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・:.。.
・:.。.
クスクス・・・
「もう~・・・ダメだってば!力」
「なぁ~んでぇ~・・・いいでしょ?さらぁ~」
「ダメよ!私達・・・夏休み中毎日してるじゃん・・・ね?だから今日はダメ、それにもうすぐ親が帰って来ちゃうわ」
「うう~~じゃせめておっぱいだけ!」
力が沙羅の胸に顔を埋める、沙羅のクスクス笑いが止まらない
こんな風に二人でイチャイチャする時間が堪らなく好きだ
「本当におっぱい星人なんだから
ダメ!乳首吸っちゃ!触るだけって言ったでしょ!」
「そこに乳首があるのに吸わないではいられないよ、男が生まれた瞬間から持ち合わせている本能なんだから!」
クスクス・・・
「何?その言い分?」
力が沙羅のブラジャーをずらし、胸の谷間に顔を埋めて幸せそうにしている
初めて星空の下で結ばれてから、二人は気が付けば毎日体を合わせている、本当に我ながらよく飽きないものだ
沙羅は力にこうされるのがとても好きだった、力が自分の体に夢中なのが・・・とても良い気分だった
でもあんまり「させ子」のように力の求めるまま、体を許すのも最近ではダメな様な気がしていた
だって隣のクラスの委員長のようになりたくないもの、彼女は男子生徒なら誰とでも寝る「させ子」と噂が流れていた、そして昨日の午後「させ子の中絶費用のカンパ」が回って来た
沙羅は気持ちだけ500円玉をカンパ用の豚の貯金箱に入れた、聞くとお腹の赤ちゃんの父親は誰か分からないらしい
沙羅はあんな風にはなりたくなった、もっとも自分が妊娠すれば父親は間違いなく力だ、いつかは力との赤ちゃんが欲しい、だって私達は結婚を誓い合った仲だ、でもそれは今ではない・・・
先月の生理は28日に終わった・・・という事は・・・今は危険日だ、例えコンドームをしていても妊娠したのではないかと恐れるのが嫌だった
「さらぁ~~~(泣)」
アソコをギンギンに大きくして、涙目で懇願してくる力・・・まるでお預けをくらった大型犬だった
「もう・・・力のバカ・・・」
頬を染めて沙羅は力を仰向けにして、トンッと肩を押した
力と目が合うと沙羅は思わせぶりな微笑みを浮かべた、そろそろ「アレ」を試してみてもいい頃だ
「どれだけおっきくなってるか見せて」
力は期待に目を輝かせて、すぐさま制服のズボンに手をかけて引き下ろした
ボクサーブリーフが一瞬たかぶったモノに引っかかったが、それも慣れた手つきで降ろし、ポイッとベッドの横に放り投げて、沙羅に見えるように大きく脚を広げた
硬くそそり立つ力のモノを見つめる沙羅の瞳が輝いた、彼女の手にしっかり握られている竿も睾丸にかけては、興奮しすぎて引きつっていた
「わぁ~・・・カッチカチ・・・すご~い」
大好きな彼女に自分のモノを「すごい」と言われて力の胸から喉、耳までもが赤くなった
沙羅は相変わらずじれったいほどの強さで握ってるだけで、力はもっと色々して欲しくてヘンに身体に力が入る
「さらぁ~~~(泣)」
アソコをギンギンに大きくして、涙目で懇願してくる力・・・まるでお預けをくらった大型犬だった
「もう・・・力のバカ・・・」
頬を染めて沙羅は力を仰向けにして、トンッと肩を押した
力と目が合うと沙羅は思わせぶりな微笑みを浮かべた、そろそろ「アレ」を試してみてもいい頃だ
「どれだけおっきくなってるか見せて」
力は期待に目を輝かせて、すぐさま制服のズボンに手をかけて引き下ろした
ボクサーブリーフが一瞬たかぶったモノに引っかかったが、それも慣れた手つきで降ろし、ポイッとベッドの横に放り投げて、沙羅に見えるように大きく脚を広げた
