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休憩を挟みながら歩き続けて三時間、漸く街と思われるものが見えてきた。
何故かセレーネよりもカナの方が体力が少なく、何度かの休憩は全てカナの為に取っていた。
「ほ、本当に君十歳……?」
「勿論、誕生日は忘れたが齢が十である事には間違いない」
「そうなんだ……」
「カナ、悪いがもう少しだけ頑張ってくれ。もう目と鼻の先だ」
「が、頑張るよ!」
「それでこそ、私の金糸雀だ」
「止めて本当に顔真っ赤になっちゃう」
「可愛らしいのだからいいだろう」
「大人の威厳!!」
「にゃぁーん!!」
セレーネの肩に乗っていたコムギが一際大きな声で鳴く。二人は反射的に前を向き、目の前には巨大な門が立ちはだかっていた事に気が付いて足を止めた。
「これが、門……?」
「セレーネの街と違うでしょ」
「全然違う、主に規模や素材が」
目の前にある門はあらゆる素材が使われていることが一目で分かった。
硝子、鉄、煉瓦、木材、合成樹脂、兎に角物を作る為の素材が全て組み合わされて門や外塀が形成されている。
「特にここの門は強固に出来ている。ここは国への入り口だからね」
「国?街ではないのか」
「俺が言ってた硝子の街は、【創造の国】の中にある幾つもの街の一つ。俺達がこの門をくぐって直ぐ入るのが硝子の街って話」
「成る程……硝子の街の奥は?」
「確か【金属の街】だったかな?その隣は聞き込み調査してみようか」
「あぁ、少しは力になれるように努力する」
二人が話していると、武装をした門番と見られる男が数人駆け寄ってきた。カナが警戒しつつも此方には敵意がないと両手を挙げれば一際大きい男が近付いてきた。
「失礼、創造の国への入国を希望ですか」
「はい、旅をしていまして……国には長く滞在せず、通り抜けさせていただきたい」
「そうでしたか、では硝子の街への滞在は三日が限度となります。宿が取れるように手配しておきますので、お早めに街を抜けてください」
「分かりました、ご丁寧に有難う御座います。それではこれで……」
「その前に、聞きたいことが」
「っ、ぃ……」
カナが男の横を通り抜けようとした瞬間、男がカナの肩を強く掴んでそれを制止した。だが掴む力が強すぎたのか、痛みで反射的に声を出してしまい、それがセレーネの耳に届いた。
「カナ、私の金糸雀っ……離せ、伏せろっ!」
「っ、手が勝手に……ぅぐ!?」
男はカナの肩を掴んでいた手が勝手に離れ、そのまま身体が地面に伏した事に驚きを隠せなかった。周りの門番も持っていた武器をセレーネに向け、警戒態勢を取る。
だがそれは、セレーネの怒りを更に煽るだけだった。
「お前達もこの男の様に無様に地に伏すか?それとも倣うか?どうせなら全員……」
「待って、旦那様」
セレーネの怒りを鎮めようと、カナはその場に膝を付く。そして一束髪を持ち上げ、にこりと笑って口付けた。
「俺は大丈夫だから、ねっ?」
「……起きろ」
その一言で、地面に伏していた男の身体が動くようになり、恐る恐る起き上がる。そして武器を構えた門番全員に武装解除を命じ、数歩後ろに下がらせた。
「……大変失礼した。お二人はどういう関係なのかと思いまして、手荒な真似を」
「次、私の伴侶に触れてみろ。次は土の中に沈めてやる」
「お願いだから落ち着いてよ……」
「…………」
「えっ、何?何々??」
セレーネはカナをじっと見つめ、何かを待っているような視線を向ける。その視線に気が付いたカナは数秒考え、恥ずかしそうに両手を合わせて精一杯あざとく見えるように首を傾げる。
「だ、旦那様♡カナのお願い聞いて♡」
