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しっかり眠れば、朝もしっかり頭が冴える。
それはとても当たり前のことだけど、そう過ごせなかった経験を持つ人間にとっては、とてもありがたいものだ。
……毎日毎日、悪夢を見てしまう――とかね。
今日からはアイーシャさんと話した通り、『野菜用の栄養剤』を作っていくことになる。
まずはクレントス中にある素材を集めて作って、そのあとは冒険者たちが採集してきた素材を使って作る……という具合だ。
作ること自体は簡単だけど、素材のやり取りや納品があるため、私は錬金術の工房をひとつ借りることにした。
その工房は、以前訪れたことのある場所なんだけど――
「――師匠!」
「あ、レティシアさん。お久し振りです」
私が工房に入ると、すでに知った顔が3人いた。
その中で、声を掛けてくれたのは私の弟子……とは言っても会うのは2回目だけど、活発な感じの錬金術師の少女だ。
……2週間振りくらいかな?
「お久し振りです! 王国軍との戦い、私のところにも師匠の武勇伝が伝わってきましたよ!
魔星クリームヒルトと戦ったって……!」
「いやいや、結局は他の人が倒しましたからね? 私は近くまで付いていっただけです」
「そうなんですか? それでも錬金術師が戦えるだなんて、とても信じられません!」
「錬金術って、極めれば凄いんですね!」
「さすが神器の魔女さま!!」
レティシアさんの言葉に、隣の錬金術師たちも好き勝手に追随する。
戦場では魔法が主体だったから、錬金術を極めても戦いにはあんまり――というツッコミは胸にしまっておこう。
「ま、まぁ……そうですね。錬金術は可能性に満ちていますから……」
「さすがです、師匠!」
「――っと、それは置いておいて。
今日はここで『野菜用の栄養剤』を作る予定になっているんですけど、みなさんは何を?」
「はい、今日は師匠のお手伝いをするように言われて来ました!」
「何でもお申し付けください!」
「いろいろとご指南ください!!」
「む、そうなんですか。
でも今回は大量に捌いていかなければいけないので、何か教えるのはまた次の機会にしたいんですけど――」
「「「分かりました!」」」
うおぅ。今いるのは3人だけど、無駄に息もぴったりだ。
レティシアさん以外の2人は年上の男性で、性格も素直な感じ。
単純作業とか肉体作業ばかりになりそうだけど、この人たちなら我慢してくれるかな?
「ところで師匠、用意できる分の素材は搬入が終わっていますよ!
私たちは参加していませんが、夜中にクレントス中からかき集めたそうです!」
「え、夜中に?」
「中には文句を言う人もいたようですが、これからの食事情に関わることですからね。
早く作って、早く農家さんに届けて、早く農作物を作ってもらって――ということかと思います!」
……確かに、一刻を争う問題だからね。
1日や2日遅れたところで致命的にはならないけど、早く終わらせれば、それだけ作物が早く収穫できるのだ。
「それではもりもり作っていきますか。
みなさんにお願いすることは決まっていませんが、進めながら決めますね」
「「「はい!!」」」
うーん、返事が何とも気持ち良い。
それに報いるためにも、私も頑張ることにしよう!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
バチッ
「……っと、こんな感じかな」
素材をあるだけ使って、100個ほどの『野菜用の栄養剤』を作ってみる。
例のごとく、作るのは一瞬だ。
「相変わらず、師匠の錬金術はよく分からないですね。
何でこう、一瞬で作れてしまうのでしょう……」
「……世界がそう出来ているから?」
「おぉ、何とも深いお言葉です!」
私のこのスピードはスキルのせいだから――つまり現実的にこうなっている、だから世界のせい……となるわけだ。
元の世界では、この世界で言う『スキル』なんていうものは存在しなかったからね。
「アイナ様。素材の量の割に、これだけしか作れないのですね……」
そう聞いてきたのは、錬金術師の男性の1人だった。
「そうなんですよ。効果が高い薬だから、量があまり作れないんです。
でも少量で高い効果がありますし、これで大丈夫だと思いますよ」
「なるほど、そうだったんですか!」
「ふふふ♪ 師匠に死角などあるはずな~いっ!!」
何故か自信満々に言い放つレティシアさん。
やめてください。フラグを立てるの、やめてください。
「それはそれとして、今日の作成分は終わってしまいましたね。
これから何をしましょう」
「師匠……。まだ30分も経っていないんですけど……」
「まぁまぁ、本番は明日からということで!
