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彼の家は一軒のアパートであった。
それはいかにもボロな、上京したての学生が住むようなアパートであった。
彼からの話では彼の母はあまり体が強くなく、いつも寝込んでいるらしい。
そんな母を見た父は性欲のために家を出た。彼は父が風俗店へ行く姿をなん度も目撃したらしい。
彼は私に一杯のお茶を差し出した。
この家でだとこのお茶が大層なものに見えてくる。
彼は私に、「君はどうして周りから逃げるの」と問うた。
私は即答で「怖いから」と返した。
「どうして」
「人間は嘘の生き物だ」
「君は人間が憎いの」
「そう」
「でも…人間は嘘に騙されやすいんだよ」
「僕をごらんよ、僕、こんな家に住んでてあんな明るい男子になると思うかい?」
彼は私に、君も僕みたいになろうよと言っているような気がした。
だが私は疲れるのはごめんである。
人間に近づくのすら怖いのである。
「それはそうと、君、同性愛者だろ」
「なんでそう思う」
「だって君、体操の時間に男子ばっか見てるんだもん、わかるよ、それくらい」
彼は私をまんまと見抜いた。
その瞬間、私は視界が真っ黒になるのを感じた。これは恐怖だ。この先、
この個性がある限り、僕の未来は真っ黒闇だと、僕の全てが言っているのだ。
「君、同性愛は悪いことじゃない、みんなわかってくれるよ」
「じゃあなんでお前は嘘をつく」
矛盾している。こいつは人間に嘘をついているが、それでもまだ人間を信じてやがっている。
「どうせみんな嘘をつくんだ。みんな心の中では自分たちの普通を周りに
押し付けようとせがっているんだ。みんな自分と違う個性を潰したがっているんだ」
馬鹿馬鹿馬鹿、みーんな馬鹿、死んじゃえばいい。
みんな表では協調を歌って裏ではエゴイズム、それが人間の本性だ。
僕はそんな人間が憎い。憎い。憎い。あー憎い。
僕はお茶を飲み干し、すぐにこの寂れた家を去った。