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#怪異
阿炎快空
123
リユ
232
#ダークファンタジー
阿炎快空
82
阿炎快空
111
「……電柱?」
今まで歩いてきた道にも、電柱は何本も立っていた。
しかしそれは他のものとは異なる、一際古い、木製の電柱であった。
「お爺ちゃん、起きてくださーい!お爺ちゃーーーん!」
オーマが電柱に向かって呼びかける。
すると——
「五月蝿いのう。まだ耳は遠くなっとりゃせんわい」
——年老いた男性の声と共に、電柱の表面——ちょうど由宇の顔の高さに位置する箇所が、ぼこっ、と瘤の様に盛り上がった。
驚く由宇の前で、瘤は徐々に、人の顔へと形を変えていく。
やがて形成されたのは、皺だらけの老人の顔だった。
「なんじゃ、オーマか。聞いた話じゃあ、埋められてすぐに復活したそうじゃな」
「ええ!きっと、素晴らしい方に埋葬してもらえたおかげです!」
自信満々に言い切るオーマを、
「そんな理屈は聞いたことがないがのお」
と、電柱がバッサリ切って捨てた。
「ええ!?それじゃあ、一体何が原因だって言うんですかあ」
「まあ、復活が早まること自体はない話ではないがな。土が特殊だったり、何らかの術を施したり——何にせよ、この街で起こるあれこれに比べれば、そこまで不思議なことでもない」
そんなことより——と、電柱がチラリと由宇に視線を向ける。
「そっちの幽霊のお嬢ちゃんは、一体何者じゃ?」
オーマ曰くその電柱は、この地域の長老とでも言うべき存在であり、街一番の情報通とのことだった。
境界街のあちこちに張り巡らされた電線にたむろする鴉達——その噂話が電線を通じて、彼の耳にも届いているらしい。
実際、由宇がこれまでの経緯を簡単に説明すると、
「ああ——あんたが例の、魔女の棲家から逃げ出した女の子か」
と言って、由宇をまじまじと見つめた。
「もうじき、穴の向こうから〝夜〟がやって来るからのう。魔女が鴉達に、儀式の時間までに生贄のあんたを見つけるよう急かしとるらしいぞ」
電柱に言われて、由宇はあらためて上空を見上げた。
周辺の空には鴉は飛んでいないし、濃くなってきた霧のおかげで、ただでさえ透けている由宇の姿は見つけにくいはずだ。
通りすがりの鯨のおかげで、棲家からあっという間に遠く離れられたのが幸運だった。
由宇は鯨に感謝しつつ、電柱に向き直って尋ねた。
「すいません。その、夜とか生贄っていうのは一体……?」
脱出前、魔女も「夜が来る」と言っていた。
その時は単に日が暮れる時間帯のことだと思っていたが、どうやらそういう一般的なニュアンスとは異なる単語のようだ。
「空を見なさい。真っ黒な丸が見えるじゃろ」
「丸——あの、黒い太陽のことですか?」
「あれは太陽ではない。正確には、空に開いた大穴じゃ」
「穴?あれが?」
由宇は黒々と燃える太陽をじっと見つめた。
周りがゆらゆらと揺らめいており、とても穴には見えない。
「あの揺らめいているのはな、こちら側に侵入しようとしている〝夜〟の先端じゃ。堺の世界には、ああした穴が空のあちこちに開いておる。あの調子だと、もう少しで穴から這い出し、空を覆い尽くすじゃろう」
電柱曰く——魔女は由宇を〝夜〟への生贄に捧げようとしており、そうすることによって減少した己の魔力を補充しようとしているのだという。
「〝夜〟の持つ力は恐ろしく、そして強大じゃ。魔女の飼っている黒猫には会ったかね?こちらの世界の黒猫は、穴から舞い落ちた〝夜〟の種子が大地に実を結び生まれた存在なのじゃ。葉も、枝も、茎も、幹も、全てが漆黒の木になる、一際黒い実——そこから生まれた黒猫は、その辺の猫達とは異なる特異な性質を持っておる」
