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過ぎ去った風景を思い出してしまったのか、咳き込んでいるラマスに対して多分に同情を含んだ視線を送っているキャス・パリーグの横で佇(たたず)みながら、レイブは思ったのである。
――――いやいやいや、何か可哀想はかわいそうなんだけどこの娘より周囲の人たちの方が持て余して居たって状況なんじゃないのソレ? それに、七本目ってぇ…… さっきの話からすると叩き折った歯の数でしょ? くっ、くうぅっ、シパイ兄ちゃん…… 辛かったんだね…… 耐えられ無くなって俺の所に厄介払い! そんな所でしょ、コレって…… くくうぅっ!
レイブの分析など知る由も無いキャス・パリーグが、双眸(そうぼう)に薄っすらと涙を浮かべながらラマスに言う。
「そう…… 苦労したのね……」
優しげな声音(こわね)に安心を感じたのか、ラマスが咳き込みを止め、ハッとした表情を返し不器用な笑顔を浮かべながら答える。
「いいえ、いいえっ、アタシの苦労なんて全然大した事ではありませんっ! そ、それよりも、シパイ師匠の苦労の方が余程…… う、ううぅぅっ……」
――――そりゃそうだ…… だってラマスは歯を折られたりして無いんじゃん、キャスも何でこの娘にそこまで惻隠してんの? 若しかして馬鹿なのかな、獅子ってぇ、モノホンの馬鹿、なのかなぁ?
一見失礼そうなレイブの想像は、次の瞬間に的を射ていたことが証明された。
感極まった感じで響き渡る獅子の言葉は馬鹿っぽくこうである。
「判ったわっ! ラマス! 私が学院長、ズィナミ・ヴァーズ様、現魔術師の頂点、鬼王様にお願いして魔解施術をして貰える様に計らいます! 彼女の施術なら大丈夫! キット立派な魔術師としての一歩を踏み出せるわよ♪」
「え、ええ? ズィナミ・ヴァーズ様自らの魔解施術をぉ! ほ、本当ですかぁ!」
キャス・パリーグは大きく力強い顎を地面に打ち付ける様にして見せながら大きな声で宣言だ。
「ええっ! ええっ、そうでしょうとも! もしも、万が一、億が一、兆が一、アナタが魔術師に必要不可欠な無垢の魔力をその身に帯びる事が出来なかった場合はぁ、えっとぉ、えっと…… そうなった場合には、ほら、ほらほら! アナタの師匠シパイさんが言っていた様にレイブに師事してしまえば良いじゃ無いのぉ! 万が一駄目だったらレイブに教えてもらえば良いわ、何だっけぇ? スキル? ほら、それを覚え切るまでレイブに頼れば良いんじゃない?」
「えっ! いやだって俺自身使えないんですよ? パリーグ、良く考えてくださいよ! 一体全体、スキルってのが何なのかまだ皆目見当がぁ――――」
「はいっ! 副学院長様ぁっ! もし魔術師になれなかったらレイブ叔父様に教えて貰えるまでこの地で頑張ります! ありがとうございますっ!」
「えええええぇぇぇぇぇっ……」
レイブはラマスの面倒を見なければいけない、そう決まってしまった様である。