コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
法師は、いつも冷静で、言葉の端々には必ず敬意が込められている。口調は常に穏やかで、彼の存在は一見すると控えめに感じられるが、その裏に隠された力は計り知れない。
「…お手伝いをさせていただきます、南無様。」
その声は、違和感もなく響くが、彼の目が閉じていることを知っている者にとっては、その存在自体が不思議に思えるだろう。
法師は常に目を閉じ、目を見開くことがない。だが、その代わりに他の五感――いや、五感以上に研ぎ澄まされた第六感を持っている。彼の感覚は普通の人間のそれを遥かに超えており、まるで周囲の気配や心の動きさえも感じ取ることができる。
石動は法師のことを初めて見たとき、その視線の鋭さに驚いた。目を開かない法師が、どうしてこれほどの感覚を持っているのか。疑問を持ちつつ、石動は彼と一緒に過ごす時間が増えていった。
「法師さん、目が見えないのにどうしてこんなに…」
石動がある日、驚いて質問したことがあった。
「私は、目で見ることができません。しかし、目に頼らない方法で世界を知っています。」
法師はいつものように淡々と答えた。その答えに、港は一瞬戸惑ったが、すぐに理解した。法師の目が見えないことは、彼にとっては障害ではなく、むしろ彼の力を増すための一つの手段なのだと。
「私は、感じるのです。風の動き、土の匂い、足元の温度、そして――相手の心さえも。」
法師の言葉は、港にとって新しい発見だった。それまで目に頼っていた世界の見方が、法師の言葉で一気に広がった気がした。
シーレイヴンがあらゆる使い魔を繰り出し、南無を圧倒しようとしたその瞬間、法師が一歩前に出た。
「南無様、少々お待ちください。」
法師は、静かな声で言うと、背中から大きな琵琶を取り出した。琵琶の表面は美しく磨かれており、まるで古代の遺物のように見えたが、その重さと力は常人の想像を超えていた。
「この音で、全てを終わらせます。」
法師は琵琶の弦に指を走らせると、まるで神が降りてきたかのように、音楽が空気を震わせ始めた。音色が、次第に周囲の空気を切り裂いていく。
その音はただの音楽ではない。法師の琵琶には、言霊のような力が宿っており、その旋律が敵の存在そのものを否定する力を持っていた。
シーレイヴンが目を見開いた瞬間、音波が彼を包み込み、彼の身体が一瞬で固まった。
「嘘だろ…!」
シーレイヴンが叫ぶが、その声は琵琶の音に飲み込まれて消えた。
そして、次の瞬間、シーレイヴンは無抵抗に倒れた。彼の体がその場に崩れ落ち、全ての異能を失ったように動かなくなった。
「終了です。」
法師は、琵琶を静かに肩に掛け、その場を静かに見渡した。彼の目は閉じたままだが、その目で何を見ているのかは、誰も知ることができなかった。
港は、その光景を目の当たりにして息を呑んだ。彼が一番驚いたのは、法師の穏やかな表情の裏に潜む凄まじい力だった。
「…あの人、ただの侍じゃなかったんだな。」
港がそう呟くと、南無が静かに頷いた。
「彼の力は、見た目以上に恐ろしい。目を閉じているのは、彼にとってそれが一番自然だからだ。感覚の鋭さが、普通の人間のそれとは違う。」
石動の言葉には、彼自身も法師の力に驚かされている様子がうかがえた。
「さすが、渋谷が認める狩り手に認められた狩り手だな。」
港が笑いながら言い、軽く微笑んだ。