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3

「いい子だね、片付けはマスターにやらせておくから僕たちは専用機にでも乗ろうか」

仕事を済ませて帰ってきたグルの頭を撫でる。本人は嬉しそではなく、思い出すだけで吐きそうだという思いであった。

「……う、乗った時点で吐く。何なら今にも吐きそうだ、トイレとか無いのか」

吉木と目を合わせないようにして、震えている脚を片手で殴った。体がどんどん重くなる。トイレに行く力も残っていないように思える。

どこを見てもコンクリート壁で息をするのも蒸せる気持ちであった。吉木はそれを見て火照っていた。

「行かせたら逃げるかもしれないじゃないか。ここで吐けば?」

「最低……」

吐き気さえも失せて全てが虚しくなった。そんなグルに目を向けるはずもなく話を変える。

「そういえばパローマって最後の言葉何だったの?」

今、聞かれたくない言葉No.1であろう質問。ついに目がクラクラしてグルは座り込んでしまった。

「元々決まってた、って」

グッ、と胸を締め付けるような痛みと同時に体が熱くなった。必死に上唇を噛んでこらえるが、血が流れ始めて噛み切りそうになっていたほどだ。

首を傾げつつも、吉木は惨めだなぁと鼻で笑った。そしてトドメを刺すように言う。

「アイツは君をここに連れてくることさえ拒んでたんだよ。僕は君がいないと絶対に嫌だったから何をしてでも連れてこさせた」

「味方居なくなっちゃったね」

付け加えるように言って、グルの肩を叩く。これまでにないほどの絶望に吐いてしまった。

ああ、高校の時もそうだったな。犬好きの俺のためにその頭を玄関に並べられたときも似たような感覚に陥った。コイツはおかしい。

グルは片付けをしながらふと考える。航空機から飛び降りてしまえばいいのではないか、と。でもそれは不可能に近かった。大体は体が固定されているし吉木が隣りにいる。

ならばサーフィーに会って助けてもらおうじゃないか。

一番、効率的なのはそれだけだった。

「その、浦……」

「ん〜? どうしたの?」

浦は拳銃からグルに視線を移した。光のない瞳を見てゾッとしたものの、グルは平然とした表情を作って訊く。

「いつ行くんだ……」

「今」

返事が早い。グルはうがいだけさせろと言って洗面所まで歩いた。窓がある。

本能的なものだろうか。うがいをしたあとに窓に手を掛けた。開くようなものだと思うと、後ろから視線を感じて手を離す。

「逃げようとしたでしょ」

目は笑っている。グルは「違う」とだけ連発した。その場から逃げ出そうと身を乗り出すと、左腕から軋轢音が鳴った。

「……さすが、物理的だ…… 」

これだと身動きもとれない。

吉木はそこら辺にあった杖を腕につけて、タオルで固定した。そして三角巾を首元で縛り、手を支える。包帯でさらに固定した。

「物理的かい? 容赦する気はないけど壊す気もないよ。心を壊しても体の一部を失わせたくない……」

愛しそうに患部を見ながらそっと撫でる。激痛でしかないはずなのに、グルは冷静になった。

何をしても無駄だと開き直ったのだ。


グルは目隠しをされて、吉木に抱えられながら航空機に入った。カツカツというハイヒールの音と酸っぱい匂いがする。

女の人に飲み物を訊かれると「お茶で」と吉木は答えた。

それからしばらく口を利かなかったが、グルは目の前に誰かが座ったと分かった途端に頭を上げた。

誰かは分からないが二人いる。ひとりは煙草を吸っているようだ。

沈黙の間は長かったが、初めに口を開いたのは吉木である。

「そっちの子も今から連れて行くのか。ずいぶん若い子だね」

(そっちの子……?)

