し残してほぼ終わりかけのプランターの中の苗を弄っている人から
声が掛けられた。
設楽理沙
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都築七美
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コメント
1件
お疲れさま~!第7話読んだよ📖 大林さんの登場シーン、かっこよすぎて私まで苺佳と同じように困惑したわ(笑)黒T×インディゴスリムパンツにタイっていうコーデ、マジで一主婦の園行事の格好とは思えん…宝塚の男役スターって言われても納得するレベル✨ 子供と一緒に苗植えする場面で、苺佳が内心で焦りつつも大林さんに「敵わない」って認める流れ、めっちゃ共感した。ああいう自然な距離感、いいなあ。続き楽しみにしてる🔥