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保健室は、さっきまでよりもずっと静かだった。
ベッドに横になった翠は、
天井を見つめたまま動かない。
赫はその横の椅子に座り、
瑞は少し離れた場所で膝を抱えている。
黄は翠の手を両手で包んだまま、離れなかった。
その様子を、
ずっと黙って見守っていた大人がいる。
学年主任の先生だった。
声を荒げることも、急かすこともせず、
ただ「そこにいる」だけだった先生が、
ゆっくりと口を開く。
「……少し、話をしてもいいか」
赫が顔を上げる。
瑞も、黄も、翠も、何も言わない。
先生はそれを“拒否”とは取らなかった。
「今の話を聞いていて、教師として、
どうしても提案しなきゃいけないことがある」
一拍、間を置く。
「保護者に、連絡を入れたい」
空気が、きゅっと張りつめた。
赫の指が、ぎゅっとズボンを掴む。
瑞の肩が、小さく跳ねた。
翠は———動かなかった。
「誤解してほしくない。
誰かを責めるためじゃない」
「翠が、ひとりで抱えるには……
あまりにも重すぎる」
先生は、翠の方をまっすぐに見た。
「これは“問題行動”じゃない。
支援が必要な状態だ」
その言葉に、赫の喉が詰まる。
「……でも」
赫が、絞り出すように言った。
「翠にぃ……言えなかったんです」
「俺らが……家族として、気づけなかった」
拳が震える。
「今さら大人に言われて、連絡とかされて……」
「それで、翠にぃが余計に———」
先生は、赫の言葉を遮らなかった。
「後悔してるのは、全部伝わってる」
「怒りも、含めてな」
そして、はっきりと言う。
「だからこそ、
君たちだけに背負わせるわけにはいかない」
黄が、静かに息を吸う。
「……先生」
「保護者って……桃にぃと、茈にぃ、ですよね」
「そうだな」
黄は一度、翠を見る。
翠の指が、ほんの少しだけ、黄の服を掴んだ。
その小さな動きに、全員が気づいた。
「……翠にぃ」
赫が、声を落とす。
「俺、怒ってるけど」
「後悔もしてるけど」
翠の方を見て、はっきり言う。
「ひとりにする気は、もうない」
瑞も、小さく頷く。
「瑞も……」
「瑞も、そばにいる」
翠は、ようやくゆっくりと瞬きをした。
声は出ない。
でも、目の端に溜まったものが、静かに零れる。
先生はその様子を確認してから、優しく続けた。
「連絡は、俺がする」
「君たちは、そばにいればいい」
「……それで、いいな?」
翠は、ほんの一瞬だけ迷ってから———
小さく、うなずいた。
その瞬間、
“ひとりで耐える時間”が、終わった。