武装探偵社事務所にて、中央の席で美味しそうに西洋菓子(ケェキ)を食べる江戸川乱歩に、敦は気付く。
「あれ?乱歩さん其の西洋菓子、如何したんですか?」
資料を手に持って、敦は首を傾げながら聞いた。
「コレ?先刻太宰が僕にくれたんだよ」
乱歩はそう云って、フォークで西洋菓子を口に運ぶ。
「えっ!太宰さん来たんですか!?」
敦が驚きの声を上げた。
無理はない。
二日前に幼児化した当人に会い、元の躰に戻るまで世話を頼まれたものの、突如居なくなって中也のもとへと行き、其れから会っていないのだから。
連絡では今朝元の姿に戻り本日出勤と聞いていたが、何故か居ない事に、敦は不思議に思っていた。
「太宰さんは今何処に……?」
「何かポートマフィアに寄ってから来るって」
「友達の家、寄ってから帰る───みたいな云い方ですね。最近お互い緩過ぎません?」
「まぁ休戦中だし佳いんじゃない?」
そう云いながら、乱歩は傍にあったラムネを勢い良く呑む。
「ぷはーっ、矢っ張り西洋菓子とラムネは合うね〜」
「良かったですね…」
あはは、と苦笑しながら敦が云った。
***
「何だソレ?」
隣に歩く中也が、私が持っている紙箱を指しながら声をかけてきた。
「西洋菓子だよ。今回は普通にお世話になったからね」
「手前そンな事できたのかよ…」
「中也、君今まで私を何だと思ってたの?」
「迷惑しか製造できない女の敵」
全て事実と云う事に、少し心に刺さる。
「彼の帽子置き場くんは身長が低いままなのだね」
仕返しにあざ笑いながら私は中也に云った。
「手前は高過ぎンだよ。日本の平均身長知ってるか?170糎(センチ)だぞ?」
「それを云うなら中也は低過ぎだね」
「あ゙ぁ゙?」
横から中也が睨んでくる。
「なに?今なら喧嘩かうよ?」
私は見下ろしながらしかめっ面で云った。
刹那、首領執務室から柔らかい笑い声と、まるで花が咲くような温かな雰囲気がもれ出てくる。
「何だァ?」
私達は横に視線を移す。
「この声は紅葉さんと森さんとエリスちゃんだね、何やら随分と盛り上がっているようだ」
部屋の前へ歩きながら私は云う。
中也は静かな動作で帽子を取った。ノックする。
「失礼します、首領」
執務室のフレンチ・ドアを中也が開けた。
私は後に続く。
執務席を囲んでいた三人が、此方に視線を移した。
「おや太宰くん、中也くん。体調は如何だい?」
森さんの言葉に私と中也は、問題ありません、と答える。
「それにしても態々来てくれるなんて……太宰くん、若しかして幹部に戻る気に────」
「エリスちゃん、西洋菓子を持って来ましたよ」
私は森さんの言葉を遮って、エリスちゃんの前にしゃがみ込み、西洋菓子が入った箱を見せながら云った。
『西洋菓子!』
目を輝かせながら、エリスちゃんはパアッと表情を明るくする。
「紅葉さんの分も在りますよ、今回はお世話になりましたからね」
私は笑顔で紅葉さんに云った。
「それは嬉しいのう」
紅葉さんは楚々と笑う。
「太宰くぅーん!私のはー?」
執務席から声を張って森さんが聞いてきた。
「森さんのはツイデですよ、あるだけ佳かったと思ってください」
真顔で私は云う。全て事実なのだから仕方がない。
「オイ…ッ!」
中也が横から頭を叩いてきた。
痛……、
私は叩かれた部分を優しく撫でる。
「ヒドいなぁ…」
先刻の私の言葉に、苦笑しながら森さんが云った。
『気持ち悪いリンタロウがいけないのよ』
「最近、皆からの当たりが強い気がする……」
そう云って森さんは肩を落とす。私は息を吐いた。
「それでは、私はコレで失礼しますね」
会釈をして四人に背中を向ける。
「おや、もう帰るのかね?」
森さんが云ってきた。
私は視線を後ろに移し、笑顔を作る。
