テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

前回のあらすじ


カイルが街中で発狂した





カイルは机の上に置かれた紙を覗き込んだ。古びた羊皮紙には手描きの地図があり、赤い墨で大きくばつ印がつけられている。


騎士が指先でそのばつ印をなぞる。


「ここにあるホテルに行って、仮面を被った人物に会いなさい。」


「なんそれ。そんなん俺がせんでもええやん。」


「いいから黙ってやりなさい!もう時間がないのよ。あなた、今この国でなにが起こってるのか何も知らないの?」


「今起こってることと言えば、俺の活躍が国中に広まってるとか?なんか恥ずかしいなぁ。でも、こういうのにも慣れていかないといけないのか。」


「は?本気で言ってるの?」


冷たい視線が突き刺さる。けれどカイルは気にも留めず、腕を組んで顎に手を当て、どこか遠くを見ていた。


「英雄カイルか……それも悪くない。早く勇者と遊びたいわ。」


騎士は呆れたように顔を下げ、服の中から手紙を取り出す。


「これ以上聞かないことにするわ。今いるところがここだから、すぐに着くわよ。あとこれも持っていきなさい。」


カイルは小袋と手紙を渡され、バッグの中へ入れた。


「この袋開かないからどうでもええやん。」


「ホテルの受付でこの袋を出しなさい。そしたらホテル側でなんとかしてくれるわ。あと手紙は仮面の男にね。もう聞きたいことはないでしょ。」


「そうだね。英雄カイル、行ってまいります!!さっきの事頼むわ!!」


勢いよく立ち上がったカイルはドアを開け放ち、外へ飛び出した。


「もう私のこと忘れてるのね。あのクソクズ。」


残された騎士は小さく息を吐き、椅子へ腰を下ろす。


目を細めて思い浮かべるのは、カイルが持っていた剣


「問題はユグドラだけじゃないのね。」


立ち上がり、背筋を伸ばす。指を鳴らすと、軋んでいた小屋の壁がゆっくりと形を取り戻していく。


「まずはゴブリンとメイドを探すとこからか。」





「ここやな。」


カイルは地図を片手に立ち止まった。ばつ印の場所と照らし合わせ、頷く。


「前のホテルよりもちっさいねぇ。俺をこんなところに行かせるなよ。」


目の前には、木造の古びた宿屋。看板には「霞の宿」と手書きで記され、夜風に揺れている。軋む扉を押すと、かすかなベルの音が鳴った。中は薄暗く、木の香りと酒の匂いが混じっている。小さな受付、その奥に部屋へ続く階段。


「いらっしゃい。」


低い声。見ると、髭をたくわえた太った中年男がカウンターに肘をついていた。目つきは鋭く、どこか裏の世界の人間を思わせる。


カイルはバッグから小袋を取り出し、卓上に置いた。男はそれを無言で見つめる。袋の紋様を確かめるように、厚い指先で撫でる。


「こりゃあ本物だな。よし、ついてこい。」


カウンターの奥の扉を開けると、細長い通路が現れた。空気がひんやりしている。灯りは少なく、壁に沿って吊るされたランプの炎が小刻みに揺れる。


「どこ行くの?」


カイルは歩きながら声を潜める。


「お前、何も知らないのに来たのか?」


「うん。可愛い子から、ここに行けって言われたのよ。」


「使用人なら何も知らなくても仕方ないか。この奥に情報屋があるんだよ。」


「なるふぉどね。」


「ルールを破らない限りは何も起こらねぇから、怖がらなくてもいいぞ。」


男は扉の前で立ち止まり、小袋を返すと、無言で去っていった。カイルは喉を鳴らし、扉に手をかける。金具がきしむ音と共に、ゆっくりと開けた。


中は広く、奥には仕切られた個室が並び、空気が一段と重く感じられた。中央に黒服の男が立っている。背が高く、冷静な眼差しをしていた。


「こんばんは。今日の依頼はなんでしょうか?」


カイルは小袋と手紙を差し出す。男は封のシールを剥がし、内容を読み、静かに頷いてから返した。


「こちらへどうぞ。」


案内されたのは、一番奥の個室だった。部屋の中央、丸いテーブルの向こうに仮面の男が座っている。白い仮面に口元の線だけが彫られ、光を反射して冷たく光っていた。


黒服が耳打ちすると、仮面の男は小さく頷く。カイルは椅子に腰を下ろし、目を細める。


二人の視線がぶつかり合った。


沈黙が続く。空気が張り詰める。


こういうのは舐められちゃいけねぇ。先にしゃべった方の負けや。


心の中で得意げに構えるカイル。しかし、仮面の男も同じことを考えていた。


先に話してくんないかな……仮面被った人が最初に喋るとミステリー感が薄れるんだよ。けど、もう沈黙が限界だ!早くその口を開け!


