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「いやぁ、流石は郁斗さん。前のマンションも凄かったけど、新居はまたとんでもなく凄い!」

「憧れます、郁斗さんのような暮らしに」

「お前らだって、頑張ればこういう暮らしも夢じゃないよ」

「そうっすかね? いやでも、やっぱり無理そう……」

「俺は目指します、郁斗さんみたいな男を」

ソファーに座り、そんな話をしている郁斗たちの元へコーヒーを淹れた詩歌がカップを四つ、トレーに乗せてやって来た。

「どうぞ」

「ありがとう、詩歌ちゃん」

「ありがとうございます、詩歌さん」

「あざっす!」

郁斗の隣に腰を降ろした詩歌。二人並んでいる所を見た美澄は、

「そう言えばお二人は、いつ頃籍入れるんすか?」

突拍子もない質問を投げ掛ける。

「何だよ、いきなり……」

「え? だってこんなすげー良いところに越してきて二人で住むって事は、もう将来を誓い合ったんですよね?」

「美澄、そういう事はいちいち聞くもんじゃねぇって」

「あ、すんません!」

小竹にたしなめられた美澄は慌てて謝り、コーヒーを流し込むように飲んだ。

「熱っ!!」

けれど、淹れたてのコーヒーは熱く、その熱さに思わず吹き出しそうになる。

「阿呆だ……」

そんな美澄を冷めた目で見つめ、若干困り顔の郁斗と詩歌に視線を移す小竹。

「すみません、余計な事を聞いてしまって」

「小竹が謝る事じゃないだろ。まあ勿論、いずれは俺たち一緒になるよ。けど、まだ付き合ったばかりだし、詩歌ちゃんだって折角自由の身になれたんだ。『結婚』なんて言葉で縛り付けたくはないから、暫くはこのままを楽しむ予定だよ」

「郁斗さん……」

「そうなんですね」

新居で共に暮らす事以外特別話し合ったりはしていなかった二人だけど、自分との将来を真剣に考えていてくれた事を知り、嬉しくなった詩歌の表情は自然と緩んでいた。


新居で過ごす、初めての夜。

「今日は美澄が色々とごめんね。アイツ、悪い奴じゃないけど空気読めないんだよね」

「いえ、そんな事ないです。美澄さんも小竹さんも片付けとか手伝ってくれて助かりましたし」

旧居よりも広くなった寝室のベッドに並んで座った二人は、今日あった出来事を振り返りながら眠くなるまで話をする。

「そう言えば、詩歌ちゃんはこれからどうするか決めた? やりたい事が色々あるって言ってたよね?」

「そうですね……社会勉強の為に働きに出たいとも考えたんですけど、もし可能であれば、またPURE PLACEで働く事は出来ますか?」

「PURE PLACEで? 詩歌ちゃん、それ、本気で言ってる?」

「はい、本気ですけど……いけませんか?」

郁斗のその言葉に、きょとんとした表情を浮かべた詩歌は聞き返す。

「そりゃそうでしょ? だってPURE PLACEはキャバクラだよ? 俺、自分の女をキャバクラで働かせる趣味は無いんだけど?」

郁斗から出た『自分の女』というフレーズにドキッとした詩歌は少し頬を赤らめた。

「……そ、その……郁斗さんが嫌だという気持ちは、嬉しいです。確かに逆の立場だったら、嫌かも……軽率な発言でした」

「でしょ? だったら……」

「……だけど、私、少しだけだったけど初めて働いたのがPURE PLACEだったし、楽しめるようになっていたし、もう少しだけ、働いてみたいった思ったんです! 無理はしません。危険だと思ったら、すぐに助けを呼びます。それでも……駄目、でしょうか?」

「…………はあ、そんな風にお願いされたら、断れないよね。分かったよ、太陽に伝えとく」

「本当ですか!? ありがとうございます、郁斗さん」

郁斗が折れる形で再びPURE PLACEで働ける事になった詩歌は嬉しくなって、思わず郁斗の胸に飛び込んだ。

「……詩歌ちゃんさ、こういうの、誰にでもしちゃ駄目だよ?」

「し、しませんよ! 知らない人に抱きついたりしません」

「どうかな? なんて言うか、無防備なとこ多いよね、詩歌ちゃんは」

「え? そ、そうでしょうか?」

「そうだよ。今日だって美澄との距離、ちょっと近過ぎだったよね?」

「そ、そんな事ないですよ?」

「いや、夕飯の後片付けの時とか、妙に近かった」

「す、すみません……」

「だからこそ、キャバクラで働くとか心配なんだよね」

「以後、気を付けます……」

「……やっぱり、マーキングしといた方がいいかな?」

「え?」

「俺さ、最近気付いたんだけど、結構嫉妬深いタイプみたいなんだよね――」

そう口にした郁斗は詩歌の身体を優しくベッドの上に倒して、彼女の上に跨った。

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