「よし分かった、今日の所はここまでにしておこう」
「すっごい恥ずかしいしチョロすぎるよセレーネ……」
「………何となく関係が分かりました。どうぞ門をお通り下さい」
「これで分かって欲しくなかったなぁ!!」
「良いじゃないか、牽制と言うものだ」
「俺が良くないんだってばぁ!!」
色々あったが、入国手続きを済ませた二人と一匹は門を通り硝子の街へと足を踏み入れた。
硝子の街は名の通り建物や植物、地面までもが硝子で出来ていた。住人の服も特殊な物なのか、硝子のように光で反射して至る所が眩しい。
眩しさに思わず顔を顰めていれば、街の入口にいた笑顔が眩しい女性にサングラスを差し出された。
「硝子の街にようこそ!この街は全てが硝子で出来ている為、太陽が出ている間はこのサングラスをかけることをお勧めします!」
「あ、有難う御座います。ほらセレーネ、あっ猫でも付けられるやつとかあります?」
「ではこちらの小型の物は如何でしょ?ちなみにこちらサービスとなっておりますので!」
「良心的……はいコムギちゃん、おぉ似合ってるね」
「んにゃん!」
「カナ、私は」
「似合ってるよ、旦那様」
「………ふふん」
「(喜んでる……!可愛い所もあるじゃん!)」
二人と一匹はサングラスを着用して再度街を観察する。
全てが硝子で作られた街、今の所は特に問題が無さそうに見える。目立った建物といえば時計台のみ、だが何も行動せずに得られるものは無い。カナはセレーネの横にしゃがみ、小さな声で話し始めた。
「セレーネ、二手に分かれる事って出来る?」
「何故、理由は?」
「ここの街、何か変な感じがするんだ。何か起こってないか聞き込み調査したくて、俺といるよりセレーネとコムギちゃん二人の方が大人の警戒心が緩みやすいから」
「カナは?」
「俺はまぁ、多少女性には顔で何とかするよ」
「浮気か?」
「……なら旦那様には俺の大事な物を渡しておこうかな」
そう言ってカナは上着の内ポケットからある物を取り出し、セレーネに手渡す。
セレーネは手渡されたものをまじまじと見つめ、カナの顔を見る。
「それは俺の取っておき、家宝みたいな物かな。一日一回しか使えないけど、きっとセレーネの助けになる筈だ」
「そんな希少なものを、私に?」
「勿論、だって俺の旦那様なんだからね♡」
「有難う、幸せにする」
「早いよ色々、それで使い方は……」
セレーネはカナから貰った物を自分のポケットに仕舞い、横でしゃがんでいるカナの頬にキスをする。
カナがまた顔を赤くして黙っていると、セレーネは嬉しそうに笑って走り出した。
「っ、セレーネ!」
「夕暮れ時に、あの時計台の前に。私は期待を裏切らないと言うことを証明してみせよう」
「……流石、でも無理しないでね」
「カナも、油断はするな」
そこで二人は別々の方へ歩き出す。カナはセレーネの背中を見送り、先ほど門番からくすねた地図を広げた。
硝子の街はダイヤ。
奥にある金属の街はスペード。
その横にある【木々の街】はクラブ。
硝子の街の横にある【樹脂の街】はハート。
他にも様々な材料の街はあるけど、創造の国での主な街はこの四つ。
法則を見る限り、トランプのマークと関係がありそうだ。
地図に描かれた四つの街は全て繋がっている。硝子の街から出て金属、木々、樹脂を巡れば必ず硝子の街に帰ってくる。
その周りを取り囲むように小さな町があるが、恐らくそれはマークの街を隠す為に作られただけ、単なるフェイクの街だろう
だが一つ、気になるとすれば各々の街に時計台がある。時計台はそれぞれ街の中心にある、ここは問題はない。
「四つの街は時計台を通れば円が描ける。だけど、こうして……時計台から地図の真ん中に線を描いて、全部の線が重なる場所は……」
