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#残酷な描写あり
らい
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37
#パンデミック
畝澄ヒナ
48
コメント
1件
この回、めちゃくちゃ面白かったです!「切腹」を持ち出すカレンの発想が斜め上すぎて笑いました。しかも説明がちゃんと「魂と愛情が宿るから腹を見せる」って日本文化の理屈に沿ってて、カレンのキャラと世界観の噛み合い方が絶妙でしたね。アルビスとシダナが書類落とすシーン、想像しただけで吹きました。ヴァーリ、本当にやるんじゃ…と心配になるほど追い詰められてて続きが気になります!
ここはアルビスの執務室。以前、ルシフォーネから去勢を進められた場所でもある。
そんなある意味いわくつきの場所でもあるけれど、執務室である事は変わりがない。
アルビスとシダナは、ヴァーリがどれだけカレンに謝罪の言葉を紡いでいても、黙々と、淡々と、粛々と、書類を捌いている。
「陛下、春祭りの予算案をまとめましたので、ご確認を」
「わかった。あと、今日の議会でセリオスが提案した特別減税の対象領地をすぐ抜き出してくれ」
「かしこまりました。では、それと同時に納税が芳しくない領地も合わせて報告いたします」
「ああ、急ぎ頼む」
「了解です。本日夕刻には報告致します」
ちなみにこのアルビスとシダナの会話は、全てアイコンタクトで行われている。カレンの邪魔にならないように。
本当なら、王城の廊下で今にもヴァーリに死ねと命じようとしていたカレンを、この執務室に移動させたのは他でもないアルビスなのだ。
無論、激しい耳鳴りよりも不快なアルビスのこの提案に、カレンは最初は頷かなかった。けれど「執務室でなら、何をしても良い」というアルビスの言葉により、嫌々ながらもここにいる。
だからこの部屋の持ち主であり、帝国の法であり秩序であるはずのアルビスは必死に自分の存在を消して、政務に励んでいたりする。
時折、ヴァーリから縋るような眼差しを受けてはいるけれど、もちろん気付かないふりをしている。
シダナも徹底して、無視をしている。その華麗な無視っぷりは、良心など少しも痛んでいないようだ。シダナはヴァーリより頭が良い。カレンに食えないヤツと言わしめるほど、ずる賢い一面を持つ。
だから一度でも、カレンとヴァーリの間に入ってしまえば、とばっちりを喰らうのは間違いないことを知っている。そんな愚かな行為を、この男が好んでするはずもない。
アルビスの側近兼護衛であるシダナは、事務処理が苦手なヴァーリに代わって政務の補佐をしているとても忙しい身なのだ。
彼の机の上には、ちょっとの振動でも雪崩が起きてしまう程の書類の山。これは今日のシダナのノルマでもある。
アルビスの机も同じように、書類の山脈ができている。これも同じく今日のノルマ。
だからせっせと書類を捌く二人は、また懲りずに救いの手を求めてくる脳筋騎士の視線を感じた途端、手にしていたそれをそっと持ち上げて拒絶の意を示した。
それから30分程経過しても、カレンの怒りは治まらない。
でも、ヴァーリの謝罪は既に同じフレーズを繰り返すだけのポンコツ蓄音器と化している。
堅っ苦しい言葉を紡ぎ続けているヴァーリの舌は既に限界を迎えていて、噛むはどもるわと聞くに堪えない。
そんなわけでカレンは、ちっと舌打ちをしてから口を開いた。
「ねえ、ヴァーリさん。あなたにとって誠心誠意の謝罪ってこんなもんなの?」
ソファのひじ掛けに頬杖を付いたカレンは、うんざりした表情を浮かべて吐き捨てた。
けれど、何かをひらめいたようで、その表情は場違いなほど明るい笑みに変わった。しかし、目は笑っていない。「さっさと答えろよ。このウスノロ」と訴えている。
カレンのすぐ横に控えているリュリュに至っては、とうとうスカートに仕込んでいた剣を取り出す始末。
ヴァーリは今すぐ答えなければ、命はない。だが怒りを静めるようなユニークかつ、真っ当なことを言えるボキャブラリーは、ヴァーリには残念ながらない。無言を貫くのがせいぜいだ。
それはカレンにとって予想通りの行動だったのだろう。苛つく様子はない。それどころか、笑みを深くして更に問いを重ねる。
「誠心誠意の謝り方、教えて欲しい?」
「……オネガイシマス」
何を言っても、墓穴を掘ってしまうことをわかっているヴァーリは、抑揚ゼロ。感情も完璧に押さえ込んで、深々と頭を下げた。
2拍置いて、カレンの目が猫のように細くなった。
「その前に確認だけど、あなた悪気があったわけじゃないのよね?」
「モチロンデゴザイマス」
「そんなつもりじゃなかったんだよね?」
「ソノトオリデゴザイマス」
「今あなたは、騎士として……ううん、人間として地の底に落ちているんだけど」
「うげっ」
「あ゛?」
うっかり素が出てしまったヴァーリは、すかさず首を横に振った。
次いで、どうぞ続けてください。お願いですから続けてください。どうか平に平にお願い奉ります。と懇願する。
その姿に多少は満足したのか、カレンは小さく咳ばらいをして口を開いた。
「ヴァーリさん、人間としての名誉を回復したい?」
「はい。是が非でも」
「そう。なら、とっておきの方法を教えてあげる」
カレンはここで、一旦口をつぐんだ。
それは次に放つ言葉が、ヴァーリにとって嬉しくない予感がする。しかし、ヴァーリは自分から教えて欲しいと言った手前、逃げることなどできない。
どうか自分の四肢が無事でありますように。ヴァーリは、そう神に祈った。
けれども、神はとことん人間に対して平等だった。異世界から来たカレンに優しくないように、ヴァーリにだって優しくはない。
「私が生まれて育った世界だとね、この方法しかないんだ。──切腹よ」
「セップク?」
ヴァーリは初めて耳にしたそれを、カタコトで呟いた。
内心、知っていたら逆に怖いと思うカレンは、ちょっとほっとしつつも、簡潔にそれを説明する。
「自分で、腹を、掻っ捌くこと」
瞬間、ここにいた誰もが息を呑んだ。
完璧に存在を消していたはずのアルビスとシダナですら、手にしていた書類やペンを落としてしまう始末。それらを拾うことすら忘れ、カレンを食い入るように見つめている。
カレンとて、アルビス達の視線に気付いている。でも、今回ばかりは「こっちを見るな」と騒ぐつもりはない。むしろ聞かせてやりたい気持ちだ。
だからカレンは、ちょっとだけ声量をあげて、ヴァーリにそれはそれは丁寧に説明を始める。
「私の国の人達は、お腹には魂と愛情が宿っているという思想があるの。だから、真心と潔白を示すためにお腹の中を見せて、腹黒いところなど何もなかったんだ証明するんだよ」
一気に言い切ったカレンは、最後に「今のあなたにぴったりでしょ?」と付け加えて笑った。