いきなり春日さんが挙手して告白し、私たちはコントのようにずっこけかけた。
なんなら、神くんも笑顔で固まっている。
今日のところはいい感じに情報を引き出して、連絡先交換までこぎつけたら上々と思っていたけれど、……思っていたより猪突猛進だった!
エミリさんは、笑顔のまま目だけ隣に座っている春日さんをガン見している。怖い。
神くんの向こうにいる恵の反応は分からないけれど、きっと似たような感じだろう。
私は動揺のあまり両手を浮かせて固まり、ニコニコと満面の笑みを浮かべている春日さんを見る。
……というか、彼女、めっちゃ汗掻いて「やべー、やらかした!」って顔をしてるんですが!
どうやら興奮のあまり口が滑っちゃったみたいだけど……、お嬢様、もうちょっと落ち着こうよ!
そんな私は目をまん丸に見開き、口をキュッと閉じている。
しばらく五人とも固まり、周囲のざわめきだけが耳に入ってくる。
私たち四人が「やばい……、どうやって誤魔化す……?」とアイコンタクトを取り合っていると、神くんが息を吐いて笑った。
「こんなにスピード感のある告白を受けたのは初めてなので、びっくりしました」
「でっ、でしょうね! ハハハ……、スピードスター春日……なんちゃって……」
春日サァン……。
私はどうフォローしたものか分からず、ドギマギして冷や汗を浮かべる。
チラッと神くんを見ると、びっくりしたのは確かだろうけど、面白そうな顔をして春日さんを見ている。
「……今のは冗談でしたか? 本気ととっても構わないですか?」
神くんは微笑んだまま、穏やかに春日さんに尋ねてくる。
彼女は私たちをキョロキョロと見回して動揺したあと、消え入りそうな声で言った。
「…………ほ、本気です……。一目惚れしました……」
それを聞き、神くんは笑みを深める。
「具体的に、どういうところに魅力を感じたかお聞きしてもいいですか?」
また尋ねられ、春日さんはアワアワと動揺したあと、俯いてスンッと大人しくなり、深呼吸する。
それからまだ顔は赤いものの、まじめな顔で言った。
「本当に一目惚れですので、今の私が神さんの魅力を語っても、すべて薄っぺらい言葉になると思います。先ほど出会ってから今まで、知る事のできた情報はごく僅かなものです。それを並べ立てて『これがあなたを好きな理由です』と言っても、恐らく神さんは『そんなものか』と思うでしょうし、私としても浅い理由で恋に落ちたと思われるのは避けたいです」
しっかりした彼女の一面が見え、私はホッとする。
神くんにはなんとしてでも、〝美人で愉快なお姉さん〟以外の感想を持ってほしい。
「確かに、三ノ宮さんの仰る通りですね。僕も正直、あなたを『素敵な|女性《ひと》だな』『魅力的だ』と思っても、それ以上は語れません」
褒められた春日さんはバッと俯き、必死にニヤつきを堪えている。
「……お、お近づきの印に、春日と呼んでください」
「じゃあ、僕の事は輝征と」
「お友達からはなんと呼ばれていますか?」
「会社の方々からは、愛称で『じんじん』『テリー』と呼ばれていますが、友人は名前そのままだったり『ユキ』が多いですね。なぜかというと、二十七歳の兄がいるんですが、兄の名前にも〝輝〟がついているんですよ。|輝路《てるみち》って。なんなら父親にもついています」
「おお……」
私は思わず声を漏らす。
「じゃ……、じゃあ……、ユキくんって呼んでいいですか?」
「どうぞ、春日さん」
お互いの呼び名が決まり、私たちはにっこりし、春日さんは照れて照れて、溶けてしまいそうになってる。
「……それはそうと、兄じゃなくて僕でいいんですか?」
そう言った神くんの声が微妙に硬い気がして、私はハッとして彼を見る。
神くんはどこか寂しそうな顔をしていて、私はすぐに彼はお兄さんと確執があるのだと察した。
多分だけど、大企業の長男と次男だから、比べられて……とかあるんだろうか。
名前の音が被っている事もあるし、『兄じゃなくて僕でいいんですか?』っていう言葉も、ちょっと卑屈っぽい感じがある。
皆に可愛がられるワンコ系後輩としての神くんしか知らなかったけれど、彼には彼の闇があったんだ。
――けど。
「ユキくんがいいです! 私が一目惚れしたのはユキくんですから!」
ズバッと言った春日さんの言葉を聞き、初めて神くんの顔に心の底から嬉しそうな表情が宿った。
コメント
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あ、兄、、、? コンプレックスかー。😅 ジンジンも色々あるんだね。(´๑•_•๑)\(๑•ω•๑)ヨシヨシ