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kirisu
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畝澄ヒナ
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「お待たせ」
スッキリして再度登場したけれど、恵ちゃんはさっき座らせた時から、一ミリも動いていない。生きているか心配だ。
恐る恐る、彼女の鼻の下に指を近づけて呼吸を確かめようとすると、ガブッと囓られた。
「ありがとうございます!」
「……どこの限界オタクですか」
彼女は呆れたように溜め息をつき、体勢を崩す。
「飼い猫に噛まれるの、夢だったんだ……」
「猫じゃねっす」
「恵ちゃんはいつでも、俺の可愛いマイスイートハニーキャットコネコチャンだよ」
「正しい日本語使ってください」
彼女は突っ込んだあと、もう一度溜め息をついて「そうじゃない」と呟く。
それから少し沈黙し、少し手をもたげては膝の上に下ろし……を繰り返し、物凄くぎこちない、カクカクした動きで腕を組んできた。まるで猫型ロボットだ。
(かわああああああああああああああっっっっ!!)
それだけで、喜びのあまりタップダンスを踊り出しそうだったけど、シリアスな雰囲気なのでグッと自分を抑える。
でも、顔がシリアスになりきれず、恵ちゃんを抱き締めながらも、少し口元をニヤつかせてしまった。
「どうしたの?」
気を取り直して再度尋ねると、彼女は罪悪感たっぷりに言う。
「……今日、篠宮さん狙いで朱里に加害してくる女たちに、ぶちかましちゃいました」
「あぁ~……」
「朱里に盗聴器仕込んだ分際で被害者ムーブかますし、途中で現れた女は、第二秘書の歓迎会で朱里を侮辱しました。多分、その人が反対したせいで、朱里の歓迎会は開かれなかったんですよ。……『自分は大企業の秘書でいい女』と思い込んでるくせに、現実ではすでにくっついている二人の邪魔をするだけの、中学生に毛が生えたような害悪。見てるだけでイライラする!」
彼女が怒っている理由を理解した俺は、ポンポンと恵ちゃんの肩を叩いた。
「……まだ怒りが収まってないみたいだね?」
穏やかに言うと彼女はハッと我に返り、俯いて俺の手を握ってくる。
「……ごめんなさい。……幻滅しましたよね。私、朱里のためならどれだけだって怒りますし、嫌な奴にだってなります。感情に振り回されて、冷静じゃいられなくなります」
「うん、それだけ朱里ちゃんの事が大切なのは分かってるよ」
そう言うと、恵ちゃんはさらに落ち込んでしまったみたいだった。
「……すみません。私、涼さんとの関係をまだ構築しきれていなくて、そっちを優先すべきなのに、朱里の事ばっかり……」
「あ、ちょっと待って」
勘違いさせたみたいなので、俺は一旦彼女の言葉を遮った。
「俺はね、朱里ちゃんの事が大切な部分を引っくるめて、恵ちゃんが大好きなの。こう言うと彼氏としてどうなのって思うけど、朱里ちゃんが第一で、俺の事は今のところ第二。でも一生懸命、俺の事も考えてくれているのが今の恵ちゃん。朱里ちゃんの事が大好きだった過去があって、今の君がいる。その全部が好きなんだよ」
「……ありがとうございます」
恵ちゃんは安心したような、シュンとしたような表情でお礼を言い、ポフッと俺の肩に顔を埋めた。
今、喜ぶところじゃ全然ないと分かっているし、恵ちゃんが弱っている時につけ込むような事を言って、甘えさせて悦に入るのも違う。
でも気弱になった彼女が自分から近づいてきて、甘えてくれるのが嬉しくて、跳び上がってしまいそうに嬉しい。
「恵ちゃんが社内でバトルしてしまったのは分かるけど、そのあと問題があった? 盗聴器の下りも含めて、全部教えてくれる?」
穏やかな声で伝えると、恵ちゃんはコクンと頷いてから話し始めた。
少し前から食事の時、恵ちゃんから『朱里に近づく女がいる』とは聞いていた。
失礼ながら『いつもの親友ポジでの嫉妬かな?』と思ったけれど、どうやら違うようだ。
俺は恵ちゃんの事を〝猫〟と形容して可愛がっているけれど、単に可愛い対象として〝猫〟と言っている訳じゃない。
気を許した相手には身を委ねて甘えるけれど、そうじゃない相手には神経質に距離感を計り、〝大丈夫〟なのかを見極める。
……まぁ、俺に対しての反応は、驚いた時や照れた時の反応が新鮮で『猫っぽい』と思うんだけど。
そんな彼女の人を見極める目は、かなり本質を突いていると思っている。
俺や尊、朱里ちゃんに対しては素で接してくれているけれど、たとえば旅行先で店のスタッフなど誰かに話しかけられた時、彼女はジッと相手を見つめる。
注意深く話を聞く上、声色や表情、目の動きなどから、相手がどんな感情を抱いているのかを感じ取ろうとしているのだ。
過去に痛い目を見たからそうなったのは分かるけれど、今は朱里ちゃんや周りの人に災いとなるものを持ち込まないよう、気を遣っているのかなと思っている。
だから恵ちゃんが、朱里ちゃんに近づく女性社員を『怪しい』と思うなら、俺もその勘を八割信じるのだ。
コメント
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ちょっと泣きそうになったわ……「朱里ちゃんが第一で、俺は第二でも、その全部が好き」って涼さんのセリフ、ガチでグッときた。恵ちゃんの猫っぽい警戒心と甘え方の描写も解像度高くて、シリアスな空気の中に甘やかし成分が効いてる感じが最高だった🔥 俺もああいう優しい包容力ほしい……(切実)