テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ニキ「……キル?大丈夫そう?」
キル「あ?……大丈夫。」
ニキ「嘘でしょ、あからさまに最近元気ないよ。弐十ちゃんといるときは隠してるけど。」
キル「……」
ディスコ上から聞こえてくるニキの声に、俺は何も言えずに只黙った。
先程まで吸っていた煙草が手の中でもう熱を失っているのがわかる。
自分でもわかってる、どうしてこんな平常心を失っているのか。
いや、逆に頭が冷えて冷静になってるかもしれないけど。
俺がこうなってるのは、あの時集まった翌日に弐十君から病気のことを聞かされてから。
あの時居酒屋で蹲って苦し気に花を吐いた弐十君を見て、頭が真っ白になった記憶は今でも鮮明に残ってる。
何もできなかった俺とは違って、知識もあって冷静な判断ができがしろせんせーが弐十君を病院に連れて行った。
その後普通に飲み会を続けられるはずもなく一時間持たずして解散してからずっと鬼電と大量のメールをしたときとは違って、今は頭が冷水を浴びせられたように冷静だった。
今ディスコにいるのは、俺とニキだけ。
他の面々はどこかへ出かけたかで今は居ない。いつもに比べて静かだ。
キル「……まぁね、あれ聞いて何も思わない方がおかしいと思うけど。」
ニキ「確かにね。」
カタカタ、と再びパソコンのキーボードを打つ音だけが響く。
エンターキーを押してふと我に返ればもう作業は殆ど終わっていた。
けれどそれくらいしかやる気にならないので、終わらせてしまおうと再びキーボードを叩く。
ニキ「キルは弐十ちゃんのこと好きでしょ。」
カタ。
指が止まった。
誰にも、悟らせていないはずだ。
本人にはもちろん、最強無敵連合のメンバーにも。
ニキの声は真っすぐだった。
疑問形でも、気を遣っているような気配でもなく、只静かに事実を述べるだけのような淡々とした口調。
キル「……関係ないだろ、お前には。」
思ったよりも冷たく突き放すような、怒りのこもった声が出た。
俺が弐十君を好きだから、だから何だ。
キル「この気持ちは一生蓋をして生きていくって決めたんだよ、弐十君が花吐き病だって知った時に。」
何なら、それよりもずっと前に。
ニキ「なんで?」
キル「想像つくだろ。気を遣わせるかこっぴどくフラれるかの二択。」
ニキ「……そっか。」
再び沈黙が落ちた。
付き合いたいと、思ったことがないわけではない。
けれどそれよりもこの関係を壊してしまうのが嫌だった。
相棒で、親友で、アイツの隣に立っている俺のことを、俺は誇らしく思っていたから。
弐十君を傷つけたくない、気を遣わせたくない。
それと同じくらいに、俺は自分が傷ついてしまうのが怖かった。
キル「……ほんと、馬鹿みてぇ……」
自嘲気味に呟いたその言葉が、酷く寂しく部屋に響く。
ニキ「……なぁ、自分勝手なこと言っていい?」
キル「ん?」
ニキ「俺、キルと弐十ちゃんはちゃんと話すべきだと思う。」
キル「ちゃんと話すって…」
ニキ「大事なところ、全部一人で抱え込むのはさ、二人の悪い癖だよ。」
ニキの言葉に何も言い返せずの俺は黙った。
ニキ「話さなくても伝わるからっていう、昔からの仲だからこその甘えなのか。それとも二人が相手に迷惑かけたくないとかの理由だか俺にはわかんないけど。」
ニキ「今のままだと、きっとお互い後悔する。」
だから、お願い。
……お前は、昔からそうだよな。
俺とは真反対だよ。
相手を決して傷つけずに、けれどはっきりと、言葉にして伝えて。
いつもはボケて面白いこと言って、でもこういう時には、痛いくらい真っすぐで。
キル「ほんと……お前のそういうところ嫌いだわ。」
ニキ「知ってる。笑」
キル「……一回だけな。」
全部、話すことはきっとできない。
それでも、真っすぐに向き合うことが一度だけでもできるのならば。
きっと、割り切れるから。
この感情を、完璧に切り捨てることができるから。
…………ごめん、弐十君。
少しだけ、傷つけてしまうかもしれない。
でも、これで…………
本当に、諦めるから、
どうか、許して。
弐十「ぅ”げほ、げほっ、ぇ”う、がはっ、!」
あれから、三か月。
花吐き病の症状はどんどん酷くなっていった。
ずっと、ずっと俺が思っていたよりも苦しく、辛い。
前は数時間に一回だったのが、一時間に一回、三十分に一回とどんどん幅が狭くなっていき、吐き出される花の量も前の倍以上増えた。ゴミ箱には大量の花が捨てられていて、そこからはみ出した花が床に散乱している。
けれど片付ける途中でも花を吐いてしまうのでまともに片づけることもできずに放置しているのが現状。
弐十「っ、は……」
吐き出した後に呼吸を整えて、俺はせんせーからの通知を見た。
せんせーはあれから俺の相談にも乗ってくれるし、適度に俺の家に訪れて掃除を偶にしてくれるようになった。
ありがたいけれど申し訳ない、って言ったら怒った顔で困ったときはお互いさまやろ、ってデコピンされた。
優しいなぁ……
今日は症状が過去一番酷い。
呼吸もしずらいし本当に詰まって死んでしまうんじゃないかと思うほど花を吐いてしまう。
今日せんせー来れないって言ってたよね、まぁ、酷い姿見せて心配されたくないしなぁ。
逆に好都合、なんて思いながら俺はスマホを見る。
弐十「……え、?」
その内容に、絶句した。
『ごめん弐十ちゃん、今日行けなくて。代わりにキルちゃんが行くって言ってた。』
弐十「うそ……」
『まじでごめん、あんまり気乗りしないかもしれないけど、話すだけ話してみてほしい。』
そこでメッセージは途切れていた。
心臓がばくん、と嫌な音を立てる。
せりあがってくる嘔吐感に口元を抑えて俺は咳き込み、花を吐き出す。
感情が大きく波を立てたのかかなりの量の花が口から出てきて、震える手で近くのごみ箱を掴んだ。
この数週間、俺は花吐き病の症状を止めるために、長く続けた片思いを割り切ろうとして、少しだけトルテさんと距離を取った。
恋を自然に終わらせることができたら治るかもしれないと思って。
けれど、点で駄目だった。
逆に話さないことによってトルテさんのことを考える時間が増えて、症状は悪化した。
だから、俺は決めたんだ。
いつも通りに過ごして、このままこの感情に綺麗に蓋をしてしまおうと。
トルテさんと距離を取るのはやめたけど、絶対に二人では話さない。少なくとも花吐き病が治るまでは。
花吐き病を直すために。この酷く脆い自分を守るために。
そう、決めたのに……
呆然とスマホの画面を見つめて数十秒。
はっと我に返り、後ろを振り返れば散乱した部屋がそこにはあって。
弐十「来るなら……掃除しなきゃ。」
みっともないとこはみせたくない。
そう思って重くだるい身体を必死に動かして俺は片付けを始めた。