硬くそそり立つ力のモノを見つめる沙羅の瞳が輝いた、彼女の手にしっかり握られている竿も睾丸にかけては、興奮しすぎて引きつっていた
「わぁ~・・・カッチカチ・・・すご~い」
大好きな彼女に自分のモノを「すごい」と言われて力の胸から喉、耳までもが赤くなった
沙羅は相変わらずじれったいほどの強さで握ってるだけで、力はもっと色々して欲しくてヘンに身体に力が入る
「えっと・・・その・・・沙羅・・・」
了解とばかりに沙羅は手に力を込め、先端の部分をぎゅっと握り込んで上から下へと手を動かす
「気持ち・・・いい?・・・りき?」
力の体がびくびく反応している、さらに下から上へと乳を搾るように擦る
「う・・まく・・・しゃべれない・・すごく・・いいっ!」
力はごくりと唾を飲みこんで言った、酸欠を起こしそうにハァハァ言ってる
こんなに自分の愛撫で気持ち良さそうにしている力が愛おしくてたまらない
「お口で・・・してあげると言ったらどうする?」
「え?」
「でもぉ~・・・えっちな子だとか淫乱とか思われたら・・・」
「そんな事思う訳ないだろっ!お願い、お願い、沙羅っ!」
優しく沙羅の頭を撫でていると、ハッと力が息を飲む、何をしてるのか顔を上げて沙羅を見ると、彼女は手の中のモノを温かい口に含んでいた
「ああっ!ああっ!沙羅っ!!」
力は震えながら頭をのけぞらせて、沙羅の髪の中へ両手を滑らせた、沙羅はその綺麗な唇でしっかりと力をくわえたまま、口内では竿の部分から先端へと舌でつついたり舐めたりを繰り返している
力は思わずしわがれた声を発した
「ヤバイッ!腰が溶けるっ!もうイっちゃうよ!沙羅っ!」
警告の言葉がうめき声に変わる、力は容赦なく押し寄せる快感に身を任せ
沙羅の口内に欲望の証をほとばしらせた
・:.。.
・:.。.
「あ~~~!めっちゃ気持ち良かった!僕の沙羅!最高!」
力は大満足で沙羅を抱きしめ、超ご機嫌だった、沙羅の体を後ろから包み込むように抱きしめると、首の根元に鼻をすりすりする
「僕も沙羅のを舐めたい!」
「ええ?ダメよ!ダメダメ!今日はこれで我慢して!ね!私は今日は本当にえっちする気ないの」
「ちぇ~~~!」
ブランケットを彼の肩までかけて、沙羅はギュッと抱きしめた
「私はえっちだけじゃなくて力とおしゃべりしたり抱き合ったりするのも楽しいの!ほらっ・・・こうしてるだけでも、気持ちいいよ・・・ね?」
「う~ん・・・」
彼の呼吸がゆっくりになり、沙羅もお口で奉仕した後の顎のだるさを感じ、力の腕の中で心地よい疲労の中、ブランケットの温もりの下でウトウトとまどろみ始めた
「本当に沙羅大好き!絶対結婚しようね!ね?」
クスクス・・・
「また言ってるぅ~~~」
「本当に!本当だからね!僕以外のヤツにさっきみたいな事しちゃダメだよ!僕以外に沙羅の事こんなに大事にするヤツいないんだから」
クスクス・・・
「ハイハイ・・・」
「本当だよ・・・絶対結婚しようね・・・」
沙羅が窓の外に目をやるともうすぐ暗くなる時間だとふと思った、親が帰ってくる前に力を帰さないと・・・
でも重なり合った肌の温かな湿り気ほど、親密さを感じさせるものはない
彼の力強い胸にぴったりと背中をつけ、彼の肺が広がったり、縮まったりするのを感じつつ、呼吸を合わせる、力がそっと頭にキスをしてくれた
頭がぼんやりする・・・
早く力と一緒に住みたいな・・・
・:.。.・:.。.
いいわよ・・・
そこまで言うなら結婚してあげる・・・
・:.。.・:.。.
沙羅は夢の中でそう呟いた
それなのに・・・なぜ?
答えて・・・力・・・・
・:.。.
・:.。.
