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#ライトノベル
こはる
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Nu²Ⅰ
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上野文
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#ご本人様には関係ありません
ふゅう@低浮上
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第240話 三人の幹部
【どこでもない層/深層】
医療棟の映像が、暗闇の中に浮かんでいた。
青い治癒光。
寝台に横たわるユナ。
そのそばにいるハレル、リオ、サキ。
そして、ユナの選択反応の近くで揺れる黒い影。
ジャバは、少し離れた場所で三人の男を睨んでいた。
「勝手な真似はやめろって?」
返事をしたのは、黒髪の男だった。
「ああ、そう言った」
穏やかな声。
だが、謝る様子はない。
男は医療棟の映像を見たまま、静かに続ける。
「今、君が飛び込めば、ハレルたちは戦う」
「主鍵も副鍵も揺れる」
「医療棟の結界も乱れる」
ジャバが笑う。
「それでいいだろ」
「まとめて潰せる」
「潰した後は?」
ジャバの笑みが止まる。
黒髪の男は、初めてジャバを見る。
「門は閉じる」
「一ノ瀬ユナの選択反応も消える」
「匠が作った手順も、最後まで見られない」
「だから何だ」
「我々が欲しいのは、壊れた門ではない」
男は再び映像へ視線を戻した。
「完成する瞬間だ」
Cが静かに言う。
「白峰律」
男は少しだけ笑った。
「そう呼ばれるのは久しぶりだな」
白峰律。
クロスゲート・テクノロジーズの幹部。
クロスワールドゲートの基本言語を作った男。
そして、雲賀匠の古い友人。
白峰は、医療棟に映る細い白い補助線を見ていた。
「匠らしい」
カシウスが聞く。
「何がだ」
「門を作ったのに、最短距離を選ばない」
白峰は、reの補助線を指先でなぞるように動かした。
「危険な場所を避ける」
「記憶を入口にしない」
「最後は本人に選ばせる」
白峰は小さく息を吐く。
「昔から変わらない」
その声には、懐かしさがあった。
だが、後悔はなかった。
灰色の長衣をまとった男が、一歩前へ出る。
オルガ・セフィロ。
冷たい目。
医療棟だけではない。
ハレル。
リオ。
サキ。
主鍵。
副鍵。
re。
すべてを同時に見ている。
「名前は確認された」
オルガが言う。
「器も安定している」
「場所も固定された」
「本人反応も存在する」
ジャバが苛立ったように言う。
「なら、もう戻せるだろ」
オルガはジャバを見ない。
「本人反応と、選択は別だ」
「何が違う」
「呼ばれて返事をすること」
「自分で帰る場所を決めること」
オルガは黒い影を見る。
「一ノ瀬ユナは、弟の声に反応した」
「だが、まだ現実へ戻るとは選んでいない」
Cが言う。
「選択反応の近くに、影を配置しています」
「確認している」
オルガは短く答えた。
「影は、選択を作る必要はない」
「本物の選択へ混ざればいい」
ジャバは口角を上げる。
「帰るって言った瞬間、別の場所へ送るのか」
オルガは、そこで初めてジャバを見る。
「可能だ」
「じゃあ、早くやれ」
「まだ帰還先が固定されていない」
オルガの言葉に、Cの黒い針が少し動いた。
白峰も医療棟の映像から目を離す。
「帰還先」
「現実側に受け入れ地点が必要だ」
オルガは続ける。
「今の門は、帰還した学園と医療棟を繋いでいる」
「だが、ユナをどこへ置くかは決まっていない」
カシウスが静かに聞く。
「自宅ではないのか」
白峰が答える。
「匠なら選ばない」
「なぜだ」
「記憶が強すぎる」
白峰は薄く笑う。
「リオと暮らした部屋」
「家族の記憶」
「戻れなかった時間」
その言葉に、黒い影がわずかに揺れた。
「Cが使いやすい」
Cは答える。
「自宅の記憶地点は、すでに取得可能です」
白峰は頷く。
「だろうね」
その隣。
