コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
散々な人生だったと思う。
父の命を悪魔に奪われ、呪いのような力を発現し、母との絆を裂かれ、死に別れた。
唯一残された片割れを必死に生かそうとして、そんなどうしようもない時に、キール兄さんと会った。…いや。嘘が下手くそな馬鹿みたいにまっすぐなクリウス殿下と会った。時々、呆れることもあったけれど、それでもキール兄さんが作り上げた偽りの家族が好きだった。
ーだから。
ニャヘマ「私達から、何回家族を奪えば済むわけ?いい加減にしなさいよ…!」
ニャヘマは、あちこちに散らばった死体の中に立ち、氷の剣を作り出す。
ニャヘマ「本当はこんな訳分からない力、使いたくなかったけど…せいぜい利用してあげる!」
(もう殆ど、この場に生き残ってる兵士は居ない。これなら、思い切り使える…!)
そして、ニャヘマは悪魔に切りかかる。
悪魔は尾でニャヘマを薙ぎ払おうするが、氷の壁に塞がれる。しかし、氷の壁は耐えきれず砕け散る。
ニャヘマ「咄嗟に避けたからいいけど…相当硬い…。」
(…こんなの勝てるの…?いや…!そんなこと考えててもダメだ。)
ニャヘマ「必ず…殺しきらないと…ってうわぁっ!?」
悪魔の尾が再び、ニャヘマに襲いかかる。
ニャヘマ「盾にしちゃったから、剣が壊れちゃった…!」
(近接戦だけじゃ無理だ。四足獣だから、行けると思ったけど…動きが早い。)
ニャヘマは、再び襲いかかる尾を飛び避け、新たに作り出した槍を腹に投げ込む。
ニャヘマ「刺さった…!あんたにとっての武器は、その尻尾だね。」
なら、やることは簡単だ。
ニャヘマが悪魔の腹に手をかざす。
槍の刺さった周辺の腹が、徐々に凍りついていく。
ニャヘマ(早く…早く…!心臓はどこ…!?)
悪魔は自分の置かれた状況に、呻き声を上げ暴れる。
ニャヘマ「もっと早く…うぅわあ!」
自身の方に倒れ込む悪魔からニャヘマは逃げる。
悪魔が地面に触れた瞬間、腹に刺さっていた氷の槍が砕け散る。
ニャヘマ「…自分の体重で壊した…!?」
(…これは…あきらかに知性の高い種類だ。)
ニャヘマ「じゃなきゃ…自分の体重で壊すなんて…そんなこと…」
思考を許すことなく、悪魔の尾がニャヘマに襲いかかる。
ニャヘマ「盾を…!」
ニャヘマは横から来た尾を、防ごうと即座に氷の壁を作り上げる。しかし、その氷が砕け散ることはなかった。
ニャヘマ「あ」
(フェイントだ。)
尾がニャヘマに届くことはなく、鋭い爪がニャヘマの左足に襲いかかった。
ニャヘマ「…っがぁ…!」
(痛い…尋常じゃなく痛い…!でも、ギリギリ関節は避けた…!まだ立てる…!歩ける…!)
ニャヘマは立ち上がる。
そんな絶体絶命的な状況の中、酷く落ち着いた声が聞こえた。
「君はボクのことをまだ覚えてくれているかい?」
後ろから迫ってきたその白髪の青年にニャヘマは息を飲む。それほどまでに、青年の存在の異質さを感じた。
アノ「あぁ…!この身体じゃ走ることすら、ままならん!本当にこれで動き回ってたのか…!?後で銀の童にこっぴどく叱られてしまえ…!」
(アマラは…しばらくは動けないだろう。)
アノ「…しかし、血の匂いが酷いな。」
(こちらに死体は転がってないが…入口の方か。早いとこ見つけねば。)
アノ「ここか。」
アノはアリィ達が、永夜の国で泊まっていた宿屋の前に立つ。
アノ「…彼奴が大人しく約束を守っていれば居るはずだ。」
(あれも相当無理はしているようだが…それでも今出せる最高戦力だ。)
ある一室の扉をノックする。
返事は無い。
アノ「ああそうか。バレてはまずいのだったな。よい心がけではないか。」
そう言って、アノは扉を開ける。
しかし、そこには誰もいない。
アノ「…?居るんだろう、記憶の守り人。」
返事はない。
アノ「ポルポル?」
アノは部屋の中をぐるぐるとポルポルを探す。
しかし、どこにもポルポルの痕跡はない。
アノ「…居ない。」
アノは部屋の中にポルポルが居ないことを理解すると、深いため息をつく。
アノ「…あんの約束破りめ…!!」
クリウス(今ここには人質がいて…だけれど、あんな目立つような大技…間違いなく追い込まれてる…)
兵士達が慌ただしく、城を出入りする中、一人クリウスは一人立ち尽くす。
クリフ「…だから、私はお前に国政などさせたくないのだ。」
クリフはそう小さく呟く。
クリフ「…行きなさい。」
クリウス「…え?」
クリフ「私側から行きなさいと言ったのだ。ことが終わってまた話すことさえ、できれば人質を殺したりなどしない。それに…想いは同じだ。」
クリウス「…では、また話しましょう。」
クリウスはクリフに背を向け、城を飛び出していく。
クリフ「こちらも人員を根こそぎ奪われたからな…援軍は少数精鋭になるだろうな。ザックス、アロン、ゲティア…クリウス。」
(これだけの戦力が揃っていれば…と思いたいが油断は禁物だ。)
クリフ「私も仕事しないとな。…お前が直接赴けば良いものを…何を考えているんだろうな。『鴉』は。」