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「ウーロン!父さんを呼んできて!」
リーファンが叫ぶと咄嗟にウーロンが吠えながら、1キロ先に煙が昇っている釜屋に走って行った
リーファンは彼が重体かどうか細かく観察した、額の傷からは血が出ているし、顔色は悪く、骨ばった頬には切り傷以外にあざもできている、リーファンの手が触れると、男性はゆっくりとまぶたを開き、ぼんやりした目を向けた、辺りにガソリンの匂いが漂い出した
「大丈夫?車がひっくり返ったのよ?ここは危険だわ」
男の茶色の瞳が少しずつ生気を取りもどし、リーファンの顔に焦点が合い始めた、しばらく意識を取り戻そうとしている男性はぼんやりとリーファンをしばらくじっと見つめて言った
「・・・天使が迎えに来たと言う事は・・・俺は死んだのだな?」
思わずリーファンは笑った
・:.。.・:.。.
「目が覚めたかね?」
高村隆二が目を覚ますと、視界に広がるのは重厚な丸太小屋の天井だった
太い杉の梁が交差し、節目が浮かぶ木肌には年輪のような時間が刻まれている、窓枠には中国風の格子模様がはめられ、部屋の隅には古い陶器の花瓶が置かれていた、呼吸をすると、かすかに家の中には土の香りが漂っていた
窓から差し込む柔らかな光が、木の表面を温かく照らし、床に敷かれた麻の敷物にまだらな影を落としていた
頭がズキズキと痛むが、横を向くと、60手前の男性が立っていた
グレーの髪を無造作に結び、藍色の作務着に身を包んだその姿は、どこか日本の山里を思わせる落ち着きを湛えていた
「あ・・・俺は・・・」
「事故ったの! 車がひっくり返ってうちの生垣に衝突したのよ! だから私がここまで運んだってワケ!」
男性の背後から若い女性の声が弾んだ、少しハスキーで、しかし心配の色を帯びたその声に、隆二の意識が一気に引き戻された
―そうだ、思い出した、あの瞬間―
車を運転していると突然ブレーキが効かなくなって隆二は焦った、山道の急カーブでハンドルを切り損ね、何かにぶつからないと止まらないと覚悟したその時、車はぬかるみにタイヤを取られ、天地がひっくり返った
そして、暗闇に沈む直前、まるで天使のような美しい少女の姿を見たのだった
あれは幻だったのか? 隆二は何度か目をパチパチさせ、記憶を呼び戻そうとした、額に手を当てると、清潔な包帯が巻かれていて、かすかに消毒液の匂いが鼻をついた
まだくらくらする頭を抑え、隆二は寝かされていたベッドから上体を起こした
木製のベッドは頑丈で軋む音すらどこか優しく響く、助けてくれたこの人達に、せめてお礼を言わなければと視線を上げると、丸太小屋の内部がさらに鮮明に見えた
部屋の中央には大きな囲炉裏があり、鉄の火箸が無造作に立てかけられている。壁には素朴な陶器の皿や茶碗が飾られ、どれもが手仕事の温もりを感じさせた
窓の外には武夷山の緑が広がり、遠くで鳥のさえずりが聞こえる。この家は、まるで山と調和するように建てられていた
「武夷山に行こうとしたんです・・・ある人を訪ねて・・・」
「ここが武夷山ですよ」
男性が穏やかに答えた、ハッと隆二は目の前の男性を見つめた、その知識に満ちたキラキラした瞳、柔和な笑みを湛えた顔立ちに、どこか見覚えがある気がした
「あの・・・お名前を聞いてもいいですか?」
「私は杉山宗次郎と申します」
「やっぱり! あの有名な陶芸家の(Sojiro Sugiyama)ですよね? 俺は金属エンジニアでして、ここ厦門で金型工場を買ったんですけど、Sojiroさんの陶芸品が買えると地元の人に聞いてやってきたんです、いやぁ、こんな山奥・・・いえ、失礼、道を間違えたかと思うぐらいで・・・あいたたた!」
興奮のあまり、隆二は思わず額を抑えた、痛みが走ったがそれ以上に心が弾んでいた、世界的に名を知られた陶芸家、杉山宗次郎・・・日本の伝統と現代性を融合させたその作品は、隆二もいつか一つは手にしたいと夢見てきたのだ
フフッ
「この分だと軽傷だな」
と宗次郎が笑った