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剣を振るい、砲を撃ち、古代魔術を操り、世界が焦土と化した〝終末大戦〟から幾年。
領土争いや威厳の為だけに血が流れる事を良しとしない条約が国々で締結され、永世中立が長らく保られて来た。訪れた、安寧の平和。
しかし永遠ではなく、突然終わりの日を迎える。
人間の、天敵の発現。
人間の敵は人間ではなく、正体不明の化け物。
当初は小国の森のみだった為、野生の獣にでも襲われたのだろうと思われていた。次第に被害地域が拡がるにつれ、生き延びた者からの情報も増えて行く。それは様々であったが、皆が皆口を揃えて言うには。
見た事もない、恐ろしい異形の姿をしていた、と。
頭でっかち達が〝幻獣〟と名付け防衛策を練るのと同時、錆びた剣と砲を磨き、埃を被った魔術書を紐解く国が現れ始める。
其処彼処で急造されていく騎士団。平和呆けしていた付け焼き刃の掻き集めは、いわゆる足留めとして訳も分からずに戦火へ身を投じさせられて行った。
育った緑が徐々に灰へと変わりつつある日々の到来。人間は剣と砲と古代魔術を武器に、人間を守る為に戦い続けた。
圧倒的劣勢と思われた戦況は、人間が失わなかった希望で辛くも小康まで盛り返し。その頃には騎士団に属せず、手練れが組んで討伐へ向かう〝パーティー〟を作る者達が目立ち出した。
とある国が報奨金制度を謳ったからだ。
とある国以外でも続々とパーティーなるコミュニティが広まっていき、統治者連が話し合った結果〝ギルド〟が各要所に設置される事になる。
手練れであっても、ならず者の集まり。手練れであるが故に統率の場を設けて管理しなければ、終末大戦の悪夢が再びやって来るかもしれない。
その為ギルドに勤める者は、国で定めた試験を突破した精鋭で固められた。
これからのお話は、そんなギルドに勤める青年の目線で綴られる。
「アベちゃーん、こっちの手続き終わったよ」
「ありがとう!あっ、じゃあ今のうちに休憩入っちゃって。夕方忙しくなりそうだから」
「え?一人で大丈夫?」
「うん。来る人少ない時間だし」
「ん~…だったら遠慮なく貰っちゃお。休憩いただきま~す」
頭一個分背の高い後輩へ手を振る人物の名は、アベ・リョウヘイ。愛称はアベちゃん。
とある国のギルドを束ねるまとめ役として働いている。まとめ役なだけあって国試に異例の満点で受かった経緯を持つ、知的で穏やかな物腰の青年だ。
濃い茶の前髪の下で揺れる瞳は切れ長で優しく、高い鼻梁に続く唇はぽってりと紅く熟れ、一見中性的な美しい顔立ち。加えて細身と来れば不埒な想いを寄せる輩も少なくない、のだが。
笑顔で飴と鞭を巧みに使い熟すアベにバッタバッタと一刀両断され、今や生き(?)残っているのは最早数人。
当の本人は色恋より仕事一筋のようで、任務報告の度にやって来るラブコールにはけんもほろろな塩対応っぷりを発揮中。
手を振られた年若い青年──名をラウールという──は一人にしてしまう事に一抹の不安を抱えながらも、アベの天使な小悪魔さを信用してバックヤードへ入って行った。
ポツンと受け付けに座ったアベは制服であるベストから眼鏡を取り出し、グラスチェーンを鳴らして掛け帳簿を捲った。客は来ずともやるべき事は山とある。
……、夕方に帰って来そうなパーティーは三組…かな。怪我の程度にもよるけど、薬師は多目に手配しておこう。…無茶をするのがいる事だし。
その無茶をするパーティーの面々を思い浮かべ、形の良い眉を顰めて溜息を吐く。
擦り傷切り傷くらいで帰って来ればいいのに、厄介なパーティーは命が事切れる寸前まで奮戦するのが度々で、アベがこっぴどく叱っても改善されない。此方がどんな思いで帰りを待っているか全く響いていないらしい面々は、恐らく今回も満身創痍が予想される。
薬師への連絡を終えたアベは、掌を翳して魔力を集める。心の中で古い術式を唱え、経路を開く。
じわじわ淡い緑の光に染まっていく、肌の色。
…うん、調子いいみたい。
拳を握って光を散らし、満足そうに微笑む。迎える準備は上々だ。
緑の光は癒しの色。
アベはギルドの職員でありながら、世界に数える程しか存在しない回復術士でもあった。
本来であればパーティーに同行して癒し手になるべきなのだろうが、なにせ回復術を習得している者が少な過ぎる。よって、国々は各ギルドで回復術士を預かると定めを出したのだ。でなければ、回復術士を巡って人間同士で争いが生じる。現に定める前は拉致騒ぎが頻発していたらしい。
アベに課せられているのはギルド職員のまとめ役と、〝生きて帰って来た者〟の治癒。
……生きて帰って来ない場合は、どうでもいいのか。
国に住まう身として思ってはいけないのだろうが、苦々しくてもどかしい気持ちの置き場が見付けられずに奥歯を噛んだ。
だからこそ角を生やし、怒りを露わにして叱るのに、件のパーティーには馬の耳に念仏。寧ろアベに魔法を掛けて貰うのを楽しみにしている節まである。
わざわざ薬師を手配するのは、想いの丈を分かって欲しいから。うんと染みる薬を塗られて痛い思いをさせてやって、あっという間に治るのは奇跡なんだと分からせねば。
何時かは………。
嫌な想像を払うかのように頭を振った時、入口の扉がけたたましく開いて誰かが飛び込んで来た。
「…~アベさんっ!大変だ!ヒカル達が……っ!!」
コメント
1件
読了!!アベちゃん、天使すぎるでしょ…💕知的で穏やかなのに小悪魔な一面もあるギャップがもうたまらん😭しかも世界に数人しかいない回復術士って、無茶するパーティーを叱りつつちゃんと準備して待ってるの優しすぎる…!「生きて帰って来ない場合はどうでもいいのか」の心の声、グッときたよ…。ラストの「ヒカル達が…」で続きが気になりすぎる!!続きが待ちきれない〜🔥