街の何処にも属さない、中心。形を見れば王冠のような形をしている。そして時計台から中心に向けて線を引けば、王冠に付いている宝石の位置に丸が描けた。
「何かありそうだけど、俺だけで行っても戦闘があったら間違いなく返り討ちだし……仕方がない、少し助けてもらおうかな」
カナはポケットから鳥の形の紙を取り出し、フッと息を吹いて空に飛ばす。飛ばされた紙はまるで命が吹き込まれたように空高く飛び、直ぐに見えなくなった。
「さて、吉と出るか凶と出るか……よし、俺も聞き込みから始めないと」
一方その頃、セレーネとコムギは子供と猫という組み合わせで思惑通り大人の警戒心を解き、最近の出来事を聞いて回っていた。
そして、大人の言う事は全て同じだった。
【夜十二時に、時計台の鐘が鳴る】
「鳴る筈のない時間に鐘が……しかも大人は皆そう言うが、子供は鐘の音なんか聞こえないと言っている」
何かがあるのは間違いない、それも大人にだけ。
「心なしか大人は疲れているようにも見える、しかも働いていない……忙しそうに駆け回っているのは子供だけだ」
「んにゃぁ」
「あぁ、そして虫や鳥、コムギのような猫も、何もいない。本当に人間だけが住んでいるようだ」
「んにゃ……」
「カナと早く合流しよう、直ぐに次の街に行く必要がある」
セレーネはコムギを抱き上げて時計台へ走る。まだ日は暮れていない、だが直ぐにでも金属の街へ移動した方がいいと判断した。
時計台の前に付いたセレーネは、違和感を覚えた。本で見た時計台と全く同じ、だが外見は硝子で出来ているのに中から歯車や部品の音が聞こえてくる。時計台の文字盤が鏡になっているのか、日光が反射して眩しい。
そう言えば本で読んだことがある。鏡にはマジックミラーと言うものがあり、外から見ればただの鏡だが、内側から見れば外の風景が見える窓のようになると。
「……私では、この高さは無理か。それに勝手に時計台に登ってはただの不審者………」
時計台を見上げ、セレーネは深い思考に入る。
何故、夜中の十二時に鐘が鳴る。
何故、大人は生気のない顔をしている。
何故、子供達は大人の代わりに働いている。
何故、時計台は硝子以外の素材を使われている。
何故、何故………
疑問が足りない、せめてあの文字盤を確かめることが出来れば。
「お困りかな、セレーネ」
「っ!カナ、来たのか」
「早めに着いたらセレーネが悩んでたから急いで来たんだ。さて、俺は何をしたらいい?」
「……夜、人気がない時間帯でいい。あの時計の文字盤が本物の鏡かどうか調べてほしい」
「何かあった?」
「そうだった、先に情報を共有しよう」
「ならあそこに美味しいケーキがあるカフェが……動物も一緒に入っていいらしいよ」
「よし行こう、お前の好きなケーキが知りたい。ケーキを頬張る姿も見たい」
「最優先は全部俺なんだね……」
「当たり前だろう、何を言っているんだ」
「っ〜〜……もういい、もういいよぉ……!」
二人と一匹はカフェに入り、コムギは猫専用のメニュー表を、二人はデザートのメニュー表を見ていた。そして全員メニューが決まり、店員にそれを伝えて各々頼んだものがテーブルに並べられた。
コムギは猫でも食べられる魚の形のケーキを美味しいそうに食べ、セレーナもチョコケーキを口いっぱいに頬張っている。
「(こうやって見ると二人とも子供だなぁ……)」
珈琲とチーズケーキを注文したカナは微笑ましそうに二人を見つめながら、口が汚れたら拭き取りそっと撫でてやるのを繰り返した。
「カナは、食べないのか?」
「ん?俺は少しずつ食べるからいいよ。セレーネもお代わり欲しかったらいいなよ?コムギはミルクでもいる?」
