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◆side:アーヴィン◆
シャロンが嫁いできてからというもの、全てが上手くいっていた。
これも彼女の聖女としての力なのだろうか。
寂れた大地は力を取り戻し、豊かな実りをもたらしてくれる。
逆にシャロンが去った後の王都の地は、干ばつで被害が出ていると聞く。
聖女を虐げた者達への神の怒りか、それとも聖女が居なくなったことで大地が力を失ったのか。
どちらにせよ、これは偶然ではないのだろう。
シャロンの力は、作物を腐らせる力ではない。
ただ彼女自身、自分の力を制御出来ていないように感じた。
作物を腐らせる、枯らせるほどに暴発してしまうのは、彼女の精神状態が左右しているようだ。
精神が安定していれば、その力が悪い方に働くことはない。
王都では、彼女の力は作物を腐らせるだけだったと聞く。
王都で彼女がどのような扱いを受けていたのか。
この地に来たばかりの彼女の姿、あの怯えようを思えば、だいたい想像が付く。
王都で生じた被害、そしてディングリーの豊作を知れば、シャロンを連れ戻そうとする動きは出てくるだろう。
王都の連中にシャロンを任せることは出来ない。
どうにかしてシャロンをこの地に繋ぎ止めたいと考えていたところに、全ての悩みを解消する吉事が起きた。
シャロンが、懐妊したのだ。
信じられなかった。
この俺に、子供が出来る。
家族から捨てられ、僻地に追いやられた俺に、新しい家族が出来る。
こんなに幸せなことがあって良いのか。
愛おしい妻だけでなく、子供にも恵まれるなんて――ますます、シャロンを王都に行かせる訳にはいかない。
幸いにして、ディングリーの地は王都から遠く離れている。
奴等が何と言おうが、身重な女性に揺れる馬車での長旅などさせられる訳がない。
常識的に考えれば、分かる話だ。
事実、王都から迎えがやってきた。
王太子であるダーレン当人がやってくるとは思わなかったが、ダーレンも同行した神官長もシャロンが懐妊したと聞けば、王都に連れ戻すのは不可能だと悟ったようだ。
シャロンを見るダーレンの目は、狂おしく見開かれていた。
あの愚かな弟のことだ。
庶子だからと俺を蔑んでいた幼い頃のように、平民で孤児院育ちのシャロンを疎んでいたのだろう。
毎日ちゃんと食事を取って、髪も肌も手入れをして、公爵夫人となるべく教育を受けて――ディングリーの地に嫁いでから、シャロンは毎日頑張ってきた。
その頑張りが、美しい公爵夫人としての所作に現れているのだ。
彼女は元々、磨けば光る原石だった。
その原石を磨くことなく、醜いと決め付けてかかったのは、お前の方だ。
そんな、どこか胸の透くような思いがあった。
優しいシャロンのことだ、王都の惨状を知れば、どうにかしたいと思うかもしれない。
だがどちらにせよそれは出産後、彼女が落ち着いてからの話だ。
子供が出来て、シャロン自身も公爵夫人として皆に受け入れられている現状を思えば、如何な愚弟でさえ俺とシャロンの間を引き裂くことなど出来ないだろう。
今後どうなろうと、妻と子供を守り抜く。
それだけは変わらない。
彼女は聖女であるが、それ以上に大事な女性であり、俺の妻だ。
今はただ毎日を心安らかに過ごし、元気な子供を産んでほしいと願う。
ただそればかりだ。