ピピピッ・・・ピピピッ
太陽がまだ目を覚ます前の、星も眠る時間に目覚まし時計に起こされるには沙羅は慣れて過ぎていた
目を細めて時計を見る、赤い数字が午前3時半を告げる・・・
そこまでは何でもない、でも自分の涙で枕を濡らしてその冷たさで目が覚めることほど最悪なものは無い
ノロノロとベッドから這い出し、シャワーに逃げる・・・
随分久しぶりな夢を見た
高校の時の夢・・・
もう遥か遠い昔の夢・・・
沙羅の高校生活は彼一色だった
熱いシャワーが頭を叩く、目を閉じて、もう二度とあんな夢を見ないように願った
昔のことは全て忘れた、今を生きるだけで精一杯、髪を乾かし、コックエプロンを付けた、リビングから玄関へ出ると階段を降りて一階の厨房へ向かう
誰もいない厨房の電源を順番に入れて、オーブンの電源も入れる、ブーンとオーブンが温まる音が厨房に響く
ため息をつきながら手を上げ、ゆるくシニヨンに結わえた髪がほつれていないか確かめ、全部の髪をネットに入れ、厨房に備え付けの鏡を見る
腕まくりをし、そして機械的に業務用ミキサーに、いつもの基本の小麦粉を計って入れながら考え事をする
大丈夫・・・私はあの地獄から立ち直った、今でも少し心はズタズタでも私は強くなった
強くならざるを得なかった
沙羅は次に厨房の扉をあけた、まだ外は真っ暗だ、店内の照明をつけて、開店準備をする
自分の気持が手に負えなくなると、仕事に逃げ込むことにしている、パンを焼けば心が和むのだ
こんなに気分が落ち込んでいる時でもカウンターに出て店の中を見回すと、誇りと喜びが湧き上がる
今日も『SARA・BAKARY』(サラ・ベーカリー)は朝早くからお客で溢れ、おいしい果物入りのフルーツサンドや焼きたてのパンを買う人が、あと二時間もすれば列を作ることだろう
沙羅の苦労の末、この界隈ではちょっと名が知られているベーカリーショップを運営することに成功した
親友でもあり、この店の従業員でもあり、ずっと傍で沙羅を支えてくれた真由美が残したメモ書きを見る、今日は丘の上の老人ホームにフルーツタルトを30個配達しなければいけない、慌てて小麦粉の準備をする
それから2時間、沙羅は店の準備に没頭し、次々と焼いたパンが詰まった籠をカウンターに並べて行く
リンゴン♪
壁掛けのからくり時計が午前6時半を告げる
「ああっ!いっけない!もうこんな時間?」
7時の開店には真由美が手伝いに来てくれる、なので沙羅は慌てて手を洗って二階に駆け上がる
「サラ・ベーカリー」の営業時間は午前7時から5時半まで、こんな田舎町では夕方には客足はパッタリと途絶え、夜遅く営業していても誰も買いに来ないし、今の沙羅も真由美も仕事に費やす時間はこれで精いっぱいだった
なぜなら沙羅も2年前に離婚した真由美も、仕事以外にとても大切な任務が残っているから
沙羅は思った、一番つらい時期に真由美はずっと傍にいて沙羅を支えてくれた、そして二年前に真由美がドロドロの離婚劇を起こした時は、沙羅が真由美を支えた
そう私達はいつだって支え合って来た
お店の準備はこれぐらいにしてそろそろ、あの可愛い天使を起こして学校に行かさなきゃ
沙羅はエプロンを外し、住居となっている二階に足早に登っていった
・:.。.・:.。.