大柄な男が、深層の境界へ手を触れていた。
ヴァルド・レイグ。
古い王都式の結界衣。
高名だった結界術士。
今まで黙っていたヴァルドが、低い声で言う。
「帰還地点は、新しく作る」
全員が見る。
ヴァルドは続けた。
「記憶の薄い場所」
「目的が一つの場所」
「治療する場所」
短い言葉。
それだけで十分だった。
オルガは頷く。
「現実側も、同じ結論へ向かうだろう」
白峰は少し笑った。
「佐伯、村瀬、日下部」
現実側の三人が映る。
「彼らなら、帰還者用の場所を作る」
ジャバは面倒そうに鼻を鳴らした。
「待ってるだけか」
カシウスが答える。
「待つ」
「いつまでだ」
「門が完成するまでだ」
カシウスは医療棟を見た。
「ユナを戻させる」
「匠の手順を最後まで動かす」
「その後、帰る道を奪う」
白峰は、その言葉を聞いても表情を変えなかった。
ただ、細い補助線の向こうを見つめる。
「匠」
小さな声。
「今度は、どこへ帰すつもりだ」
◆ ◆ ◆
【現実世界・帰還した学園/仮設指揮室・昼】
城ヶ峰の前に、白峰律の資料が並んでいた。
少ない。
少なすぎる。
クロスゲート・テクノロジーズの幹部。
創業初期から技術開発へ関わっていた人物。
クロスワールドゲートの基礎設計者。
そこまでは分かる。
だが、その先がない。
住所。
家族。
現在の所在。
最後に本人が確認された日時。
どの記録も途中で途切れていた。
若い捜査員が報告する。
「白峰律名義の社員登録は残っています」
「ですが、役員就任後の勤務記録が不自然に少ないです」
城ヶ峰は資料を見る。
「写真は」
「社内用の古い画像が数点」
「ただ、途中から顔写真だけが消えています」
「消えた?」
「削除ではありません」
捜査員は端末を見せる。
役員名。
経歴。
所属部署。
文字は残っている。
だが、本来写真がある場所だけが空白だった。
「画像が壊れたようには見えません」
「最初から、何も登録されていなかった形になっています」
城ヶ峰は目を細めた。
「記録の削除ではない」
「はい」
「存在した部分だけを、なかった形に変えている」
捜査員は黙った。
城ヶ峰は別の資料を見る。
大学名。
研究室。
共同研究者。
そこに、一つの名前があった。
雲賀匠。
城ヶ峰はすぐに電話を取る。
相手は木崎。
数回の呼び出し音。
『何だ』
「頼みがある」
『嫌な予感しかしないな』
「雲賀匠の事務所へ行ってくれ」
少し沈黙。
『またか』
「白峰律を調べる」
電話の向こうで、木崎の声が変わった。
『匠の昔の知り合いだった男か』
「ああ」
『警察で調べろよ』
「デジタル記録が消されている」
『だから俺に紙を探せって?』
城ヶ峰は答える。
「以前、君は匠の事務所へ入っている」
「どこに何があるか、警察より分かる」
木崎はため息をついた。
『あいつは、何でも一人で抱え込む』
『白峰のことも、俺には何も言わなかった』
「だから調べる」
しばらく返事がない。
やがて。
『分かった』
木崎は低く言った。
『今度こそ、隠してたもんを全部見つけてやる』
◆ ◆ ◆
【現実世界・帰還した学園/校舎一階・保健室・昼】
保健室のベッドが、壁際へ移されていた。
中央には、広い空間。
床には白い線。
日下部が、隔離端末を見ながら位置を調整している。
佐伯は医療機器を確認。
村瀬は、壁へ新しい表示を貼っていた。
そこには、大きく書かれている。
『帰還した学園』
『校舎一階・臨時医療受け入れ室』
佐伯が表示を見る。
「これ、必要ですか」
村瀬は頷いた。
「必要です」
「場所は分かってます」
「私たちは分かっています」
村瀬は壁の文字を見る。
「でも、ユナさんが帰ってきた時」
「目を開けて、ここがどこか分からないかもしれない」
佐伯は黙った。
自分たちも、一度コアと器を分けられた。
戻った時。
自分がどこにいるのか。
本当に元の世界なのか。
分からなくなる怖さを知っている。
日下部が端末から顔を上げる。
「帰還地点は、ここでいいと思います」
佐伯が聞く。
「病院じゃなくて?」
「接続線は、帰還した学園を基準に作っています」
「途中で別の病院へ変えると、場所の確認をやり直す必要があります」
