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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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ムニカ・リオ編最後!

最終回は安定的にめちゃ短い!

いってら~








カナタに追い付いたリオは、目の前の状況に困惑した。

「カナタ先輩!剣……!」

「あ、リオ。剣ね、折られちゃった。コピー持ってる?」

「一応……」

リオが腰から剣を取り、ぽん、と同じものを複製する。

その光景をみて、ムニカは考えた。

(複製の能力、あの子だったんだ……背が高くて、かっこいいなあ)

いいな、いいな。

きっと、両親に手厚く世話されて、愛されて育ってきたんだろうな。

目が輝いてるもん。見ててわかる。

死んだ魚みたいな自分とは、違うんだよな。

「……もういい?」

ムニカは訊く。

別に、相手に武器がない状態だとこちらが有利だから、待ってあげている訳ではない。

ただ極力、戦いたくないだけだ。

もう疲れた。

「……待っててくれたんだ。ありがと、優しいんだね」

だから、違うんだって。

ムニカは、カナタが帰っていくのを確認する。

(上層部が消えたから、用はないんだ……自分には、手をかけて救うほどの、価値もないのかな……)

上の人間は、いつもそうだ。

でも、あの青髪は、まあまあいい奴だった。

何も言わずに通行人の首を締め始めた時には驚いたが、今思えばあれは、タヨキミを誘き寄せるためにやったことなんだろう。

自分が囮とばかり思っていたが、実際、そんなこともなかった。

少なくともあの青髪は、自分ならしっかりやれると信じて、仕事を任せてくれたんだろう。

せめて何か言えばいいのに。なんで話してくれないんだろう。


(……考えるの、めんどくさい。結局はみんな一緒なんだから、どうでもいいや)


ムニカは、剣を構えるリオの足元に、魔方陣を展開した。










────どうして、あの子みたいにやれないの?

────あなたはお姉ちゃんなのに、妹より弱いんだ

────役立たずね


────あんたなんか、生まないほうが良かったわ



世の中というのは、不公平だ。


才能のある者と、才能のない者がいる。

自分の妹には、才能があった。

自分には、才能がなかった。


能力者だって人間だ。

好きで、こんなへっぽこ能力を持って生まれてきた訳じゃない。

もし能力を自分で決められたら、そうだな。

ハルカのような、戦闘向きで、単純に強い能力。

イヌイのような、強くて、どこでも使えるような能力。

ルナのような、自分にとって都合のいい、便利な能力。


……そして、妹のような、人の役に立てる能力。

妹のような、人に羨まれる能力。



自分の能力は、弱いうえに、使い道がない。

両親は、才能がある、妹を選んだ。



どうして自分じゃないの?

自分じゃダメなの?

自分には存在価値がないの?

自分は、人の役にたてないの?

自分は、自分には。

何も、ないの?



────だったらお前に、ハルカが、生きる価値をあげる


手も、顔も、家族の血でどろどろ。

自分の周りにはもげた腕、踏まれた眼球、破れた臓器、そしてあちこちに飛び散った血液。

強烈な異臭に朦朧とする視界の中、”あいつ”はそこにいた。


自分はあの日、自分を愛してくれなかった両親、自分から愛を奪った妹を、自分で虐殺したんだ。

自分がやった。この状況も、自分が、ぜんぶ。


……いや、違うな。


確かに自分が殺したが、この周りの悲惨な状態は、あいつがやった。

まだほんのりあったかい死体を、浮かせたナイフで、ぐちゃぐちゃに。


────なんで、死体を刻むの?


自分が訊くと、あいつはこちらを向かずに、ただ楽しそうに答える。


────こっちのほうが、処理が簡単じゃん?処理する気ないけどね~


あいつは「仕上げ」と言って、銃で、三人の胸を撃つ。


────この銃声を聞いた近所の人が通報して、多分もう少しでサツが来る。意味わかる?


────別にいい。元から自首するつもりだから


────もしハルカについてきたら、お前を助けてあげる。ハルカが、役に立たせてあげるよ


みんなお前を必要とする。みんなお前を愛してくれる。

その言葉に、自分は、揺さぶられた。


────ね、キビアイ、来るっしょ?


