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気がつくと見知らぬ土地にいた。
これは物語の主人公が知らない世界に飛ばされたことを簡潔に伝えることができる便利な一文で、今流行りの異世界転移モノの導入部分でよく用いられている。
だから俺も使わせていただこう。
俺は気がつくと見知らぬ土地にいた。
俺こと天瀨彦臣(あませ ひこおみ)は目が覚めると緑が生い茂る森の地べたで寝転がっていた。
俺は生まれも育ちも東京で、こんな緑豊かな場所には縁も所縁もない。
なのでこんな結論にいたった。
「これは夢だ。」
俺は昨日大学のサークル仲間と飲み会をした。結果居酒屋から家に帰るまでの記憶が無くなるほど盛大に酔っ払った。
なのでこれは酔っ払った末に見た夢だと思うことにした。
「いや~こんな穏やかな場所来たことなかったから新鮮だな!ここでBBQしたい…美味しい肉が食べてぇ…!」
都会のビル郡に囲まれ、排気ガスだらけの空気を吸って育ってきた俺にとってはこの夢は新鮮でとってもテンションが上がっていた。
そんな俺は背後から忍び寄る人物に気がつかなかった。
ゴン!
鈍い音と共に頭に衝撃が走り、俺の意識はだんだんと遠のいていく。
(痛覚……あるんだ…)
俺は痛みの中、そんなことを思いながら意識を手放した。
「冷たっ!!!」
唐突な冷たさで意識を取り戻した俺は手足を縛られ、目隠しをされているようだった。
(え?どゆこと?どういう状況?)
俺はさっきまで妙にリアルな夢の森でのんびりとしたスローライフを送っていた…
なのになぜ俺は今、刑事ドラマに出てくる監禁された人質のような状態なんだ?!
急な展開に頭が追い付かない。
「やっと起きたと思ったら一言目が『冷たっ』って…能天気すぎるんじゃないのかい?」
目隠しをされているせいで姿は見えないが、何者かに話しかけられた。
しかも少しバカにされている…
たまらず俺は言い返した。
「いやいや冷たかったら『冷たっ!』って言うだろ!それが人間の性みたいなもんだ!てかお前だれだ!目的は身代金か!俺は大した金にはならないぞ!」
俺の返答に対して少しイライラしたのだろう。声のボリュームを少し上げて言った。
「お前ほんとうるさいな…それに発言も命を助けた恩人に対して失礼だと思わないかい?」
「命の恩人?あんたが?」
俺は言葉の意味こそ知っているが、いまいちピンと来なかったので聞き返した。
「あぁ。魔物だらけの森で能天気に突っ立ってたお前を優しく寝かせてここまで運んでやったんじゃないか。」
「優しく寝かせてっ…て頭を鈍器か何かで殴っただろ!どこが優しいんだー!大体、今も手足は縛られてるし目隠しも…どこからどう考えても恩人なんかじゃないだろ!ん…魔物?」
命の恩人で無いことにもビックリしたが魔物という単語に引っ掛かった。
なんだその2次元の世界でしか聞かない単語は
「は?魔物は魔物だよ。頭おかしくなっちゃったのかい?」
「いやいやいや、魔物なんて存在しないって。
なんなら安心安全な日本の東京には野生動物すら珍しい……」
「日本…東京?なに?本当にヤバいやつ拾ってきたか?これ。」
俺は全身の毛穴という毛穴から汗が吹き出るのを感じた。
現実味のない可能性が頭の中を駆け巡る。
知らない森に魔物…もし夢でないとしたら…
「もしかして…これって異世界転移?!」
ー終わりー