「あまり此処に長居したくありませんし、遅過ぎると国木田君に怒鳴られますので…」
私はそう云って、ゆっくりと扉を閉めた。
***
太宰が執務室から出て行く。
少しの沈黙が、部屋を包み込んだ。
「……そう云えば、部屋に入る前に笑い声が聞こえましたが、何かあったンですか?」
先程感じた疑問を、俺は三人に問う。
「あぁ、アレはね……」
首領が機嫌の良い笑顔を浮かべながら、机の上に置いてあったソレを、俺に見せた。
思わず声がもれる。目を見開いた。
首領が見せたのは、執務椅子に一緒に座りながら眠る、俺と太宰の写真だった。
「はっ、え────はぁッ!?何ですかコレ!」
写真を近くでよく見ながら、落ち着きのない声で聞く。
「ほら、ね?兎とか熊猫みたいに可愛いのが眠ってる時って、写真を取りたくなるもの─────ソレと同じ事だよ」
爽やかな笑顔を浮かべながら首領は手を組んで云った。
「云ってる事が佳く判りませンし、盗撮です首領」
俺の突っ込みに首領は、えぇ……と声をこぼす。
すると、姐さんが楚々と笑いながら、
「好いではないか。至極愛いぞ」
「いや、その………愛いとかの問題では……」
行き場のない手を宙に掲げた。
だ……駄目だな此りゃあ………。
全てを諦めた俺は、一つ息を吐いて再び写真に視線を移す。
っーかコレ、何時撮ったんだ?
確かに寝ちまった時はあったが、起きた時太宰居なかったけどな……。
俺は首を傾げる。
「中也くんも一枚要るかね?」
刹那、首領が声をかけてきた。
「いえ、大丈夫です」
俺は即答する。
気付いたら絶対怒る気がすンな、彼奴………。
***
「〜♫〜〜♬〜♪〜〜」
鼻唄を唄いながら街を歩く。
弾む足取りで、私は探偵社に向かっていた。
砂色の外套のポケットから、一枚の写真を取り出す。
ソレは幼児化した時の中也の写真だった。
私はポートマフィアで乱歩さんと連絡を取り合った際、中也が幼児化する事を予測して、写真を撮ってもらうように頼んだ。
代償は乱歩さんが大好きなラムネ。
コレは私からの細やかな気持ちです、と云って西洋菓子も贈呈品(プレゼント)した。
中也が私を信頼してくれている事を信頼し、私はこの作戦を企てた。
其の一、戦闘中、中也が幼児化と一時的な異能無効化の毒をかぶる。
其のニ、中也が汚濁を遣い、怪我を負う。
其の三、私は森さんと交渉。
其の四、幼児化した私は交渉内容の通り、安全に中也の元へ行き、汚濁を無効化。
其の五、中也が目を覚まして、武装探偵社へ治療をしに行く。
其の六、中也、与謝野女医に治療。
其の七、私は幼児化のクスリが出来るまで、武装探偵社で待機。
──────の筈だったけれど、其の七は少し予想外に変わったなぁ。
其の八、クスリが出来次第、元の姿に戻る。
──────中也の家だけれど、まぁ作戦が成功した事には変わりはないか。
「それにしても……」
私は写真をピンっと爪で弾いた。
【幼児化したポトマ幹部!元の姿と何と変わらずのチビ!】
見出しはコレで佳いだろう……。
「ふふっ…」
私は爽やかな笑みを浮かべる。
今週の負け惜しみ中也のネタが手に入ったなぁ。
上機嫌な太宰。
だが彼はまだ知らない。
同じ弱みを、森達が握っている事を────・・・
番外:太宰さんが元に戻った後────END.
コメント
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みんな可愛すぎるw 太宰さんと中也のツーショット見たいんだけどw
え、なになに?!森さんたち仲良く寝てる太宰さんと中也のツーショット持ってんの?!それ、寄越しやがれください(◜ᴗ◝ ) うへへ...これで太宰さんの弱みGETだぜ☆(。 ・`ω・´) キラン☆