自分は、頷いた。

やっと、役に立てる。必要とされる。愛してくれる。

自分が、邪魔者にならない世界に……


頷く自分を見て、あいつは目を細めて笑う。


────やりぃ♡ 信じてたよっ




これが、自分の、地獄の始まりだった。








ムニカは、あちこちに魔方陣を展開する。

リオは器用に避け、ムニカとの距離を詰めた。

「あんたは、キビアイにいて辛くないの?」

問いかけるリオ。

「……辛いよ」

ムニカが、剣から逃げながら答える。

「なら……」

リオは続けようとするが、黙った。

ムニカの様子が、おかしい。




結局、自分は、弄ばれただけなんだ。

唐突に理解した。


あの日のハルカからの勧誘も、救いようのない自分を救ってくれたと見せかけて、揺さぶられる自分を見て楽しんでただけ。


イヌイのクスリを切らせたのも、恐らくハルカだ。

自分を追い詰めるイヌイを見て、さぞ楽しかったんだろうなあ。


ヒトネを自分と行かせたのも、自分と合わないってわかってて、

わざとイヌイに行かせて、仕向けたんだろう。


会議で自分に質問したのも、お前は使えないって、自分を落ち込ませるため。


ハルカは色んな手を使って、自分を苦しませて、面白がっていただけ。



そんな最高の玩具が──もし死んだら、あいつはどう思うんだろうか。

悲しんでくれるかな。

それとも、死まで笑いものにするのかな。



「……ムニカ?」

攻撃の手を止めるムニカに、リオは対応に困る。




甦る、大嫌いな上司たちの声。


────テメェみてえなクソに存在価値ねエよ

そうだ。自分には、端から存在価値などなかったんだ。

教えてくれて、思い出させてくれてありがとう、イヌイ。


────ムニカ、火

ライターにされたって、役にたててたなら、別にいいや……

自分を使ってくれてありがとう、ルナ。


────使えないけど、使う

使えなくてごめんなさい。せっかく連れてきてくれたのに、使えなくてごめんなさい。

でも、ちゃんと使ってくれた。ありがとう、ハルカ。






────楽しくないよ。でも、楽しそうにしてれば、楽しくなるよ

楽しく、楽しく、楽しそうに。

最期くらい、笑って──そうでしょ、ヒトネ。




ありがとう、クソ上司ども。

これは、自分からの、使ってくれた”お礼”──いや、”復讐”だ。



ざまあ、みろ。




ムニカがしようとしている事に、リオが気付く。


「!?」


急な事で、声が出ない。やばい。


ムニカは、きっと…………自殺する気だ。




「───ありがとう。ごめん、なさい」



笑って、自分。

ほら、もう、苦しくないよ。



ムニカは、自分の足元に、魔方陣を展開する。


温かい太陽の下。ひとりの少女の命を連れて、炎は高く昇った。








黒く焦げた死体の横。誰もいなくなった川辺で、トオンは手を合わせる。

(上層部の俺は、人助けもしちゃあ駄目ってか……)


俺なら……ムニカを救えた。

周りより、早く気付いたのに。

あのデカい女よりかなり前、ムニカが動きを止めたところから、トオンはムニカが自殺するとわかってた。

いや……知っていた、という表現のほうが正しいだろうか。


「気は済んだか?」


ふーっ、と、聞きなれた吐息音。

トオンが見上げると、ルナが立っていた。

「……お前のせいで、ムニカは死んだんだろ」

トオンの言葉に、ルナはいつも通りの笑顔で否定する。

「違うね。お前の腕力があれば、俺の制止くらい振り払えただろ」

「……正当化すんなよ。お前が止めたら、ボスの命令だと思うだろうが。立場を悪用すんな」

ルナの顔から笑顔が消える。

「……勘のいい餓鬼だな。そういう冷たいとこ、堪んねえ……どーでもいいが、まあ聞け。ありがたいお話をしてやる」

ルナの声。いつもより低く、少し怒ってるようだった。

「命の価値は平等じゃねえ。こんな雑魚を救うためにお前が動いて、上層部が欠けたら大変だからなあ。タヨキミは強え。だから俺たち上層部は圧をかけて、タヨキミにひよってるあいつらを、無理矢理にでも動かさないといけねえんだ。上には上がいて、それができなきゃあ、俺だってハルカやボスに殺されちまう」