互いの思考がぶつかり、沈黙だけが長く伸びていく。


見かねた黒服の男が困ったように声を漏らす。


「あの〜、他の人も来るので、そろそろ話してもらってもいいですかね?ミステリー感とか雰囲気とかは気にしなくていいので……」


「なんだと!?この仮面被って雰囲気ないはダメに決まってるだろ!情報屋で一番大事なのは雰囲気だ!!」


勢いよく立ち上がった仮面の男の声が反響する。黒服の男は一歩も引かず、真顔で応じた。


「いや、情報の質と提供の速さだろ。支部長のくせに何言ってんだ。」


支部長は肩をすくめ、やれやれといった様子でカイルの方を向く。


「依頼の内容はもう聞いた。あとは対価をもらうだけだ。」


「対価ってなに?」


首を傾げるカイルに、支部長は呆れたように手を広げる。


「対価って、金に決まってるでしょ。早くちょうだいよ。」


「いくらや?」


眉を寄せ、強気な目を向けるカイル。


ここでぼったくられたら絶対にダメや。俺の交渉術を見せてやる!


「1000金貨。その袋に入ってるんだろ。早くちょうだい。」


その言葉に、カイルは反射的にテーブルを叩いた。木の表面が鳴り、支部長が肩を震わせる。


「1000金貨だと!!ふざけるな!先払いで1000金貸っておかしいだろ!」


強気の一喝に支部長は一瞬たじろぐが、必死に声を張り返した。


「いやいやいや、前払いで1000金貨だから!依頼達成したらさらに1000金貨貰うだけだから!おかしくないだろ!!」


「はぁ!?たった一つの情報で2000金貨だと!?ふざけるな!この俺を知らないのか!?王様に頭を下げさせた、カイル・アトラスだぞ!!こんなぼったくり情報屋いつでも潰せるんだからな!!」


「お前の依頼が高難易度だから2000金貨もするんだよ!ぼったくりなわけないだろ!!」


横で聞いていた黒服の男が小さくため息を吐き、静かに言葉を挟む。


「カイル様なら2000金貨なんて、すぐに払えると思いますが?」


「いや、まぁそうなんだけどね……」


カイルは腕を組み、唸るように考え込む。


この金でまた遊べると思ったんだけどな……なんか他にいいのねぇかな……


「対価って金以外じゃダメなの?」


黒服が顎に手を当てて考え込む。


「そうですね……情報を売るという手段もありますが、私たちが知らない情報はほぼないと言っても過言ではありませんので……」


「俺があのカイル・アトラスっていうことも知ってるの?」


「勿論です。異常な進化を遂げた狼から逃げ切り、ダンジョンのリザードマンからも逃げ切った人だと聞いてます。」


「逃げてねぇよ!!俺が倒したんだよ!!」


カイルの叫びが、木の壁に響き渡った。


支部長が苛立った声を上げる。


「そんなのいいから早く払ってよ!じゃないと、こっちも仕事しないよ。」


カイルは必死に頭を回転させ、両手で髪をぐしゃぐしゃにした。


「情報ねぇ……あ!!」


突然の声に支部長が身を乗り出す。


「な、なに?」


カイルはドヤ顔で二人を交互に見た。


「絶対に知らない情報持ってたわ。知りたいか?」


「気になりますね。」


黒服の男が淡々と応じるが、表情には興味の欠片もない。


「じゃあもし、この情報を知らなかったら金貨2000枚はチャラに出来るってこと?」


「情報の質にもよりますね。」


カイルは胸を張り、どこか芝居がかった口調で言った。


「絶対に2000枚の価値はあるぞこれ。マジでやばいよ。」


「なによ?ちょっと気になるんだけど、」


支部長の姿勢が前のめりになる。


「にゃんパフって知ってる?」


「そりゃ勿論よ。異世界から転生してきた人たちが生み出したのでしょ?俺もファンだから詳しいのよ。」


黒服の男も静かに口を開く。


「私もにゃんパフについては詳しい方ですね。異世界の人が持ち込んだ文化はとても興味深い。あまり知られていませんが、この世界の発展が急速に進んだのも異世界人のおかげですからね。」


