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「聞きたいことがあるの、星流祭の時のことについて」
私がそう言うと、ブライトは目を見開いて、アメジストの瞳を大きく揺らした。まさか、聞かれるとは思っていなかった……とでもいうような表情に私も彼と同じく何て言われるのか分からないため、身構えてしまった。
ブライトは、少し開いていた口をギュッと閉じて、アメジストの瞳を私から逸らした。言いたくないのならそれでもいいと思ったが、そうなるとずっと逃げられそうな気がして、私は追撃をする。
「怒って怒って聞かれたら怒っているけど、アンタにもアンタなりの事情があっただろうし、私もあの時はどうかしてたと思う。でも、色々と聞きたいの。出会った時もそうだったけど、アンタと弟の間に何かあるの?」
「それは……それは……すみません、言えません」
と、予想外の言葉が返ってき、私は思わずは? と低い声が出てしまった。だが、ブライトは言えないというように目を伏せた。そんなに深刻なことなのか、誰にも言えないようなことなのか。そうなれば、益々気になってしまうなあと思いつつ私はブライトの次の言葉を待った。
彼は本当に不思議で謎の多い人だから。
リース以外攻略キャラのことをよく知らないため、彼が何を考えているのかがよく分からない。グランツの次ぐらいには長い時間を共にしたが、それでも交す言葉はちょっとした世間話と魔法について。だからこそ、彼については何も情報がないのだ。彼が私のことどう思っているかは、他の攻略キャラ以上に。
「本当にすみません。まだ僕には、それをお伝えできるほどの勇気がありません」
「何で? 話せないようなこと……? それとも、トワイライトだったら話せる……とか」
「そういうことではないです。寧ろ、エトワール様にお話ししなければとずっと思ってきました。ですが」
と、ブライトは言葉を句切る。そこまで言われると疑問が頭の中を飛び交って、知りたいという欲求に支配されてしまうではないか。
ブライトは言う勇気がないと言ったから、本当に深刻なことなのだろう。誰にも知られたくないような秘密であるに違いない。そう思うと、知りたいという気持ちとは真逆にそっとしておいてあげたいとも思った。相反する思いを抱えながら、トワイライトを見ると、彼女はブライトに対して何で言わないんだというような、ちょっと怒ったような顔を向けていた。
「僕は、エトワール様に嫌われるのが……いえ、誰かに嫌われるのが怖くて」
そう、ブライトは口にして下を向いた。
彼の口から次々にでてくる言葉にやはり疑問視か浮かばない。何を考えているか話からなからこそ、彼が次何を言うか予想が出来ないのだ。それに、彼が何故そんな言葉を言うのか、彼の言葉にどんな意味があるのかすら私には分からなかった。
ただ、私に嫌われたくないという言葉から、少なくとも私のことを嫌っている様子で花飼った。それだけ知れただけでも私は、大きな収穫だと思う。
「……星流祭の時、あんな風に僕も取り乱してしまって、エトワール様に不快な思いをさせてしまいました。嫌われて当然だと。その後、エトワール様に合わせる顔がなくて、神殿に行くことを避けていました。勿論、忙しかったのもあります。そして、調査の結果を聞いて、貴方に会いたいと、会わなければならないと思いました。ですが、プライドと会わせる顔などないと……」
ブライトはそこまで言って息継ぎをする。
嫌われたと思っていた。という言葉に私は、あの時の自分の行動を振返る。あの時は、ブライトと同じく取り乱していたし、アルベドも現われて、本当に混乱していたのもあった。自分の感情が制御出来ないような不思議な感覚にもおそわれていた。それこそ、あの怪物の中に入った時みたいに負の感情の波が押し寄せてきたみたいに。
そこまで考えて、あの時感じた嫌な感じはまさにそれだと気がついた。怪物の時と一緒だと。調査の時、怪物に食われたからこそ、星流祭の時の現象について分かったのだと。
だが、あの時怪物は近くにいなかった。もしかしたら近くにいたのかも知れないし、小さい個体だったのかも知れない。定かではないが、近くに災厄に関する何かがいたことは事実だろう。だから、私はブライトに当たってしまった。その事で彼を傷つけてしまったんだと、後悔している。
嫌われて当然なのは私の方ではないかと。
(冷静になった今だから、あの時の状況を思い出して判断できた。矢っ張り、落ち着いていないとダメなんだ)
まだ怒りが収まっていないため、グランツとは当分話せそうにないが、彼の心の内も聞きたいと思った。そうすれば、彼が考えていることだって理解できるかも知れないから。
「本当に、すみませんでした。エトワール様」