「んにゃん!」
「はぁい、すいませーん」
「…………」
セレーネは落ち着いた様子のカナを見つめ、自分の目の前に残った最後の一口のケーキに視線を落とす。そしてそれをフォークで差し、カナの目の前に差し出した。
「えっ?セレーネ……?」
「あーん、だ」
「えっ?えっ??」
「…………」
「あっ、はい。あー……」
目の前に差し出された一口のケーキを恥ずかしそうに食べ、お礼にと自分のチーズケーキも一口で入るか入らないかギリギリの大きさで切ってセレーネに差し出す。
「旦那様、あーん♡」
「……凄く、夫婦っぽいな」
「はいはい、いいからお食べ」
「有難う、では遠慮なく」
セレーネが口いっぱいにチーズケーキを頬張り、目を輝かせながら食べる姿に、カナは自然と口角が上がり、それを隠す為に珈琲のカップを手に取り口をつけた。
「さて、小腹も満たされた事だし情報共有でもしようか」
「あぁ、まず私からだな」
セレーネは聞き込みにより得た情報を全てカナに伝え、カナも地図の情報を伝える。そしてセレーネは先程の時計台の事を詳しく話し、一刻も早く次の街に移動する事を勧めた。
「成る程……実は俺もそう思ってたんだよね。特にセレーネと同じ、時計台を見に行きたくて」
「なら話は早い、直ぐにも金属の街に移動しよう」
「ちょっと待った、焦り過ぎ。先に文字盤の鏡を確かめるほうがいいんじゃない?」
「それは、そうだが……」
「これ、なーんだ?」
そう言ってカナが取り出したのは硝子で出来た鍵。もしやと思い鍵とカナを交互に見るセレーネに、カナはにこりと笑って答えた。
「ご期待の通り、これは時計台の内部に入るための鍵だよ。入手方法については内緒だけどね」
「これで、確かめることが出来れば。この街、いや国に何が起こっているのか分かる筈だ」
「そうと決まれば、早めに寝て体力温存しよう。ホテルは取ってあるから」
「流石は私の金糸雀、優秀だな」
「お褒めに預かり光栄です、ちゃんとコムギも入れるホテルだから安心してね」
「んにゃ!」
「あーあー、お口がミルクでべちゃべちゃ。拭いてあげるからこっち向いて」
「んぅー……」
「羨ましい………」
「俺、ご飯を綺麗に食べようと頑張る人が素敵だなぁって思うんだ」
「見ろ、口の汚れは一切ないぞ」
「(本当にチョロいんだよなぁ……)」
カナはセレーネとコムギを抱き上げて事前に取ったホテルに向かった。他の建物同様硝子で出来ているホテルだったが、ソファーやベットなどのクッション部分は何故か柔らかい。
「不思議だなぁ……」
「何かはあるだろう、それも含めて思考する必要がある」
「そうだね、それじゃあおやすみ」
「…………」
「な、なぁに?」
「……おやすみのキスはしてくれないのか」
「へっ……!?」
あまりに突然、そして子供から出る言葉ではなかったからか、カナは驚きのあまり手に持っていたコップを床に落としかけた。
既の所でキャッチして何とか弁償を免れたが、いつまでもキラキラと目を輝かせて見つめるセレーネに、カナは小さなため息をついた。
「甘えんぼうだね、俺の旦那様は」
「当たり前だろう、私はまだ子供だ。それに、大切な家族には甘えたくなるものではないのか」
「んぅっ…!!」
「胸を抑えてどうした、何かあったのか」
「ぃ、いいや。何もない、何もないよ……」
あまりのトキメキに思わず胸を抑えたカナはそれ以上の醜態は何とか堪え、ヨロヨロとセレーネに近付き、頬に口付けをした。
「おやすみ、セレーネ」
「………うん」
そのまま寝息を立て始めたセレーネに、床で歩き回っていたコムギを捕まえて布団の中に押し込む。
