蓮Side
「……よくやりましたね、目黒様。まさか本当に彼らをここに連れてくるなんて」
パチパチパチ、と広い部屋に響く乾いた拍手。部屋の真ん中に空いた穴を見て、俺は呆然と立ち尽くしていた。
……俺が、みんなを落とした。
🖤「……言われた通りに、やっただけなんで」
俺はこの動揺を隠すため、フリーズの方を一切見ずに言った。気づいていないであろうフリーズは俺の返答にフフフ、と笑いながら言う。
「本当に良い人材を手に入れました……では目黒様、あなたに次の仕事を」
そうして俺に渡してきたのは、カードキーと液体の入った瓶。何かの、薬品か……?
「先ほど彼らに見せたあの装置を元の場所に戻してきてください」
あの装置……ふっかさんと、あべちゃんの。これはチャンスかも。
「ラボラトリーの場所は、分かりますよね?」
🖤「うん。移動させるだけっすか?これは……」
「その薬品はついでです。使用しないでくださいね」
🖤「了解です」
俺はラボラトリーのカードキーと薬品を持って、あべちゃんたちの装置に向かった。
装置の下には滑車が付いていて、押すだけで移動が出来るようになっていた。水槽の中にいる2人は、本当に辛そうで……
🖤「もうちょっと、こらえてね」
俺は2人に向けて呟き、装置の移動を始めた。
ラボラトリーに入り、部屋の中と外、近くに誰もいないことを確認する。……うん、大丈夫そう。薬品を足元に置き、装置の電源を素早く切った。
水槽の蓋を開けて、2人を引っ張り出す。中に入っている水は見せかけだけで、2人は全く濡れていなかった。
🖤「え、濡れてないってどういうこと?これ、水中でやるのが効果的って言ってたじゃん……」
効果を弱くしてまでも2人を濡らさないということは……力をある程度奪ってから、別の計画に2人を使おうとしていた?それか、力を奪うことは重要じゃなかった……?
アイツのことだから、何をするか分からないけど。もし奪うことが重要でないのだとしたら、みんなを脅して『カナシミ』を生み出すため、としか考えられない。
🖤「そんなことのために、あべちゃんとふっかさんを……」
許せない。大切な仲間なのに。タイミングが無かったとはいえ、2人をもうちょっと早く助けられたら良かったのに……
🖤「あべちゃん、ふっかさん!大丈夫……?!」
2人を優しく揺り起こすと、
💜「めめ……」
ふっかさんが先にうっすらと目を開けた。
🖤「ふっかさん……!」
💜「ここは……?」
🖤「アイツの拠点です。今この近くには誰もいないんで、安心してください」
💜「拠点……」
ふっかさんは少しずつ今の状況を把握してきたようだ。
💜「あべちゃんは?」
🖤「無事です。まだ起きてないけど……」
💜「そうか、とりあえず無事なら良かった……」
そう言って、ふっかさんは優しい表情を浮かべ、隣で寝ているあべちゃんの頭を撫でる。その間に薬品を棚に戻していると、ふっかさんが突然俺の方を向いた。その目は、真剣だ。
💜「もしかしてめめってさ、今”あの作戦”……」
🖤「あー、うん。ふっかさんの”あの作戦”、実行してるよ」
さかのぼること数週間。仕事終わりの俺の元に、ふっかさんから電話がかかってきた。
🖤「もしもし。どうしたの、ふっかさん」
💜「あー目黒、今大丈夫?」
🖤「なんかあったんすか?」
💜「んー、なんかあったというか……ちょっと協力して欲しくてさ」
🖤「協力……?」
そうしてふっかさんが話してくれたのは……
ふっかさんの元にフリーズから手紙が届いたこと。
今からフリーズと1対1で会うということ。
その時に、ふっかさんがフリーズの味方になるフリをしてヤツらの拠点に乗り込むこと。
そこであべちゃんを見つけ出して助けること。
そしてこの計画に……
💜「目黒も一緒に来てほしいのよ」
🖤「俺もっすか……?」
💜「何があるか分かんないからさ。もしかしたら俺もやられちゃうかもだし……それにめめの能力なら、この作戦完ぺきに出来ると思うんだ」
俺の能力『フローズンアクター』。確かに、ふっかさんの考えたこの作戦にピッタリな能力だ。
それに、あべちゃんを今すぐ助けに行けるなら……!