「ううん、私だってあの時も当たっちゃってごめん……あれだけよくしてくれたのに、ほんの少しのことで」
「いえ、無理もないと思います。僕が悪かったので」
「ブライトは、悪くないよ。ほんと、全然」
と、言うと、ブライトはいえ。と自分が悪いと曲げなかった。何故そこまで抱え込んでいるのか分からなかったが、聞いてはいけないような雰囲気だった為、私はそれ以上聞くことはなかった。
「そ、それじゃあ、ブライトは私のこと嫌いになったりとかそう言うんじゃないってこと?」
「え?」
「へ?」
私がそう聞くと、ブライトは何を聞くんだというように目を丸くしていた。
それはどっちに捉えれば良いのか分からずにいると、ブライトはフッと笑って私の頭を撫でた。
「嫌いなわけないじゃないですか。エトワール様の事、嫌いになるわけないです」
「え、あ……ぁ」
いきなり笑顔を向けられて、頭を撫でられて、私の体温はグッと上がってしまった。先ほどその笑顔はトワイライトに向けらていたのに、自分に向けられたことが少し嬉しく感じたのだ。その笑顔は、トワイライトが現われる前、一度も見たことのない物で、心から私のこと嫌っていないと言うことが伝わってきた。信頼関係が戻ってきたのではないかと、私が胸をなで下ろしていると、トワイライトがグッと私を抱き寄せて、ブライトを睨み付けた。
「い、幾らブライト様でも、お姉様は譲りませんから」
「トワイライト!?」
トワイライトは、ブライトに敵意むき出しといった感じで睨んでいて、ブライトも驚いているようだったが、少し寂しそうな笑みを浮べた後、プッと吹き出して笑った。
「本当に仲がいいんですね。お二人は。まるで、本物の姉妹みたいです」
ブライトは、誰かと重ねるようにそう言うと、時間になったので。と女神の庭園を後にした。今度はいつ会えるのかとか、家に行ってもいいのだとか色々後から聞きたいことが出てきたが、そう思ったときにはもう彼の姿はなかった。
久しぶりに会って、嫌な奴と一瞬思ったが、彼の言葉を受けて、彼が私のこと嫌いになったわけじゃないとしって安心した。×を付けかけたが、まだ可能性はあるかも知れない。そう思うと、グランツも×を完全に付けるにはまだ早いのかも。
そんなことを考えつつ、彼が最後に浮べた笑みを思い出した。
(あれってきっと、自分の弟と私達を重ねたんだよね。上手くいっていないのかな……ブラコンって設定だったし、弟のこと溺愛していると思ったんだけど。ブライトはヤンデレって感じじゃないし……)
私は、ブライトと彼の弟のファウダーのことについてあれこれ考えたが結論は出ず、先ほどから抱きしめているトワイライトのことが気になって声をかけた。
「と、トワイライト、いつまで抱きしめているの?」
「お姉様を吸っているんです」
「猫を吸うみたいに言わないで! というか、その言葉何処で覚えたの?」
トワイライトは、私のない胸に頭を埋めながら、離れたくないと言った様子で私を抱きしめていた。まあ、もう少し彼女の好きにさせてあげるか……と私は女神の庭園の空を見上げた。ここは、いつでも晴天で、青い空に白い雲がたまに流れるだけで変わらない。ここは、落ち着く場所であり、きっと神殿と聖女殿の周辺で一番安全な場所だろう。そんな場所で、妹と二人、悪くないと、私は口角を上げた。
そんな私を見てか、トワイライトはぼそりと呟く。
「私、少し思ったんですけど、ブライト様って何か隠し事があるみたいなんですよね」
「トワイライトもそう思うの?」
と、トワイライトに聞くと、彼女はコクリと頷いた。
「何かに怯えたような顔をしているので……気のせいかも知れませんけど」
怯えている? と私は口にして、考えた。幾ら立っても、そのことにかんする心当たりなど全くなく、ブライトが怯えたような表情を見せたことがあったのだろうかと。トワイライトにだけ見せたのか、彼女だから気づいたのかは定かではないが、ブライトは私やトワイライトから見ても何かを隠しているようにしか見えないのだ。その何かを言う勇気がないと。
「お姉様、この後お時間ありますか?」
「時間? 多分、あるけど、どうして?」
「外出許可をもらって、二人で城下町にでも行きたい……なぁ、と。その、勿論迷惑でしたらいいんです。でも、この国のこと知ってみたいと思ったので」
そうトワイライトは言って、私を見上げた。純白の瞳が潤んでいて、彼女の要望を叶えてあげなければと云う衝動に駆られる。それに、私も気分転換に城下町に行きたいと思っていたところだ。外出許可が貰えるかは定かではないが。
「いいね、聞いてみよう。私もトワイライトと一緒に買い物行きたいし」
「ほんとですか!」
彼女の頭に耳が生えているように見え、子犬のように尻尾を思いっきり揺らしている様子が目に見えるようだった。