カイルはもったいぶるように唇をゆがめた。


「で、そのにゃんパフなんだけどさ……」


「なんだよ!早く言ってよ!」


支部長が机を叩く。


「王国でライブするのよ。」


一拍。部屋の空気が止まる。次の瞬間、二人の目が大きく見開かれた。


「なんだと!?そんな情報はないぞ!!」


支部長が黒服を睨むが、彼は静かに首を横に振る。


「そりゃそうでしょうよ。にゃんパフのライブがあるって知ったら、みんな一斉に動くからね。見れない可能性が高まるから言う人なんているわけないでしょ。」


「くそ……こっちは高い金払って世界中の貴族たちとコネを持っていると言うのに……あいつら自分のことしか考えてないのか……」


支部長の拳がわずかに震えた。


「王様が言ってたから間違いないね。」


その言葉に黒服が反応し、服の内ポケットから小さな手帳を取り出す。


「確かに、最近のにゃんパフの活動は写真集以外にありませんでしたね……ライブの準備をしていると考えると辻褄が合います。」


「なんだその手帳。初めて見たぞ。」


男は誇らしげにページをめくり、カイルたちに見せつけた。そこにはにゃんパフのセクシーな写真がずらりと貼られていて、なにかのスケジュールのようなものまで書いてある。


「にゃんパフの日々の行動をメモしてるんですよ。次の行動が予測できるかもしれないので。」


「その見た目でガチなファンだったのか。」


「はい。支部長が無能なので毎日ストレスが溜まりますが、彼女たちを見ると一瞬で吹き飛ぶんです。」


支部長が顔を引きつらせる。


「……その手帳見せてくれたら今言ったことは水に流してあげるよ。」


黒服の男は無視してカイルの方を見た。


「ライブの場所はどこであるんですか?」


カイルは首を横に振る。


「それは俺も知らないけど、王様にまた聞けばすぐ分かるよ。王様と直接話せて、しかも君たちにその情報をすぐに渡せるのは俺だけだと思うんだけど?もし2000枚ちゃらにしてくれたらこれからも仲良くしてやってもいいんだけどねぇ。」


黒服の男がわずかに口角を上げた。


「これは得しかない話ですね。わかりました。2000枚の件はちゃらにします。」


「それはトップの俺が決めるんだよ!なんで君が勝手に決めるのよ!!」


支部長の声が部屋に響き、室内に妙な熱気が漂った。


「じゃあこれで話は終わりやな。俺はいつここに来ればいいの?」


支部長は手帳に貼ってあるにゃんパフの写真をちらと見て、淡々と答える。


「明日の夜に来てくれ。それと、最近ユグドラの動きが今までにないくらい活発になっている。君が予言の男だということも、あっちは知っているはずだ。気をつけたほうがいい。」


「それは心配せんでええ。俺が負けたことは一度もないからな。」


「そうか。じゃあ話はこれで終わりだ。」


黒服の男が無言で扉を開け、どうぞと手で促す。


「また会おう。」


カイルはそれだけ言って、肩を軽く揺らしながら個室を出た。廊下には冷えた月光が差し込んでいる。カイルはその光を見上げ、唇を少しだけ動かす。


「そろそろ闇が迫ってくるのか。」


背後から支部長の呆れ声が届く。


「何言ってんだあいつ。」


カイルは気にも留めず通路を抜けた。


支部長は大きく息を吐き、椅子に体を預ける。黒服の手帳を奪い取り、写真をじっくりと見ながら喋る。


「ふぅ〜やっと終わったよ。あいつやばくね?あんな生意気なのが予言の男ってどういうことだよ。この国終わってんだろ。」


黒服が冷静に言葉を返す。


「それもそうですが、私が一番気になったのは予言の内容が変だったことです。なぜ彼が国を救うと分かったんでしょうか。」


支部長は顎に指を当てて首を傾げる。


「それは予言がそう言ってるからじゃないの?」


黒服は手元の紙を見つめながら、低い声で続ける。


「私が知っている限りでは、過去の予言は全て曖昧なものでした。一人の名前が出てくる予言なんて一つもなかったんですけどね。」


「手紙にはなんて書いてあったの?」


支部長が聞くと黒服の男が答える。



ひとつの血、地に落ちし時、闇の力は眠りより目覚め、王国は滅びの道を辿る。

されど、二つの光が交わりし刻、闇は退き、安らぎの風が世界を包むだろう。


しかし、この静寂は、終焉の序曲に過ぎぬ。真なる救済は、ただ一人の男に託されている。


その名は、カイル・アトラス。


星々は彼の歩みを記し、運命の輪は彼を中心に回る。



それを聞いた支部長はソワソワしながら口を開く。


「確かにね。面白そうなこと言うじゃん。なんかとんでもないことが起きそうだな。」


黒服は肩をすくめるように笑う。


「まぁ私としては、にゃんパフのライブが見れればそれでいいんですけどね。あと、私の手帳早く返してください。」


「まぁまぁまぁ。いっつも大変な思いをしている俺へのお礼ってことで少しくらい見せてくれたっていいじゃないか。」


「お前が何をしたんだよ。ただ強いだけの無能だろうが。」


「お前支部長に向かってなんちゅうこと言うんや!!絶対この手帳返さねぇ!!」


「そうですか。あなたの今までの活動を上にしっかりと報告させていただきますね。」


「ごめんなさい。それは勘弁してください。」


逃げたくても逃げられない男は世界の命運に抗います!!

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

0

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