村瀬が言う。
「自宅は?」
日下部は首を振った。
「記憶が強すぎます」
リオとユナが暮らしていた家。
家族の記憶。
失った時間。
Cが入口に使うには、強すぎる場所。
「ここは新しい場所です」
日下部は床の白い線を見る。
「ユナさんにとって、過去の記憶がほとんどない」
「目的も一つです」
佐伯が言う。
「治療する場所」
「はい」
日下部は頷いた。
「帰る場所ではなく」
「帰ってきた後、守る場所です」
三人は、中央の空間を見る。
そこに、ユナが戻ってくる。
成功すれば。
佐伯は医療機器へ手を置いた。
「帰還直後は、身体を確認します」
村瀬も続ける。
「私は名前と意識反応」
「記憶の混線も見る」
日下部は隔離端末を操作する。
「俺は帰還線と、Cの遮断」
三人の役割が決まる。
日下部は通信を開いた。
『ノノさん、聞こえますか』
少しノイズ。
その後、返事。
『聞こえる!』
『現実側の帰還地点を決めました』
『どこ?』
日下部は、ゆっくり答える。
『帰還した学園』
『校舎一階』
『臨時医療受け入れ室』
ノノの声が少し明るくなる。
『病院じゃないんだ』
『まずはここへ戻します』
『身体と意識を安定させてから、専門医療施設へ搬送します』
『分かった』
『こっちでも場所を固定する』
村瀬は壁の文字を読み上げる。
「ここは現実世界」
「帰還した学園」
「校舎一階、臨時医療受け入れ室」
「一ノ瀬ユナを治療する場所」
佐伯も続ける。
「過去の自宅ではない」
「記憶の中の場所ではない」
「今、現実にある受け入れ場所」
床の白い線が淡く光った。
日下部の端末に、一つの表示が出る。
『帰還地点候補 固定開始』
日下部は画面を見つめる。
「城ヶ峰さんへ連絡します」
すぐに報告を送る。
ユナの帰還先。
臨時医療受け入れ室。
準備開始。
送信。
◆ ◆ ◆
【現実世界・雲賀匠の事務所前・昼】
木崎は、古い建物を見上げていた。
以前、サキとここへ来て以来。
また、ここへ戻った。
雲賀匠の事務所。
以前と何も変わっていないように見える。
閉じた窓。
古い看板。
誰もいない部屋。
だが、今は探すものが違う。
前は、匠がどこへ消えたのかを探した。
今回は。
白峰律。
木崎は鍵を開けた。
扉が軋む。
暗い室内。
机。
書棚。
積まれた資料。
壁に残る古い写真。
木崎は電気をつけた。
「匠」
誰もいない部屋へ言う。
「今度は、お前の昔を調べさせてもらうぞ」
机の上には、何もない。
だが。
一番奥の書棚。
以前は気にしなかった古い箱があった。
木崎は、その箱を見る。
側面に、薄く文字が書かれていた。
消えかけた手書き。
木崎は目を細める。
そこには、一文字だけ読めた。
『律』
◆ ◆ ◆
【どこでもない層/深層】
Cは、現実側の反応を見ていた。
帰還した学園。
校舎一階。
臨時医療受け入れ室。
新しい場所。
過去の記憶が薄い場所。
Cが静かに言う。
「帰還地点が固定され始めました」
オルガは頷いた。
「予測通りだ」
ヴァルドは、現実側の白い線を見る。
「新しい場所」
白峰は、木崎が入った匠の事務所を見ていた。
古い箱。
消えかけた文字。
律。
白峰の表情が、ほんの少しだけ変わる。
「匠」
その声は、さっきよりも静かだった。
「まだ残していたのか」
カシウスは医療棟を見る。
「過去を調べる者」
「帰る場所を作る者」
「ユナを戻す者」
そして言った。
「全部、動かせ」
Cの黒い針が広がる。
医療棟。
帰還した学園。
匠の事務所。
三つの場所へ。
「観測を継続します」
黒い影は、まだユナの選択のそばにいる。
帰還地点は決まり始めた。
だが、帰る道はまだ完成していなかった。
コメント
1件
うわ、すごい密度の回でしたね…! まず「白峰律」という新キャラクターの登場に驚きました。匠の古い友人で、しかもクロスワールドゲートの基本言語を作った人物って、設定が重すぎる…! それでいて「匠らしい」と静かに評する口調に、長年の関係性がにじんでいて好きです。 現実側と深層が同時進行で動く構成も読みやすかった。木崎が匠の事務所で「律」の箱を見つけたラスト、めちゃくちゃ続きが気になります。伏線が一気に回収されそうな予感…!