「パンを茹でるなんて、変わってるわ」
真由美がフライパンに湯を張って、ドーナツ型の生地を茹でている沙羅に言った
「ケトリングって言うのよ、焼く前にこうすると、もっちもちの食感になるの」
沙羅はゴムベラで湯に浮かんでいるベーグルをひっくり返しながらチラッと真由美を見た
「鳩山さんの娘さんの韓国旅行土産にベーグルを
頂いてから、試作に試作を重ねてやっと納得いくものが出来たわ、明日の朝から少し店頭に出すつもり、写真撮ってインスタに上げてね」
オーブンから焼き上がったベーグルを真由美が嬉しそうにかぶりつく
「うわぁ~~!何この食感??初めて食べる!これパン?どっちかと言うと、これ!「お餅」だわ!!」
目を丸くする真由美の素直な反応に沙羅がニヤリと笑う
「あたり!従来のベーグルのレシピに沙羅アレンジを加えたわ、餅米を粉末にして入れたの、小麦粉のザラザラ感がないでしょ?これに、目玉焼きとチーズを挟むの、ローストビーフもいいわね!きっとうちの看板メニューになるわ」
「よくこういうのが思いつくわね!あなたって天才!」
「あったりまえよ!他のレシピを真似したりそのままパクるのは誰でも出来るし、凡人がする事よ!私はいつもその一歩先を行くの!」
真由美が笑って言う
「以前になんとかって言う有名なインフルエンサーにパンのレシピ、パクられた事、まだ根に持っているの?」
ムッとした沙羅が言う
「最初は人の考案したものを、ことごとく切り取ってマネされて腹が立っていたわ、あたしはネタ帳かよってね、でも今は哀れに思うわ、自分のオリジナリティがないから人のモノを盗むのよ、その癖認められたいと言う承認欲求は人一倍強いから不幸よね」
バクバクベーグルを食べながら真由美も言う
「まぁ~、たしかにパクリ作品で反応が良かったら気が気じゃないものね、自信がないんでしょうね、この間の投稿もちょっとした批判コメントに噛みついてるのを見たわ、見苦しかった」
沙羅が真由美を見て眉をしかめる
「まさかあなた、あのインフルエンサーをフォローしてるの?観るのやめなさいよ!」
「あら、どんな内容を投稿しているかチェックしておく事は必要よ、いかにも自分が考えましたって風で載せてるくせに、いつ誰かにパクリを暴かれるかビクビクしてるの丸わかりよ」
キヒヒッと意地悪く真由美が言う、それを見た沙羅が人差し指と親指で顎を挟む
フム・・・
「・・・あなたの言うことも一理あるわね・・・」
「たとえばウチが二番煎じだと誤解されたり、売り上げに影響が出たりした時は出る所に出ないといけないでしょう?そんな時のためにキチンと証拠データを時系列で集めておかないと、こっちが無名だから何か言って来ても逃げれると舐めてるなら、後々パクった相手を間違えたと後悔する事になるでしょうね」
沙羅が目を真ん丸くして真由美を見る
「まぁ・・・頼もしいわ!真由美!」
「あったりまえよ!そもそもこっちが1人でも多くの人に届けと無料で公開しているモノを盗用してそれで収益が発生してるのよ?パクりで金儲けしようとするその根性が気に入らないわ、どんな投稿でもその投稿者の血の滲む様な苦労があるのよ」
真由美がスマホの画面をスクロールしながらフンッと鼻を鳴らす、おそらくそのインフルエンサーの投稿を眺めているのだろう
「今後投稿サイトの著作権侵害は厳しくなるでしょうね、それ専用の専門家が出て来るぐらい、この人の投稿の文章もおかしいわよ、きっとあっちの投稿、こっちの投稿の良い所を盗んでるの丸わかりよ!つぎはぎだらけのパッチワーク文章!まるで一貫性がないったら」
フフフッ
「あんまり熱くならないで、所詮そういう人はどんな経歴を持っていたとしても、私を超えられないのは分かっているから」
ヒュ~♪
「言うわね~カッコいい♪」
真由美が口笛を吹いた
「ここだけの話よ、これぐらいは言わせてもらわないと」
二人はアハハハと笑った、真由美がどさくさに紛れてえいっともう一つベーグルを掴んだ
「あ~!それ以上食べないで!あともう少し試作したいんだから」
