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放課後。まだ陽の残る駅前のベンチ。制服ではなく、私服に着替えた沙耶香が、コンビニの袋を手に座っていた。
アイスコーヒーをひと口。
その隣に、やや遅れて蓮司がやってくる。
「遅かったね」
「ちょっと幕引きしてた」
蓮司はそう言って、缶コーヒーを取り出しながら座った。
「今日は何の演目?」
沙耶香の問いに、蓮司は空を見上げるように笑った。
「“共犯者たちの愛”──演出付きで」
「……ふーん。ウケた?」
「そこそこ。
黒板に線を引いただけで、結構な笑い取れたし」
沙耶香は、興味があるのかないのかも分からない顔で、
蓮司の方を一度だけ見た。
「で、どっちが壊れそう?」
蓮司は少し考えて、言った。
「どっちも壊れないようにしてるから、面白いんじゃん」
「壊れないほうが?」
「うん。壊れそうで壊れない。
自罰で踏みとどまって、苦しんでるのに“自分が悪い”って思ってる。
そういうのが、いちばん映えるでしょ」
沙耶香は無言のまま、ストローで氷をかき混ぜる。
「“演技”って、案外、見てる方のほうが疲れるんだよね」
蓮司の目が、どこか遠くを見ていた。
「どこまでが本気で、どこからが嘘で。
泣いてるのは本心か、狙ってるのか。
……“疑いたくなる構図”にしておけば、あとは勝手に潰れてくれる」
「クラスの子たち、信じてるの?」
「信じなくても、“空気”で行動するようになる。
誰も『間違ってる』とは言わない。
だって、反論したら──“そいつも加害者”になるもん」
沙耶香は、やや間をおいて言った。
「昔のあんたと、あんまり変わってないね」
蓮司は、ひとつ笑った。
「変わってないよ。
ただ──今回は、“壊すための演出”じゃない」
「へぇ。じゃあ、何のため?」
蓮司は、指先でコーヒー缶のフチをなぞる。
「“演じることをやめさせる”ため」
沙耶香はもう、蓮司を見ていなかった。
彼の言葉だけが、耳に残る。
「可哀想なフリって、ほんとに可哀想な人間を殺すからさ」
風が、ベンチの下に落ちたアイスの包み紙を転がしていく。
陽は傾き、街は夕方の色に染まっていく。
その中で、ふたりはただ、
淡々と──自分たちが作った“構造”を眺めていた。
誰にも見られない場所で。
誰にも止められないまま。