テラーノベル
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村瀬はどうやら、私が瑠璃さんに好意を抱いていることを知っているらしい。
まぁ、二年前の歓送迎会で瑠璃さんに一目惚れしたという噂は、営業部所内では広く知れ渡っている。
私も否定はしなかった。
気が付かないのは、瑠璃さん本人だけだ。
ここまで反応が薄いと、迷惑に思われているのではないかと不安になることもあった。
(いや、傘の一件もある。迷惑とは思われていないはず!)
あの憎らしい奈良の指輪も、もう彼女の左手の薬指にはない。
ここは一気に押せばイケる気がする。
元より玉砕覚悟だ。
今夜しかない。
山吹色の暖簾を潜る瑠璃の姿を思い描いた瞬間、黒木の喉仏がゴクリと上下した。
──一方。
寿の情報によれば、黒木係長は私のことを気に入っているらしい。
何なら男女的な好意だとも噂されている。「気が付かないのは、あんただけよ!」寿はそう言いながらショルダーバッグを私の胸に押し付け、口紅を塗り直せとお手洗いに無理やり押し込んだ。
酔った寿は力加減を知らない。かなり痛かった。
(建とは、もう終わったんだ)
指輪を返した時点で、全部終わった。
けれど、口紅を見るたびに思い出す。建の寝室にあった黒い口紅の空箱。
建が好きになった女の人は、どんな人だったのだろう。
私と何が違っていたのかな。
寿が指摘するように、私と建は会話のない、空っぽの恋愛関係だったのかな。
「ちょっと! 瑠璃、あんたうんこでもしてんの!? 早く出て来なさいよ!」
「寿! やめてよ、もう!」
「ささ、早く新しい彼氏の元に行きなされ」
「そ、そんなんじゃないって」
「係長はそうでもないよぉ?」
「なにがよ」
「ふふふ」
「気持ち悪い笑い方しないでよ!」
「あれは男の顔だね」
「はぁ!?」
「お・と・こ、頑張ってねーーーーー!」
そんな風には見えなかったんだけどな……山吹色の暖簾を捲る瑠璃の手は、少し震えていた。
頰が紅潮しているのが、自分でも分かった。
「ありがとやんしたーーーーー!」
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