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会社帰りに坪井と過ごしてから、翌々日のことだった。
真衣香の目には、フロアに敷き詰められているオフィス用のカーペットの生地が映っていた。
「も、申し訳ありませんでした」
朝一番、営業部に呼び出された真衣香は小野原と森野に頭を下げている。
その、真っ最中だ。
理由は一昨日、小野原に頼まれた入力の仕事。
単純作業にも関わらず、あの作業の中で大きな入力ミスがあったのだという。
(どう考えても坪井くんが間違えるわけないし、私が入力した部分だよね……)
数日前のように、まだ社内に人はまばらで営業部も数人しか出勤していない時間。
静まり返っている為、頭上から小野原が大きく息を吐く音がハッキリと聞こえた。
真衣香はピクリと肩を震わせる。
「……まぁ、いつもの立花さんの仕事ぶりを信用してさ、頼んじゃった私も悪いんだけど」
「す、すみません」
「私に謝られてもね」
真衣香が依頼された入力作業は卸業者を通さず直接取引をしている大型小売店からのクレーム内容と、その改善案をまとめてデータ化させるというもの。
うち一件に対して早急な対応が必要だった為、あの日は翌朝までにと依頼をされていたようだ。
「昨日の朝イチで、坪井くんと組んでるうちの営業に電話が入ったの。 伝えてた期日までに回答と改善案がなかったから、陳列を見直したって」
「わ〜、うちの商品目立たないとこに下げられちゃってますよね」
「一応その営業がフォロー行ったけど、今更何しに来たってご立腹だったらしくてね」
小野原の冷静な声と、森野のからかうような声。
真衣香のミスは、数点あったクレームのうち解決済みではないものを完了とし、実際には出向かなくてもよかったトラブルの無い小売店にクレームフォローへ行かせてしまった。
結果、朝イチで対応を待っていた小売店側にフォローができていなかったというものだ。
ここ数年で大きな成長を遂げているといわれている真衣香が働くYフーズ・セレクトは家庭用、業務用共にあらゆる加工食品を手がける食品メーカーだ。
安定はしているが、今はまだ決して大手企業とは言えない。
そのYフーズ・セレクトにとって坪井の在籍する営業部二課は、今後の成長の核となる量販店や大型小売店など卸業者を通さない直接取引が主な業務内容だ。
一課が主に卸業者へのルート営業を担当し、日常的な受注は電話やメール、そしてFAXで済ませることが多いことに対し。
二課は直接取引の量販店、大型小売店、稀に、ある程度の受注を見込める飲食店などを相手にしている。
その為、一課よりも取引先に足を運ぶことが多い。役職以外は若手で構成されている為忙しく、みんな『早く一課にいきたい』と愚痴っていると真衣香は聞いていた。
(そんな忙しい人たちの邪魔……しちゃったの、私)
「今日も坪井くん戻らないし部長も連日会議で戻らないんだよね、困ったな、こんな忙しい時期に」
「正直あそこの仕入れ担当者、部長か坪井さんくらいしか相手にしてくれませんもんねぇ」
「す、すみません、本当にすみません」
坪井の名が出た為、更に焦ったのか。
真衣香は握り締めた手に汗をかいた。
「坪井さんかわいそ〜。 戻ったらいきなり仕事増えちゃいましたね、ちょっと優しくしてあげたら、勘違いして、お花畑になってた、冴えない同期のせいで」
一字一句真衣香に立場を言い聞かせるように森野が嫌味とも取れる発言をする。