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再会した二人は、雨が上がるまで近くの喫茶店で話すことになった。
蓮の左手には、かつて自分が贈った銀の指輪ではなく、無骨な職人の絆創膏がいくつも貼られていた。
「ドイツで大きなプロジェクトに関わっていたんだけどさ。指を怪我して、もう図面が引けなくなったんだ」
淡々と語る蓮の瞳には、かつてのギラついた野心は消え、代わりに静かな湖のような穏やかさが宿っていた。
結衣は胸が締め付けられるのを感じた。彼女もまた、仕事に忙殺される日々の中で、何かを置き去りにしてきた感覚があった。
「私、ずっと後悔してた。あの時、行かないでって言えばよかったって」
「俺もだよ。でも、あの時の俺たちには、あれ以外の道はなかったんだと思う」
二人の間に流れる時間は、あの藍色の腕時計の秒針のように、ゆっくりと、しかし確実に再び動き出そうとしていた。