沙羅の警告を無視して、鼻歌を歌いながら冷蔵庫から茹でエビとアボガドを取り出して新しいベーグルに挟む、さらに上にチーズを乗せてガスバーナーで炙っている、なかなか真由美もアレンジセンスがあると沙羅は感心した、パンは見た目が大事だ
「あら、私はあなたを手伝ってるのよ?」
そう言った真由美がチーズをびよ~んと伸ばしてベーグルを口いっぱいにほおばったまま、沙羅を眺める
茶色い髪を頭の後ろでおだんごに結び、細身の体にTシャツとジーンズ、足元はスニーカーという格好の沙羅は、町一番のパン屋で、最近はインスタを見たお客さんがはるばる遠い地域から買いに来る、そんな沙羅は見た目も若く、パン屋のオーナーというより、ごく普通の女子大学生に見える
沙羅は少し笑って真由美に言った
クスクス
「何を手伝っているというのよ、お口は忙しそうだけど?」
「いわゆる品質管理ってやつかしら、お客様に出してもいい味かどうか、自分の舌で確かめてるの」
沙羅は真由美の屁理屈に笑いながら、ベーグルに餡子とバターを挟んでその上から蜂蜜をかけてバットに並べる
「塩ベーグルにハニー餡バターよ、しょっぱさと甘さのバランスが大事なの、まだこれは蜂蜜と塩の配合が分からないのよ」
「一つじゃ判断できないわ、だからこれも食べていい?お願い、もうひとつだけ」
「ダメ!残ってからにして」
う~んと真由美が物欲しそうに、色とりどりの具材のベーグルを見つめて言う
「だったら白状するけど、トム・クルーズとデートするか、それともこのベーグルを食べたいかと訊かれたら、あたしは迷わずにこのベーグルを食べると答えるわね」
「トム・クルーズは少なくともそんな事言わないと思うけどね、それ、まだ完成品じゃないの」
沙羅は笑って言った
「ほらっ、そっちのベーグル生地は冷蔵庫にしまって、明日の朝焼くわ!」
沙羅は陽気に言い、試作に残ったベーグルにゆで卵と照り焼きチキンを挟んで口に入れた
サンドイッチのパンの食感よりこっちの方が食事をしている気分になる、この愛すべきベーカリーを経営するようになって、もう二年以上が経つ
食料品の仕入れとメニュー決めは主に沙羅が担当し、今は経理や売り子は真由美に任せている、真由美は二年前、短くて不幸な結婚生活に終止符を打ち、慰謝料とローンを組んで1階をマッサージ・サロンに改装した一軒家を購入した
真由美の奮闘虚しくマッサージ・サロンの経営が次第と傾き、上手く行かくなった頃、沙羅が自分のベーカリーで働かないかと声をかけたのだ
その時はまだ離婚や個人経営難のショックが冷めやらなかった真由美を自分の手元に置き、なるべく忙しくしていた方が良いと沙羅が判断したからだ
そして二人はどちらもひとり親で子育て真っ最中の中、仕事を持っている母親という共通点があったので、お互い支え合う存在が必要だった
一緒に仕事をしてみると、ありがたいことに、二人の関係は素晴らしくうまくいった、口論になることはめったになかったし、たまに喧嘩をしても、頑固で気の強い沙羅に真由美が寄り添う事で上手く行っていた
このベーカリーの二階に住む沙羅と店から徒歩5分の一軒家に住む真由美はいつも一緒だった、そして彼女達の子供達も・・・
「そろそろお店の看板のライトを消して、閉店にしましょう!」
「そうね!明日までにもう少し試作するわ」
夕暮れの光が「サラ・ベーカーリー」の入り口の窓から柔らかく差し込んでいた
店内の木製の棚には、朝には沙羅が心を込めて焼き上げたパンが整然と並んでいたのに、すっかり空の籠だけになっている
他のライ麦の香ばしい酸味が漂うサワードウ、くるみの粒がゴロゴロと顔を覗かせる全粒粉パン、表面がカリッと輝くバゲットの籠もすっからかんだ
そして、沙羅の自信作であるカウンターのガラスショーケースには、昼過ぎまで色とりどりのサンドゥィッチや、プレゼントにも喜ばれるちょっとした焼き菓子が並び、どれもが彼女のこだわりと愛情の結晶が所狭しと並んでいたのに、これも全て完売だ