トオンは、少し驚いた。ルナが、ハルカに殺される──そんな事があるのか。

「だからな──お前のその優しさは、キビアイには要らねえんだ。捨てるにゃあ勿体ねえがな。まあ、要するに、次から自殺しようとしてる雑魚がいても、助けようとすんじゃねえぞ。次やろうとしたら……そうだなあ、ヒトネを粛清しよう」

トオンは目をみはる。

「これは冗談じゃねえからな。ヒトネくらい、どうにでもなる」

それだけ言って、ルナは去っていった。


ヒトネを粛清……それを聞いて、トオンは下を向いた。


「……ぜってえ、させねえよ」


──何があろうと、ヒトネは絶対に俺が守る。

あの日、決めたんだ。








救えなかった。

私には、救えなかった。


リオは部屋のベッドに座って、窓の外の空をぼーっと見つめる。


私がいけなかったのかな。

ムニカは、私が──私が、殺した?


いや、考えても仕方がない。

ムニカは自殺した。この事実は、私がいくら過去を悔やもうと、変わらない。

ムニカは、二度と帰ってこないんだから。


(──救いたかった、なあ)


ごめんね、ムニカ。ごめんなさい。

どうか、安らかに。


こん、こん。

部屋のドアがなった。

『リオ……お昼ご飯、部屋の前に置いておくよ』

カエデの声。

「ありがとう」

リオはそれだけ言って、また、空を見上げた。




「カエデ!リオとカナタ先輩は!?」

サユの声に、カエデは首をふる。

「しばらく、そっとしておいたほうがいいかも。カナタも、相当落ち込んでる」

カナタが……?みんながそんな顔をすると、カエデは「リオに任せて、帰っちゃったから」と泣きそうな顔で言った。

「…………ぼくが、カナちゃんに、上層部としか戦っちゃ駄目だよって、言ったから……」

ソーユが階段に座り、低い声で呟く。横にはツキミが寄り添い、ソーユを心配そうに見つめていた。


「……この事件は、誰も悪くない。ムニカも、リオも、カナタも、ソーユも。仕方がない」


アキトが、みんなを見渡す。

「今まで黙ってて、ごめん……みんなに、言わなきゃいけない事があるんだ」

意を決したアキトに、ユズキとカエデが反応する。

「アキト……」

「もう、流石に言わなきゃ。引きずってても仕方ないから」

何か言いたげなユズキの肩に、カエデが手を置いた。

アキトは少し間をあけてから、口を開く。


「全員いる時に話したかったけど……キビアイの、ボスについての話だ


その言葉に、一同は、息をのんだ。





続く









完結ありがとうございました!

ムニカちゃあああああああ、、、と叫びながら書いてました。

がち病む。


今回は、タヨキミ側とキビアイ側で真反対パターンです。

前回のユカセツ編は、二人とも『人間』にからんでるという共通点があってからの救われ方が反対だった話だったんやけど、今回はもっと反対ですきっと。

リオちゃんは『人を救う』ことで復讐しようとして、

ムニカちゃんは『自分を殺す』ことで復讐しようとしたのだ。

この回、めっっっっっっっっちゃ大事な回で、この回を掘り下げれば、キビアイ上層部過去回はコンプリートの勢い。さすがに言い過ぎだけどね。


毎回いうけど、考察を待ってます。

考察大好き勢なので。


で、次の回がめっちゃ遅れます。

・セツナちゃん、ユカリちゃん、ムニカちゃん、リオちゃんの提供主様へのお礼イラスト(代理ちゃ)

・ムニリオ編完結ありがとうイラスト

この五枚を描き終わってからになるので。

まあ何卒。感想お寄せやがれくださいませ。


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