テラーノベル
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ナーシャはその日の帰りに、セリナがいつもは持たない小さな鞄を手にしているのに気付いた。
「セリナその鞄、朝は持っていなかったでしょう?」
「はい、シンシア様の侍女のベスから貸して貰いました。明日には返せると思います」
普段セリナは、持ち物を全てポケットにしまっていたはずで、鞄に入れなければならない物をシンシアの侍女から貰ったのかとナーシャは勘違いした。
「まぁ、私からもお礼を言わないといけないわね。何を貰ったの?」
ナーシャの言葉にセリナは一瞬キョトン顔をしたが、ナーシャの言わんとする所に気付いて首を左右に振った。
「違うんです、ナーシャ様。これがそろそろポケットを嵩張り始めて来たので、見かねたベスが貸してくれたんです」
セリナが鞄から出したのは、ここ最近ナーシャ宛に届く手紙だった。
ナーシャの部屋は、安全地帯とはいえない。
隠していても、鍵をかけていてもいつの間にか無くなったり壊されたりしているし、手紙に至っては無くなって二度と戻ってこない物もあった。
その中には、幼い頃からナーシャに書いてくれた祖母のマナーに対しての注意書きなども含まれていて、祖母の痕跡が消えてしまうようでナーシャはそれがとても耐えられなかった。
だが、いくら父に訴えても、兄に相談しても真面に取り合ってもらえず、ナーシャは最近では諦めるようになっていた。その打開策が、いつもナーシャと行動をともにするセリナが肌見放さず持つ事だった。
彼女のお仕着せの内部は大きなポケットが付いている。それはセリナが自分で縫い付けたものだ。
いつもは本当に大事な物だけを選別して、あとの手紙は直ぐに処分するようにしていた。だが、ここ最近の手紙はそうも言っていられない。連絡の行き違いなどあってはならないし、万が一処分しているところでも見られたりしたら、拾われる可能性すらある。そしてそれがとても不味いことになるため、セリナは最近の手紙は全て懐に仕舞っていた。
それが限界に来ていたのだろう。
ポケットの中は必ずしも手紙だけではない。
祖母の形見の貴重品も入れている。
部屋に置いていたら、直ぐに無くなってしまうような物だ。
だから、嵩張り始めたのだろう。
胸と腕の膨らみが傍から見ても分かったため、何故そうなっているのかを知るベスが、気を利かしてくれたものと思われた。
「ごめんねセリナ。そんなことまで⋯ベスにも気を使わせちゃったわね」
「大丈夫です、ナーシャ様。今日の夜もっと大きく縫いますから!」
セリナが胸の辺りを掌で擦りながらナーシャに断言した。
「そう、じゃあセリナ、その作業は私の部屋でしなさい」
「えっ!それは駄目ですよ」
「駄目じゃないわ、私の部屋でして!これは命令よ」
いつになく強い口調のナーシャに、セリナは折れなければならなかった。あまり強く言わないナーシャがそんな風に言うのは、セリナの体を慮っているのが理解できたからだ。
ナーシャを安心させるためにも、セリナは折れた。
セリナの考えは大当たりで、ナーシャはこの勤勉で忠義者のセリナに無理をして欲しくなかったのだ。
そもそも自室に置いていたら、無くなるなど普通に考えて有り得ない事なのだ。
その防衛の為に、セリナは胸ポケットを大きく縫い変えている。
セリナは本当に真面目で、ナーシャが先に寝ていいと言っても、一旦は廊下に出るが、完全にナーシャが寝たと思えるまで、廊下に控えているのだ。
今日も、ナーシャが寝るまで部屋にいるのは分かってしまう。
その後、自分の与えられた部屋(ナーシャの部屋の隣の小部屋)に帰ってから、ポケットを縫う作業を夜鍋してしまうのが目に見えていた。
だからこそ、自分が手紙を読んだり書いたりしている間に、その作業をすればいいと命じた。
◇◇◇
侯爵家に帰り、着替えを済ませたナーシャは、今日渡されたルオン公爵からの手紙を開いた。
昨日ハリスに預けた書類の受け取りと準備に関しての物だと、ハリスがシンシアに手紙を預けてくれた時に言っていたそうだ。
ナーシャが手紙を読むその間に、セリナは部屋の掃除をしたり、ベットメイキングをする。
そんなメイドの仕事ですらセリナはしていた。
本当ならばナーシャの前で掃除をするなど、言語道断だが、ずっとナーシャに付き従っているセリナは、離れている時間は寝ている時だけなので、ナーシャの前で仕事をする事を許されている。そもそも、こんな仕事は、ナーシャが学園に行っている間に、侯爵家のメイドの仕事なのに、されているのを見たのは1年ほど前までだ。
読み終えた手紙を封筒にしまってから、部屋の空間を見つめて考え事をしているナーシャに、セリナが声をかけた。
ナーシャの顔に困惑が浮かんでいるように思ったからだった。
「お嬢様、ナーシャ様!どうかされましたか?」
「⋯⋯」
声をかけられたナーシャは、セリナを見てから、自分のとなりのソファを手で軽く叩いた。
セリナに隣に座って欲しいというサインだ。
急いでセリナが座ると、ナーシャは困り顔をそのままに向けてセリナに言った。
「どうしましょう、ルオン公爵様が養女にすると仰ってるの」
ナーシャは今回の卒業資格試験を受けるに当たり、ルオン公爵に後見をお願いした。
ナーシャは、後見だけをしてもらうつもりで、養女などという厚かましいことはお願いするつもりではなかったのだ。
卒業資格を取れば、その途端ナーシャは成人と見做される。
だから資格を取ったその足で、オリジエル侯爵家から、除籍の手続きをするつもりだった。
成人すれば戸籍の移動は親の承諾なしに出来るのだ。
だが、今回の後見人をお願いしたルオン公爵にはその旨を伝える義務があると思って、最初からそういった趣旨の手紙を書いてお願いしていた。
それなのにルオン公爵は、卒業資格を取って成人した時に、養女になるようにと手紙で言ってきたのだ。
「公爵様に気を使わせてしまったのかしら?」
ナーシャはルオン公爵の申し出に戸惑っていた。
コメント
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第13話、読み終わりました…! ナーシャの部屋で物が消えていく不気味さと、それに必死で抗うセリナの忠誠心が胸に刺さりますね。自分でポケットを縫い直すって、どれだけ信頼されてるか分かります。そしてルオン公爵からの養女の申し出…これはナーシャにとって大きな転機になりそう。戸惑うナーシャの気持ち、すごく分かります。次が気になります🌙