「口から植物の蔓を出したり、自分の体より大きなものを体の中にしまったり、ですか?」
由宇の言葉に、
「それくらいなら私達にだってできますよ」
と、オーマが心外そうに口を挟む。
「黒猫はのう——不死なんじゃ」
「不死?」
「ああ。奴らを殺すことはできん。たとえ致命傷をおっても、たちどころに傷が癒える。オーマ達の様に、地面に埋葬する必要もない。世の理に反した生き物じゃよ、あれは」
なるほど、オーマが「我々とは全く別種の生き物」と言っていたのはそういうことか。
ひとまずは納得する由宇であったが、生憎と、彼女が本当に知りたいのはそんなことではなかった。
「それで、これから私は、どうすればいいでしょう?」
「そんなことを言われてもなあ。〝宵闇〟の魔女には、そもそも関わりを持たないのが一番なのじゃが——体のことは諦めて、このまま逃げるのを勧めるがのう」
「そんな——逃げるって、一体どこへ行けって言うんですか!?」
思わずカッとなった由宇の剣幕に、電柱は、ううむ、と申し訳なさそうな唸り声をあげた。
「そうじゃのう……元の世界に戻ろうにも、オーマに教えた山頂の門は、既に『囲』の連中に閉じられてしまったようじゃし……んん?」
どうしました、と促すオーマに、電柱が言う。
「そう言えばついさっき、山の方から、十五、六歳の男が二人、この街にやってきたらしいが……ひょっとしたら、お嬢ちゃんの友達かもしれんのう」
「ええっ!修さんが、堺の世界に!?」
大声をあげるオーマの隣で、由宇は驚きのあまり、呆然と立ち尽くしてしまった。
修君と、中村君が?
私を救いに、こっちの世界へ?
「間違いありませんよ、由宇さん!きっと私が教えたルートを辿って、鳥居を潜って助けに来たんです!」
「そ、そんな……」
由宇は別れた際の、二人の姿を思い出していた。
倒れ伏した蒼梧と、怯える修。
少なくとも——修の心は、完全に折れてしまったように見えた。
無理もないことだ。
責める気にはなれない。
本来ならば、廃ビルでの〝ゲーム〟にだって付き合う義理はなかったのだ。
だから、あり得ない。
そんなこと、起こるわけがない。
だって。
「だって——あ、あんな目にあって——その上でわざわざ、異界にまで助けに来てくれる人なんて——」
「——いないことはないんじゃないですかあ?」
オーマはそう言って、ニヤリと笑った。
まるで、自分のことのように嬉しそうだ。
勿論、そうと決まったわけではない。
由宇とは全く関係ない、ただ異界へと迷い込んでしまった二人組の可能性もある。
しかしそれでも、由宇はその名前を小さく呟いた。
呟かずにはいられなかった。
「修君……」
視界が涙で滲んでいく。
思わず顔を覆った由宇の周囲をぐるぐると周りながら、オーマが弾んだ声をあげた。
「さあさあ、泣いてる暇はありませんよ!とりあえず、急いで修さん達に合流を——」
と、オーマがそこまで言った時であった。
由宇達の頭上で、ひっひっひっ——という不吉な笑い声が鳴り響いたのは。
「手間かけさせやがって——見つけたよお、小娘ぇぇぇぇぇっ!」
コメント
1件
いやー、電柱が長老とか情報通って設定、めっちゃツボったわw 「うるさいのう」から始まるやり取りがもう可愛くて。それにしても〝夜〟の正体とか黒猫の不死性、SFちっくでワクワクする。修君たちが助けに来てくれたかもってシーンは、由宇の涙もらいそうになったよ…。最後の不気味な笑い声で終わるの、ずるい!続きが気になりすぎる🔥