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#ワンナイトラブ
おまる
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プロジェクトの成功祝いを兼ねた、週末のディナー。
徹さんが連れてきてくれたのは、夜景が一望できる
少し背伸びをしたフレンチレストランだった。
「…すごい。徹さん、ここ、予約取るの相当大変だったんじゃ……」
窓の外に広がる都会の宝石箱のような光を眺めながら、私は吐息をもらした。
「結衣の頑張りに報いるには、これくらいしなきゃ。……それに、今日はちゃんと『けじめ』をつけたかったんだ」
徹さんはそう言って、グラスに注がれたシャンパンを一口飲んだ。
美味しい料理、心地よい音楽。
でも、徹さんの表情はどこか緊張しているように見えた。
食事も終盤に差し掛かった頃。
デザートプレートが運ばれてくると、徹さんは椅子を引き、私の隣へと歩み寄ってきた。
「結衣。……俺たちは、嘘から始まった。美佐子さんを遠ざけるための『偽装彼女』。あのとき、結衣に渡した指輪も、ただの小道具だった」
私の左手の薬指には、今もあの時買った指輪が嵌まっている。
それは私にとって大切な宝物だったけれど、徹さんにとっては「嘘の象徴」だったのかもしれない。
「でも、今の俺の気持ちに、嘘は一つもない。……仕事で輝く結衣も、俺の前で泣いたり笑ったりする結衣も、全部愛してる」
徹さんはジャケットの内ポケットから、小さな、けれど重厚なベルベットのケースを取り出した。
「……徹さん?」
ケースが開かれると、中にはシンプルで、けれど力強く輝くダイヤモンドの指輪が収められていた。
前のものとは比べ物にならないほど、本物の輝きを放っている。
「もう一度、やり直させてほしい。……結衣、俺の婚約者になってほしい」
「……っ」
驚きで声が出なかった。
周囲の喧騒が遠のき、徹さんの真っ直ぐな瞳だけが私を捉えている。
私は震える手で、左手の指輪を外した。
それは「偽装」という隠れ蓑を脱ぎ捨てるための儀式。
「……嬉しすぎます…っ、私の方こそ、ずっと隣にいさせてください」
徹さんは私の指に、新しい、本物の指輪をゆっくりと滑らせた。
吸い付くような重み。
それは、これから二人で歩んでいく人生の重みそのものだった。
「……っ、よかった…」
徹さんは私の手を引き寄せ、指先に優しくキスをした。
窓の外の夜景が、涙で少しだけ滲んで見える。
偽装から始まった、危うくて、じれったくて、もどかしかった私たちの物語。
でも、その遠回りがあったからこそ、今、指元で輝くこの光が何よりも尊いものだと分かる。
「愛してるよ、結衣」
「私もです…徹さん」
二人の長い夜は、まだ始まったばかりだった。