抗議の声が何度か聞こえたが、直ぐに大人しくなった。気がつけばセレーネがコムギを抱っこして二人揃って同じ顔で寝息を立てていた。
「………いい子」
カナはセレーネとコムギの頭を撫で、ベットからゆっくりと立ち上がりバルコニーのスペースに足を踏み入れた。
空はすっかり暗くなり、冷たい風が吹いている。
「待たせたね、アレは?」
「用意はした、何に使う気だ」
「お楽しみってことで」
「フン、相変わらずだな」
バルコニーに姿を現したのは顔つきがカナと似た男。同じ銀髪に月と太陽のピアスを身に着け、両目は青く口元に傷跡が目立つ。貴族のような服装をしたその男は上着の内ポケットから煙草を取り出し慣れた手付きで火をつけた。
「相変わらずヘビースモーカー……奥さんに怒られるよ?」
「既に叱られた後だ」
「その頬のガーゼって……」
「思い切り鉤爪がな、死ぬかと思った」
「馬鹿じゃん」
「幼女に娶られそうな阿保に言われたくない」
「ぐぬぬっ……」
数分後、男は煙草を一本吸い終えると携帯灰皿に煙草の先を押しつけてから仕舞い、両手を大きく広げて翼に変えていく。
「何かあったらまた【ヨビドリ】を飛ばせ、次も私が来るかは保証出来んがな」
「そうするよ、有難う【兄さん】」
「血は繋がらずでも、我らは同じ境遇の者だ。出来る事に限りはあるが、多少手は貸してやろう」
「有難う、それじゃあ……」
カナが手を振った瞬間、後ろの窓がガラリと空いた。カナが振り向くと、眠たそうに目を擦りながらコムギを抱きしめるセレーネがいた。
「セレーネ、まだ起きる時間じゃないよ」
「………誰だ」
「貴様が愛してやまない金糸雀の兄だ、血の繋がりはないがな」
「っ!失礼しました、お義兄様」
「セレーネ!?」
「ほぅ、他の人間に比べて中々礼儀正しい奴だな」
「私の金糸雀のお義兄様でしたら当然の事、私はセレーネと申します」
「宜しい。私は、そうだな……偽名にはなるが、翡翠だ」
「カワセミ?」
「ヒスイでも構わない、呼び方は好きにしろ」
「では、まだお義兄様と」
「益々気に入った。いい伴侶を持ったな、弟よ」
「……そうでしょ?」
カナがニコリと笑い、翡翠はその笑顔を見て安堵の表情を浮かべてカナの頭をそっと撫でた。そして次の瞬間には既に姿はなく、宝石のように美しい羽根だけがその場に残った。
「セレーネ、起こしちゃったね」
「いいや、自然と目が覚めただけだ。そろそろ準備を始めたほうがよさそうだ」
時計を見れば、時刻は十時。月が美しく輝き、人は皆眠りにつく頃だろう。
「時計台には十一時に着く予定でいい?」
「構わない、鉢合わせるよりその方がいい」
「了解、じゃあ準備しようか。午前の間に何着か服を買ってクローゼットに入れてある。先にお風呂に入っておいで、一人で入れる?」
「………大丈夫だ」
「なんか不安だけど流石に俺が入るわけにもなぁ……」
「私は構わない、寧ろ来い」
「そこでスパダリ出さなくていいんだよ!じゃあセレーネがお風呂は入ってる間は脱衣所で待機してるから、何かあったら呼ぶんだよ」
「………私は別に気にしない。何なら私が見たい」
「色々駄目です、自重してください」
「むぅ……」
「可愛い顔してもだーめ、ほら入っておいで」
カナにそう言われたセレーネは不貞腐れた顔で脱衣時に入っていった。カナは小さくため息をつき、先程の翡翠から受け取った物を上着の中に仕舞った。
「……使わなければいいんだけど、ね」
「カナ!入ったぞ!」
「はいはい、直ぐ行くよ」
その後、一悶着あったものの何とか準備を済ませた二人はホテルからバレないように外に出た。コムギは部屋で留守番という事に大分腹を立てていたが、おやつで何とか手を打ってもらい事なきを得た。