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八雲瑠月
3,936
夕日が沈み始める頃、信号が青になった交差点で、先頭にいた友美が身を翻して、ラノケン部員達を見る。
「愛の文章で度肝を抜かれる人は何人も見たけど……卒倒する人は初めて見たわ」
「あーあ、本当に残念だったよ……まさかあんな事で死んでしまうとは……せっかく新入部員が増えるはずだったのに」
理香が頭を押さえて言う。
「いやいや、死んでませんって!」
理香のジョークに書也は思わず声を上げる。その書也の顎には湿布が貼ってある。
あれから書也は気絶していたものの、わずか数分で目を覚まし、保健室で簡単な治療をし、ラノケン部員達と共に帰路についている。
『でも、君は彼女、愛君の文章を見て失望したんじゃないかな? 良き友、ライバルと思っていた人間が文章下手で張り合いが無くなっている……違うかい?』
理香が書也の耳元で愛に聞こえないように小声で言う。
「理香先輩、見くびらないでください! 確かに愛の文章は思った以上にインパクトありました。でも、俺は愛の小説のアイデアは本当に良いと思っているんです」
「ほう~どこがだね?」
理香は書也の言葉を意外そうに言う。
「例えばヒロインの女子高校生を家政婦にしたところです。これはありそうでなかったアイデアです。それに学園モノで家の中を舞台にしている作品だったので、これもありそうでなかったアイデアだと思いました」
さわやかそうに言う書也に理香は唖然とした後、微笑する。
「そうか……あははっ!? 君は愛君の事が本当に好きなんだね」
「えっ!? いや、俺は愛の小説のアイデアを褒めてるだけで……好きとか嫌いとかそういう問題では!?」
「普通は……誤字脱字だらけの文章は毛嫌いするものだよ。新人賞の下読み(審査員)ですら、十ページも読まずに誤字脱字の小説を投げ出すんだ。それを良いアイデアだと言えるんだ君は……なかなか普通じゃない」
理香はなぜかニヤニヤと笑って書也を見る。
「そうですか?」
「自覚はないか……愛君の小説は友美君も毛嫌いしているほどの文章だと思ったんだけどねぇ」
「書也君~みんながわたしの文章の事を厳しく言うんだよ! 誉めてくれるのは書也君だけだよ~」
愛は書也を抱き締め、少し涙目になって言う。
「書也を卒倒させた文章はさすがって、言っただけよ」
友美が言う。
「相変わらず愛の文章は駄目駄目……わたしの家でみっちりじっくり教えてあげてもいい」
幽美が愛を羽交い絞めにする。
「みっちりじっくりって……幽美ちゃん、それって、スパルタ的に教える奴だよね?」
「愛の為に会社から朗読風に編集した音声ソフトを持ってこようかしら……確か拷問系のバイノーラルの催眠系音声ソフトが……」
エロスはタブレット端末で何かを検索しながら言う。
「拷問? 催眠? エロスちゃんはわたしに何を聞かせる気なのかな?」
「後で赤ペンを入れるから、ちゃんと誤字脱字を直すんだぞ愛」
「書也君まで!」
愛の悲痛な叫びが高架下付近で響いた。
「とりあえず無事とは言わないが……若干の一名の負傷者は出た。SSを書き終えたが、どうだ? 語部、誤植はやっていけそうか?」
ラノケンの部室でデスクに座る教子先生はデスクトップPCのキーボードを打ちながら言う。机には入部届の用紙が二枚置かれていた。
「大丈夫です。次は怪我をしないように気をつけます」
書也の顎の湿布は取れてはいるものの、少し痛そうに何度か顎を押さえた。
「はい、誤字脱字でもラノベ作家を目指します!」
愛は少し恥ずかしそうに言う。
「意気込みはよしか……分かった。席につけ」
書也と愛が席につくと、教子先生はラノケンメンバーがいるかを確認した。
「みんな揃ったな……誤植は事前に何度か来ているが、改めて紹介する。語部書也と誤植愛の二名、一年が新入部員となった。優しく教えてやれよ」
【はい】
揃った声で先輩のラノケンのメンバーが言う。
「久しぶりにSSを書いたものが多かったと思うが、誤植に限らず、誤字脱字は多かったと思う。変な日本語を使っていたり、改めて自分の文章が下手だと思った奴もいただろう。自分の文章が下手だと思った奴はプロから学べ、自分の好きなラノベ小説を何冊か選んで、文章を書き写してトレーニングするのもいいだろう。最近では小説も音声化しているので、それを聞いて自分の小説と何が違うのか比べるのもいいだろう。小説以外でも学べるものは多い。例えば広告のキャッチフレーズは見た者を引きつける文章が何処かに隠れている。何気なくCMなんかでも台詞や心理描写が表現されているので、それを文字にしたらと考えてみたりな。最近ではアニメ化したラノベ作品もあるので、文章がどう映像化しているのか、見比べても勉強になるだろう」
「教子先生! プロットはいつやるのよ?」
友美が苛々した口調で言うと、教子先生は顔をしかめた。
「まったくお前は……順序というものがあるのに……一年の新入部員がいるからな。プロットの書き方から説明する。二年、三年は復習だと思って聞いてくれ。先ほどプロットの話が出たが、プロットとは物語の重要な出来事をまとめた要約になる。昔、私が書いたものがあるので、まずはプロジェクターを見てくれ。初めての語部は共有フォルダから私の現語プロットをダウンロードしてくれ」
プロジェクターには教子先生がプレゼンテーションソフトで書いたと思われるプロットが映し出される。共有データには教子先生のプロットがあり、事細かに文字が記載され、PDF化されている。
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