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「それぐらいでならないから」
晋也さんは微笑んだまま続ける。
「柊のことは家族だと思って守るし、力になりたいと思うから、俺にまで気遣う必要ないよ」
「……そうなの?」
「だから遠慮なく頼って、高校の愚痴とか楽しかったこととか、昔みたいにゲームもしよう」
「…そっか、うん、俺…たくさん話聞いて欲しい」
「なんでも聞くよ、だから、焦らなくていいんだよ」
「……うん、ありがと」
言葉が止まった。
その沈黙が心地よくて少しだけ泣きそうになる。
「お待たせしました〜」
店員さんが料理を運んできた。
「わぁ……うまそっ、!」
俺は箸を取り、目の前の刺身に手を伸ばす。
「うわ、これめっちゃ好きかも」
「ふふ、よかった」
「これもいる??」
「ん!食う!」
◆◇◆◇
帰宅後──…
家に着くと、すっかり夜も更けていた。
「柊、今日は一人で寝れそう??」
「ね、寝れるって!昨日はちょっと弱ってただけだし……」
「そう?なら良いんだけど…」
晋也さんは俺の背中を押しながら、部屋へと促した。
「おやすみ」
「おやすみなさい……」
ドアが閉まり部屋に一人になった途端、静寂が押し寄せてくる。
でも、もう昨日のような孤独感はなかった。
(焦らず、ゆっくり)
晋也さんの言葉が頭の中で何度も響く。
俺はベッドに潜り込みながら、胸の中にぽっと灯った光を感じていた。
明日からの日々が、少し楽しみになっている自分がいた。
それから数日のうちに後見人選任の正式な通知が来た。
その日から、俺たちの日常は少しずつ、しかし確実に「二人の暮らし」へと変わっていった。
朝、晋也さんよりも先に起きて、食卓には手早く作った朝食を並べて
その匂いに釣られて晋也さんは起きてくる。
一緒に出勤、通学の道を歩くし、別れ際に「気をつけて」と見送ってくれる
帰ってくれば「おかえり」と迎えてくれる。
週末には、一緒にスーパーへ買い物に行き、献立を相談するようになった。
俺が夕食の準備をしている間に皿を用意してくれたり
夕食が終わると「ゲームしてていいよ」と言って後片付けをしてくれる。
リビングで並んでテレビを見たり、他愛もない話をして笑い合ったり。
この何気ない日々の積み重ねが、俺と晋也さんの間に、確かな絆を築き上げていくのを感じていた。
温かくて、穏やかな「家族」の形だった。
でも、我儘を言ってしまうと少し複雑な気持ちもある。
(前、俺の小さい頃のプロポーズ覚えてたけど…本気にはしてないんだろうな…)
(今、好きとか言ったらやっぱり迷惑なのかな)
ソファでくつろぐ晋也さんの隣に座る。
他愛もないことを話していたはずなのに、ふと、幼い頃に彼にプロポーズしたことを思い出した。
「ねえ晋也さん」
「ん?なに?」
「前に俺が小さい頃に晋也さんにプロポーズしたの覚えてるって言ったじゃん」
あの時、晋也さんは少し困ったような顔をして
「プロポーズって……大袈裟な」と笑った。
でも、俺にとっては決して大袈裟なことじゃなかった。
子どもの頃の、純粋で、でも真剣な気持ちだった。
「俺は大袈裟じゃないんだけど…!」
そう言って、半ば衝動的に、晋也さんの体に覆い被さるようにしてソファに押し倒した。
突然のことに驚いた晋也さんの目が、大きく見開かれる。
せっかく自分によくしてくれる晋也さんを困らせたくない。
そう思う気持ちと、抑えきれないこの感情がせめき合う。
「こんなこと言って困らせたくないけど……俺、昔から晋也さんのこと好きだったんだよ」
声が震える。心臓がうるさいほどに脈打っている。
晋也さんは一瞬硬直し、そして困惑した表情で俺の肩を押した。
「へ?ま、待てよ柊…冗談、なんだよな?」
いたって俺は真剣だった。
「冗談なんかじゃ、ないよ。俺…ずっと晋也さんと付き合いたいって思ってた」
しかし、晋也さんの次の言葉で、俺の胸は急速に冷えていく。
「いや、でも…俺は柊の親代わりなわけだし」
「そう、だけど……」
ああ、やっぱりそうだよね
彼は俺の親代わりなんだ。
わざわざ俺を引き取ってくれて、本当の家族のように大切に接してくれている。
それなのに、いくら従兄弟で仲がいいからって、こんな一方的な気持ちをぶつけるのはお門違いだ。
理性が警鐘を鳴らす。
これ以上、この場にいるべきじゃない。
この言葉を取り消さなきや。
だから俺はすぐに訂正した。
「いや、だよね、変なこと言ってごめん。わ、忘れて」
そう言って、逃げるように立ち上がろうとした
その時だった。
「柊、俺の話も聞いてくれるか……?」
晋也さんの声に、立ち上がりかけた体勢のまま固まる。
手首を掴まれ、ゆっくりと振り向くと
そこにいたのは、いつもと違う真剣な表情の晋也さんだった。
彼の真っ直ぐな瞳と目が合い、俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
「…え?う、うん」
小さく頷くと、晋也さんは俺の手をそっと握り、そして、信じられない言葉を口にした。
「俺もさ、ずっと柊のこと好きだったんだ」
…………え?
頭が真っ白になる。今、晋也さんはなんて言った?
俺の聞き間違い?…いや、そんなはずが。
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