「理久先生は大袈裟だよ。狙われたらって、こんな私なんかを狙う人いないから」
さすがにそこまでの妄想には笑ってしまった。
「そんなこと……わからないです。だって、僕なら……」
「んっ?」
「あっ、いや、とにかく夜道は危ないですから送ります。一緒に帰りましょう」
あまりにも言ってくれるから断るのも悪くて、雪都もいるし、今日は理久先生に甘えることにした。
「うん、じゃあ、ごめんね。よろしくお願いします」
「はい、任せて下さい」
笑顔で首を縦に振る理久先生。
「ところで弥生はどうするんだろ」
「弥生先生、さっき誰かから電話がかかってました。盗み聞きするつもりはなかったけど、たまたま話してることが耳に入ってしまって。後で、お迎えに来てくれるらしいです……」
ちょっと困ったような顔をしてる理久先生を見て気づいた。
「まさか、お迎えって……」
「そのまさかだと思います。電話の感じじゃ、そう聞こえました」
「そうなんだ。何か……心配だね」
「弥生先生、これからどうするんですかね……」
理久先生、弥生のことも心から心配してる。
仲間としては、本当に何とかしてあげたいけど……
「そうだね。好きな人とはやっぱり一緒にいたいもんね」
そう言いながら、好きな人と一緒にいることを素直に選択できずにいる自分はどうなんだ? って思った。
「はい。でも……好きな人が近くにいても、遠くに感じるのは何故なんでしょうか?」
近くにいてもって、それは理久先生の好きな人の話なの?
もしかして、うちの保育園の先生?
あんまり詮索するのはよくないけど、
「理久先生は、遠くに感じるような人を好きになってしまった……ってこと?」
つい、プライベートなことを聞いてしまった。
「……僕にはそう感じてしまいます。すごく近くにいるのに、その人は違う人を見ているようで」
理久先生は、浮かない顔つきで答えてくれた。
恋愛に関してここまで話してくれたのは初めてだ。
「そ、そうなんだ……うん、でも、理久先生の気持ち、相手の人に届くといいね」
「そうなれば……嬉しいですけどね」
沈んだ表情のまま、ほんの少し口角を上げて無理に微笑んだ。
慶都さんも……私にとっては近いようで遠い人。
弥生だってすぐ近くに相手がいるのに、その人には家族がいて。
相手を遠く感じる恋愛って、やっぱりつらいよ。
みんな、複雑な思いを抱いて誰かを想ってるんだ。
私の大切な人達には、そんな悲しい思いをしてほしくないのに……誰かを好きになるって、すごく難しいんだね。
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