ありがたい、今月も店は黒字だ
店内はこじんまりとしているが沙羅の理想通り、温かみに満ちていた
カウンターの隅には真由美が「縁起がいいから」と置いた小さな招き猫が静かに店を見守っている
奥の厨房からほのかにバターと酵母の香りが漂い、明日のパンの酵母がまるで生きているかのように出番を待って息づいていた
忙しい一日が終わった
でもこれから帰って来るちびっこギャングが寝るまであと一仕事ある、それを思うと思わず顔がほころび、今日の売り上げを計算しながらふと手を止めた
閉店間際の静けさは沙羅にとってホッと一息を入れる特別な時間だった、今日はあの特別な豆でコーヒーを入れよう
「真由美〜少し早いけどもう閉めるわよ〜」
と厨房にいる真由美に声をかけながら沙羅はレジを閉め始めた。エプロンのポケットに手を突っ込み、鍵を探していると、店の入り口に吊るされた小さなベルがカランカランと鳴った
沙羅は顔を上げず、お札を数えながら反射的に言った
「すいませ〜ん、今日はもう閉店なんです〜」
だが、客の返事はない、代わりにシン・・・とした店の静寂が重くのしかかった
「・・・?・・・」
不思議に思ってゆっくりと顔を上げた、そしてその瞬間、沙羅の世界は音を立てて崩れた
店の入り口に彼が立っていた
―力―
・・・8年前、純白のドレスを着た沙羅を置き去りにした男
沙羅の心を粉々に砕いて消えた男
沙羅から逃げた男
力・・・
ドクンッと心臓が飛び上がり、そのまま時が止まった、沙羅は目の前にいる男をもう一度確認した
自分の勘違いかもしれない、他人の空似なんてよくある事だ
しかし・・・
あの頃と変わらないタレた優しい目元、すっきり後ろを刈り上げた真ん中分けの黒髪、真っ白のTシャツ、デニム姿にスニーカー
すべてがあの時の彼そのものだった、でも、どこか違う
時間が彼にも刻んだ微妙な変化がある
―八年前より背が伸びているわ―
なんと彼は20歳を過ぎてから成長期を迎えたのかもしれない
目の下の薄いくま、わずかに硬くしてる口元、真剣な眼差しで沙羅を見てる
それでも、沙羅の胸を突き刺すには十分すぎるほど、彼は「力」だった
沙羅の喉が締め付けられる
息ができない、心臓が早鐘のように鳴り、頭の中で何かが割れる音がした、彼女の手はレジの前で凍りつき、エプロンの布を握り潰していた、目の前が揺れる、店内のパンの香りも、夕暮れの光も、すべてが遠ざかり、ただ力の姿だけが異様な鮮明さで沙羅の視界を支配した
「沙羅・・・久しぶり・・・」
力の声が、静かに店内に響いた、低く、かすかに震えたその声は、沙羅の記憶を一気に引きずり出した
あの日の朝、彼が最後に彼女に囁いた言葉、結婚式の準備の話を沙羅の手を握りながら微笑んでいた彼の顔
そして、花嫁控室で一人待つ自分を置き去りにして行方をくらました、何度も彼のスマホにメッセージを入れた
許すから帰って来て欲しいと・・・しかし彼からは冷たい沈黙しか帰って来なかった
信じられない!
あの「力」が今沙羅の目の前にいる
力は、サラ・ベーカリーのガラス扉を誰もいないのを確認してからそっと押した
扉の上の小さなベルがチリンと鳴り、店内に足を踏み入れると、焼きたてのパンの甘い香りが鼻をくすぐった
カウンターの奥のレジに沙羅がいた
一目で分かった、8年の月日が流れても、彼女の存在は力の心に刻まれたままだった
沙羅は驚いたように顔を上げ、自分を見つめている、この瞬間、力の視界は彼女だけで埋め尽くされた、懐かしい沙羅の瞳は、まるで夜空に瞬く星のように深く、澄んでいた
―ああっ!会いたかった―
高校時代、星空の下で笑い合ったあの瞳だ、だが今の彼女の目は、8年の歳月が磨き上げた大人の女性の強さと優しさを湛えていた
沙羅・・・綺麗になった・・・
言葉は出なかった、力の胸が締め付けられ、目に涙が滲んだ、力は思わず目をしばたいた
沙羅の髪は・・・かつての肩まで伸びた髪が首の後ろでおだんごに結ばれていた、あの髪は解くと短いのか、長いのか思わず確かめたくなる、彼女の顔周りに垂らしている細い髪が軽やかに揺れていたる
