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「普通」は、私を縛り付ける呪いの言葉だった。
「メロいっ!」
スマホより流れるテンポが速すぎて何言っているか分からない歌と、同じく振り付けが速すぎて目で追えないダンス映像。
それを見て湧き上がる歓喜の声が、休み時間中で賑わう二年一組の教室に混ざり合っていく。
今流行りの若手男性アイドル「レイ」。
歌って踊って、甘いマスクでデレる。そのギャップに、十代女性を中心に支持を得ていて、当然ながら高校生の私たちの間でもファンが多い。
「やっぱ、最高だわ!」
「ダンスも決まってるしぃ!」
「エグすぎ~!」
「か、カッコいいよね!」
自分でも驚くほど中身がない言葉だから、せめてテンションだけは一緒にしてみる私。
友達の莉乃、紗枝、真希は、レイの新曲映像をリピート再生して身軽に振り付けをマネるけど、私はそれに合わせて揺れるピアスをただ眺めているだけ。
すると気付く、カラコンにより彩られた目から発せられる六つの瞳。
心臓をブスリと刺されるような鋭い視線に私も振り付けをマネてみるが、明らかに一人、熱の入り用が違う。
それが私、斉藤文
それはそのはず。だって、ときめかないのだから。
窓ガラスに映るのはブラウスに赤いリボンをユルく付け紺のスカートから細い足を出しているイマドキの女子高生三人に、同じファッションで統一してあるはずなのに、どこまでも垢抜けない地味な私。
こうも違うのはピアスの穴を開けていないだけではないとは分かっているけど、じゃあどうしたらみんなみたいに可愛くなれるの?
目の前の現実から思わず視線を逸らしスマホに注力するも、ハデな照明に目がチカチカする。
早く終わってと願うと、待ち望んだ昼休み終了チャイムが鳴り、心の中でハァーっと重い溜息を吐く。
なんで私は、みんなと同じ「普通」じゃないんだろうと思いながら。
今日という日も何事もなく終わってくれ、放課後を迎えた。
ザワザワと賑わう教室の窓から見上げた六月の空は、梅雨の時期にも関わらずカラッとした晴れやかな気候で、普通なら気分も晴れ上がるだろうが私の心はどんよりしていた。
なぜなら。
「さっ、行きますか!」
よりキツくなった香水の匂いと共に、テンション高く私の元に駆け寄ってきた友達三人。その肩には学生カバンがあり、レイの顔が印刷された缶バッジがキラリと光る。
莉乃の「行きますかっ」の声から始まり、「いいね!」で決定される放課後のお出かけ。
やっぱり。嫌な予感は的中した。
配信映像見ながら「ここって渋谷のスクランブル交差点だよねぇ」って盛り上がっていたから、行くんじゃないかなぁって。
聖地巡礼というらしいけど意味が分からない。
だってそこに行っても、レイはいないんだよ? じゃあなんで、わざわざ見に行くのって。
「うん!」
だけどそんな気持ちと反対に必死に声を弾ませ、努めて口角を上げる。
でも心と体は別ということなのか、教科書をカバンに入れる手は遅く、何か行けない理由はないかと頭の中で模索している。
「文、早くぅ~!」
「ごめん!」
真希の声に、力強くチャックを閉め、今考えていたことをカバンの中に封じ込める。
いやいや。誘ってもらえるのだから良いよね。ハブられてないから良いよね。
他の女子グループのギャル語っぽい会話を横で聞きながら、カバンの紐をギュッと握り、晴れ渡る太陽を睨み付け、みんなと共に駆けてゆく。
#普通
野々さくら
23
#女主人公
#元カレ
まぁ
1,633
世羅 鈴🎨🎤
222,228