🖤「分かりました、俺もやります」
💜「よっしゃ、ありがとう!」
🖤「みんなには言わなくていいの?」
んー、とふっかさんは電話の先でうなる。
💜「……言わないで、おこっかな」
🖤「え」
みんなに黙って、この作戦を?それだとあまりにも危険が伴う……そんな俺の考えを見透かしたかのように、ふっかさんは理由を口にした。
💜「だってさ、言ったらみんなも一緒に来て、ガッツリ戦うことになるでしょ?なるべくビル壊したりとかしたくないし……少人数であべちゃんのとこに行く方が速いと思うんだよね。それに、」
🖤「それに……?」
💜「……みんななら、絶対助けに来てくれる」
🖤「……!!」
💜「俺たちに何があっても、絶対助けに来てくれるんだよ、あいつらは。黙って行くのはすっごい嫌だよ? でも、少人数で敵のスキを突く方が、確実にあべちゃんを助けられる」
ふっかさんは、俺を……みんなを信用して、相当な覚悟でこの作戦に望んでいる。だったら俺も、覚悟を決めないと。
信頼しているからこそ、出来る作戦。
🖤「確かに、そうですね。敵を欺くなら、まずは味方から……ってとこか」
💜「そ。そゆこと。……あーでも、もう1人くらいこの計画知ってる人がいた方がいいか」
🖤「その方が、安全かも」
💜「だよな。ならこういう時は……舘さんかな!秘密とか絶対守ってくれるし、ポーカーフェイスとか得意だし?」
🖤「たしかに 」
💜「……照に怒られないといいんだけどな」
🖤「あー……」
ふっかさんは、過去に単独行動をして岩本くんにめちゃめちゃ怒られたことがあるらしい。俺は全然知らなかったけど……確か、その時ふっかさんを庇ってくれたのも、舘さんだったんじゃなかったっけ。
💜「じゃ、ちょっと舘さんに作戦のこと伝えとくわ。俺とめめで行ってくるーって」
🖤「お願いします。俺今仕事終わったばっかなんで、○○ビルに着くの遅くなっちゃうかもです」
💜「りょーかーい。俺先に行ってるね。なんかあったらテレパシーする!」
🖤「おっけーです」
それから、俺があともう少しで○○ビルに着く、という時。
💜『めめ、ごめん……』
🖤「え、ふっかさん?!ふっかさん!!」
不意に、ふっかさんからのテレパシーが入った。ごめんって、まさか……!
ふっかさん!と呼びかけても、もう返事は来ない。
そして俺が屋上に着いた時……ふっかさんは倒れてしまっていて、ちょうど連れて行かれるところだったのだ。あべちゃんの鞭が落ちていることから、ここにあべちゃんもいたと分かる。
想定外の何かが起こったのだと理解した俺は、”あの作戦”……敵側に回るフリをして、あべちゃんを助けに行く作戦を、実行した。
💜「マジでごめん……1人で背負わせるつもり、なかったのに」
🖤「俺は全然大丈夫。いろいろ上手くいってるよ」
💜「めめはほんと凄いよ……ありがとうね。俺ももっと、頑張らないとな」
🖤「いやいや。ふっかさんは十分頑張ってくれてますよ」
💜「えぇ?そうかなぁ……」
🖤「そうだよ。……あ、じゃあここは危険なんで、俺の部屋であべちゃんと休んでてください」
💜「めめの部屋!いいの?」
🖤「いいも何も、いてください。あそこは安全なんで。机にラウのポーションも置いてるんで、あべちゃんに飲ませてあげてください」
💜「おっけ……めめ、もうちょっとだけ、頑張って。あべちゃんも回復したら、すぐめめのとこ行くから。一緒に反撃しような」
🖤「ありがとう。待ってます」
ふっかさんに部屋の方向と距離を教えると、ふっかさんはあべちゃんを連れてテレポートで移動した。ラボラトリーに残った俺は、『アイスパペット』という技でふっかさんとあべちゃんの身代わり人形を作った。これらを水槽に入れて、装置を再起動。
🖤「バレないかな……大丈夫か」
最後に薬品をもう一度確認して、俺はラボラトリーを後にした。
「……そういうことだったんですね」
暗い部屋の中で水晶玉を見つめるフリーズ。その水晶玉の中には、先ほどまで目黒がいたラボラトリーが映っている。
「薬品が罠と気づかないとは……彼らもまだまだですね」
ニタリと微笑むと、隣に立てかけてあるステッキを手に取った。
「目黒様が突然『仲間になりたい』と言ってこられた時は驚きましたが……やはり、彼らの仕組んだ計画だったのですねぇ」
フリーズがトントン、とステッキで床を叩くと、部屋の中に部下が1人入ってくる。
「……6人がここに戻って来れないようにしろ」
「かしこまりました」
部下が部屋を去ると、フリーズは再び水晶玉を触る。今度は、目黒の部屋にいる深澤と阿部が映し出される。
「さあ……お遊びはここまでです」
そう言って立ち上がったフリーズは、部屋の奥の暗闇へと姿を消した。
(続く)
コメント
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やっぱり悪魔はどこかしらで監視してる、 上手くいくと思ったんだけどなぁ… めめにかかってる(?) 続き楽しみピーマンでありまth!!!
ちょっと遅れちゃいました!今回もハラハラドキドキしながら見れました!!やっぱりめめは裏切ってなかったー!けど敵がこれから何をするのか...続き待ってます👍