その髪は、朝陽を浴びた小麦畑のよう
彼女の白いエプロンは、腰のあたりで軽く結ばれ、細いウエストをさりげなく強調していた、エプロンの裾には小さな小麦の刺繍があり、沙羅の繊細な美しさを引き立てているようだった
力の目は懐かしさで沙羅の顔を細かく辿った、かつて自分と何度もキスを交わしたその唇は、柔らかそうなカーブを描き、驚きでわずかに開いている
その唇の端に力は高校時代の彼女の笑顔を重ねた、あの頃沙羅はいつも笑っていた、力の冗談に時には呆れながら、でも愛おしそうに・・・
「沙羅・・・久しぶり」
ようやく声を絞り出した、しかしその後の言葉は喉に詰まって出てこなかった、沙羅もまた、驚きの表情のまま硬直し、じっと力を見つめている
二人の視線が絡み合う
まるで8年前のあの瞬間・・・結婚式で沙羅を置き去りにした、あの時から、時間が止まっていたかのようだった
二人は互いの存在を確かめるように、魂の片割れを目で確認し続けた、沙羅の瞳には驚きと戸惑が混じっている、力の胸は愛しさと後悔で張り裂けそうだった
その時、厨房の奥から声が響いた
「沙羅~看板の灯り消した?」
と、明るい声が店内に響く、カウンターの脇からショートカットの女性が現れた
―真由美ちゃんだ―
力の視線が彼女に移る、彼女の口元に浮かぶいたずらっぽい笑みの片鱗は、高校時代の彼女そのものだった、そして真由美は力を見るなり、ハッと息を呑み、片手で口元を覆い、沙羅同様その場に立ち尽くした
「・・・嘘でしょ?・・・」
真由美の声は驚きに震えていた、そして力と沙羅を交互に見つめ、何かを言おうとしては言葉を飲み込んだ
力は真由美の姿に心が温まるのを感じた、沙羅と真由美・・・そしてもう一人の陽子・・・
高校時代、いつも彼女達は一緒だった、そして自分の友達でもあった、あの頃の笑い声、放課後のファミレスでの他愛もない会話、夏祭りのライブコンサート・・・すべてが、まるで昨日のことのように蘇る
力は店内を見回した・・・
サラ・ベーカリーはこぢんまりとした温かみのある空間だった
木製のテーブルには小さな花瓶が置かれ、野花がさりげなく飾られている、壁には沙羅の手書きらしいメニューボードが掛けられ、彼女の丁寧な文字が並んでいる、この店は沙羅の夢と、彼女の優しさが詰まった場所のような気がした
力の視線が再び沙羅に戻る・・・
彼女はまだ言葉を発しないまま力を見つめていた
沙羅は・・・8年前の傷がまだ癒えていなのだろうか・・・
きっと自分を怒っているだろう
あの日、力は沙羅を置いて韓国へ飛び、スターとしての道を歩み始めた
世界中を飛び回り、ステージで何万人もの観客を熱狂させた、だがその成功の裏で自分の傍に沙羅がいない事が力の心に大きな穴を残した
この8年間・・・どんなに華やかな生活を送っても、沙羅の笑顔がなければ何も意味がなかった
それを伝えたいのに
・・・ああ・・・
肝心な時に言葉が詰まって出て来ない
沙羅はまだ動かない・・・
力は沙羅の心が今どんな状態なのか想像することしかできなかった、彼女は怒っているのか? 悲しんでいるのか? それとも、ただ驚いているだけなのだろうか?
その時、沙羅が動いた、まっすぐ力を見てカウンターから一歩づつ・・・力の方へ近づいてきた
ドキン・・・ドキン・・・
沙羅・・・
・:.。.・:.。.
沙羅の歩幅はどんどん狭くなる、そして今やものすごい勢いで力にズンズン迫ってきている
ああ・・・沙羅っ!
・:.。.・:.。.
感動の再会だ!
涙が溢れる!
「沙羅!!来い!!」
飛びつかれてもしっかり受け止めるつもりで力は踏ん張って、思いっきり両手を広げた
ドスッ!
「うっ・・・」
その瞬間、沙羅のアッパー・カットが力のみぞおちにめり込んだ
力はお腹を両手で押さえ、顔ごと床にドサッと突っ伏した
「この男を追い出してちょうだい!」
そう吐き捨てると沙羅はさっさと二階へ上がってしまった
・:.。.・:.。.