ところで急いで素材を集めたっていうことは、急いで配りたいってことですよね?
誰がどう配るとかって、もう決まっているんですか?」
「その辺りは聞いていませんが、昼過ぎにアイーシャ様の遣いの方が取りに来るそうですよ」
……昼過ぎかぁ。
まだ2時間以上あるから、それを待つのも時間の無駄かな……。
さて、それまで出来ること……、出来ること――
「……あ、そうだ。それなら簡単な説明書でも作っておきましょうか。
使い方を知らずに、バシャーって使われたら無駄になっちゃいますし」
「確かに、農家さんに届く間に伝達ミスがあるのは避けたいですね。
さすが師匠、死角がない!」
「あはは。それではその準備をお願いします」
「「「はい!!」」」
――とは言うものの、レティシアさんに何も言われていなかったら、何も浮かばなかったかもしれない。
説明書の作成は彼女の立てたフラグを避けようとした結果だから、実はレティシアさんのおかげだったりするのだ。
「……いやぁ、私の弟子は気が利くなぁ」
「え?
えーっと、褒められました? やったー!!」
不思議そうな顔を見せてから、レティシアさんは良い笑顔を見せた。
やっぱり笑顔が一番だ。みんながそんな顔をできる日が、早く来てくれると嬉しいな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
昼過ぎまでに、全員で説明書を50枚ほど作成することができた。
説明書とは言っても簡単な内容だし、スピード重視だから文字は少し荒れているけど、この時点においてはきっと百点満点だろう。
「アイナさーん!」
「あ、エミリアさん。どうかしましたか?」
ひと段落して休憩をしていると、扉の外からエミリアさんが現れた。
昨日酒場で絡まれたこともあり、工房の外をルークとエミリアさんに護ってもらっていたのだ。
……この二人の護りは、なかなか突破できないからね。
「あの、アイーシャさんの遣いという方が見えられたんですが」
「お、来ましたか。
聞いた話によれば、その方に今日作ったものを納品するそうなんです」
「そうなんですね!
えーっと、あそこにある荷物ですか? 重そうですけど、取りにきてもらいます? こちらから持っていきます?」
「持っていきます!」
「持っていきましょう!」
「仕事をください!!」
「うわぁっ!?」
エミリアさんの質問に、錬金術師の三人衆が元気良く答えた。
今日やったことは説明書を書くだけだったから、仕事が足りなかったのだろう。
「みなさん、お元気ですね!
それではアイナさん、遣いの方にはそのまま待ってもらいます。
外に出てすぐのところにいますので、そこまで持ってきてください!」
「分かりました。
それではみなさん、よろしくお願いします!
……ゆっくりで良いので、落とさないようにだけ気を付けてくださいね」
「「「はい!!」」」
……今回の『野菜用の栄養剤』はそれなりの距離を運ばれるだろうし、容器のことももう少し考えても良さそうかな?
ガラス瓶だと、たまに割れちゃうこともあるし……。
容器本体ではなくても、例えば梱包材みたいなのを作ってみるとか?
元の世界で言うところの『ぷちぷち君』みたいなやつ……。
『付箋』もダグラスさんには好評だったし、もしかして『ぷちぷち君』も喜ばれるのでは……!
……あと、久し振りにぷちぷちしたいというのもあるかもしれない。
あれって正直、クセになるからね……。