つまりは目の前にいるもう一人も同じ状況。チャンスだとグルは思った。

しかし連絡手段でモールスを使ったとしてもすぐにバレる。希望が遠ざかってゆくのを感じた。


やがて半日ほど経ってアメリカへつく。

本部まで行くのにそれも時間がかかった。グルは目の前にいる男が誰なのかを知りたくてたまらなかったのか吉木に訴え続けたものの、適当にあしらわれる。

本部へとつく頃には朝になっていた。まだ男は目の前にいる。やっと目隠しを外して二人は対面したが、驚いた。

黄色の巻き髪に太眉……そして首のタトゥー。

「お前、大学の……」

「貴方、医学部の……!」

二人は先輩後輩であった。顔も知れている。確かクルルという男だった。同じ医学部で少しは会話をしていたのだ。

吉木にバレたくないと思い、顔を覗いたが吉木はパーカーで顔を隠している。表情は見えなかった。

ならクルルに近づいても……と一歩前に出ると引き戻される。さっき煙草を吸っていた男が吉木の肩を叩いた。

「可哀想だろう、骨折してるのに!」

体が大きく全身に入れ墨を入れている。そして髪は三つ編みされているではないか。

それにグルは一気に冷え上がった。背負っているカバンにはウサギのキーホルダーが沢山ぶら下がっているのだ。

「うるさいな、グル君は僕のだから隣に居て欲しいだけだ。一歩でも前か後ろに居たら嫌だし心拍数も一定であってほしい」

顔は見えないものの、雰囲気で狂気は十分伝わった。グルだけでなくクルルも小並に震えている。

「うえ、重。俺はクルルちゃんのこと自由にしてるけどな。グルちゃんと同じ部屋にしたら駄目か?」

「同じ部屋がいいですぅ!!」

間髪を容れずクルルが叫んだ。声は普通の男よりほんの少し高い。吉木は少し考えて「グル君に躾けさせるってことか」と言った。

「は? 無理に決まってるだろう。俺がコイツを捻じ伏せて逆らわなくさせるってことだろ?」

無理。グルは首を横に振って左腕を指さした。

「これ、コイツが折ったんだぜ。こんなこと出来ない」

煙草の男はゴミを見るような目をして吉木を眺める。クルルは単純に「大丈夫ですか?!」と飛びかかって心配した。

逆効果だ。

「グル君は他の人に優しすぎるんだよ。でも人質が増えてよかった」

安心しているのは人質が増えたことだった。グルからしてみればかわいい後輩である。 これに傷でもつけるとなれば……居ても立っても居られないであろう。

想像するだけで吉木は面白かった。地面に生えていた花を踏みつけて裏の道から奥へ進む。設備はちゃんとしていた。

「クルル、お前。何された」

歩きながらグルが訊く。手が痛いと偽ってケシの花をブチブチ踏み潰しながら歩いた。

「何されたって、特に何も。パソコンをしていただけですよ。ほら、暗号を解いたりウイルスイレたりしただけ」

日常茶飯事だったらしい。その能力が認められたが為にここへ連れてこられたのだとか。ふうんと鼻を鳴らしてグルは聞いていたが、一つ疑問に思った。

「お前、サーフィーが今ここに居るって知っていたか?」

「は、アイツが?! あんなに良い子がなんでここに? てかグルさんこそ何でここにいるんですか?! 」

今更すぎる。グルは今までのことを説明してサーフィーのことも知ってる限り教えた。

「あっ、なるほど〜。災難でしたね。サーフィーについては尋問してやりましょ!」

「……ああ」

こんな場所に居るのに慣れたように明るい。グルまで少し元気を貰えた気がした。

吉木はつまらなそうに外方を向いてスマホをいじっている。

グルは突然立ち止まってスマホを開いた、吉木から連絡が来たのだ。

(「その男と関わるな。ハッカーだから危ない目を見る」……?)

ハッとして隣を見る。純粋無垢な目で見ているが、やはり裏があるのだろうか。

それでもグルは吉木の言葉を無視して普通に話した。探るべきだと判断したのである。

「あ、おい。お前と俺はまた同じ部屋なのか? 欲を言えば一人がいい」

吉木は首を横に振って「それはできないんだ」と笑う。 グルはつまらなそうに俯いた。

暗かった道も光がさして、賑やかな部屋に入る。その中にはサーフィーも居た。

「あ、ラッちゃんおか〜」

手をひらひらとしながらグルとクルルに目をやり、驚愕していた。

そして椅子から落ちて体を痛めながらも全速力で駆けつける。190cmくらいの高身長に抱きしめられて二人はさぁっと血の気が引いた。

「離れろ気持ち悪い!!」

同時に叫んで吉木の方に寄る。サーフィーはむっと頬を膨らませてクルルからは手を離さなかった。

「何でこんなとこに来たの、業界と無関係なお前たちが」

喜びと疑問で表情が歪んでいる。吉木は声を変えてこう言った。

「いやあ、コイツら僕の連れなんだ。ラッちゃんがクルル君くれたからグル君に躾けさせてやろうと思ったからさぁ~」

媚びているような声を出されて、サーフィーは何とも言えなくなった。

「……何でこんなことに」

落ち込んだように眉をひそめるサーフィーを、グルはよしよしと撫でた。

「俺はそのうち”慣らされる”から大丈夫だ。けどお前が居るなら安心だな。何処かの誰かみたいに酷いことしてこないから」

吉木をディスってるだけだ。吉木はぷいっと顔を背けて深くフードを被る。そのときに一瞬だけ青い目が見えた。

「……部屋にさっさと連れて行ってくれないかな」

「へいへい、こっちだよ」

面倒くさそうにサーフィーは歩き始めて長い廊下を進んだ。木でできた扉を開くと、中にはベッドから棚まである。パソコンなんか4つもあった。

「すげ、お前って結構豪華な暮らしなんだな」

クルルが辺りを見回しながら言った。確かに。整備された部屋と潔白なベッドを見てみれば、それは豪華に思える。

クローゼットには小銃にマシンガン等がズラリと並んでいた。

「ふふ、俺はこの道を極めたからね! ハニトラとか凄い上級だよ? もう男落とすのゲームレベルに好きになった」

「それは人として駄目だろ」

思わず突っ込むほどだ。この業界に何一つ不満はないという様子で楽しいと語る。頬を緩めて目を細めるサーフィーは異常に見えていた。

「ところでクルル、後で話があるからこっち来て。ラッちゃんとコッちゃんと仲良くね」

「え、誰?」

「ライラとコープス・リバイバー(吉木のコードネーム)のことだよ」

この業界だとコードネームが普通だ。本名で呼ぶことなんてない。グルはそのことにまず驚いた。

自分のあだ名はどうなるのだろうとヒヤヒヤしていたものだ。

吉木はフードを下げて、爆笑した。

「何、緊張してる? 僕ってコープスって言われてるから皆の前だとそう呼んでね」

さっきとは別人化のように変わり果てた吉木を眺めてキュッと唇を引き締めた。

今、口を開いたら『コープスって死体だろ、お前死人扱いじゃねぇか』なんて言ってしまう。

グルは言葉を飲み込んで頷いた。

「なら俺のネームは?」

「お前? あ〜、コルト・パイソンとかどう? パイソンって呼ぶよ 」

コルト・パイソン、回転式拳銃の名前である。これが初めてつけられたグルの名前であった。

そのストレス、晴らします0

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