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「お礼?」
「僕は、君のおかげでトラウマから少し抜け出せたんだ。初めて本気で人を好きになれたんだよ。生まれて初めて……琴音ちゃんを……」
「店長……」
「たとえ無理して話ができるようになっても、女性を好きになるなんて有り得ないと思ってた。なのに、僕は君のことを好きになれた。とても不思議な感覚だったよ。これが一目惚れなのか? これが人を好きになるってことなのか? って」
今の店長の顔、すごく優しい。
「あの時、デートしてもらってすごくドキドキしたよ。『初めて』を悟られないように、慣れてるフリして下心があるとか言ってごまかしたんだ。もちろん、女性にキスしたのも……初めてだった」
「えっ」
「キスの仕方がわからなくて、あんな突然に……本当に申し訳なかったと今でも思ってるよ。この年齢でファーストキスなんて恥ずかしくて言えなかった。でも、あの瞬間、どうしても琴音ちゃんにキスしたいって……思ってしまったんだ」
店長のその言葉に、思わずキュンとしてしまった。
ほんの少しだけでも怖いトラウマから抜け出せたなら、そのお手伝いができて良かったと思った。
もちろん、店長の気持ちに応えることはできないけれど……
「今でもまだ、どうして店長に好きになってもらえたのか不思議ですけど、でも……ありがとうございます」
どう言えばいいのか言葉に迷う。
だけど、私の方こそお礼を言いたくなった。
「本当にありがとう。僕は、最初で最後の恋をさせてもらえて幸せだよ」
「最後だなんて言わないで下さい……」
「僕にもっと勇気があれば、君をあの人から奪えたのかな? 契約結婚だと聞いた時、心がとてもザワザワした。君は幸せなのか? って」
「契約結婚のこと、聞かれたんですか? もしかして……姉が?」
店長はうなづいた。
涼香姉さん……綾井店長に話していたんだ。
「でも、やっぱり僕には何もできなかった。琴音ちゃんをただ見てることしか。あの事故があって、僕は確信したよ。君達は……ちゃんと愛し合ってるんだって。琴音ちゃんは幸せなんだって。だから、それでいいんだよ。君が幸せなら、それで……いいんだ」