チュンチュンと今朝も台湾の雀が鳴いている。
国が違うのだから雀も別の鳴き方にチャレンジしてみればいいのにと、麗は寝ぼけた頭で雀にしてみたら意味不明で理不尽なことを考えた。
ぼんやりと体を起こすと、すぐ横で明彦が頬杖をついてベッドで横になっている。
どうやら、明彦は麗を起こさないように、消音にした英語のニュース番組を字幕で見てくれていたようだ。
「おはよう」
「……おはようございます」
「とりあえず風呂に入ってこい」
明彦の言葉に、麗は昨日タクシーの中でがっつり寝てしまったことに気づく。
二日連続で寝落ちしてしまったことになる。
だって、初の海外旅行で疲れていた、というのは言い訳だろうか。
「迷惑かけたよね? ごめん」
麗は昨夜何度か明彦に体を揺すられた記憶はあるが、起きた記憶がない。
「お前は、本当に気持ち良さそうに寝ていた」
麗はすばやくベッドの上で正座した。
もしかして明彦にお姫様抱っこをしてもらって、ホテルの部屋まで帰ってきていたとしたら恥ずかしすぎる。
(新婚さんかよ! いや、新婚さんやねんけど)
「すいません、何も覚えてないです」
「昨夜、麗はタクシーの中でよだれを俺の肩につけながら鼾をかいて爆睡していた」
「うそぉ!?」
タクシーの中でヨダレと鼾の合体技を出していたとは!
女として、と言うより人として色々とアレな行為である。
「嘘だ」
「嘘なの!?」
「麗は俺の肩に顔を乗せて、頭をグリグリと俺の首にすりつけながら寝ていただけだ」
何故そんな事をしたのだろうか? モグラになる夢でも見ていたのか?
「その後、半分寝た状態でタクシーから降り、俺にくっついていれば自力で歩けたから、部屋まで連れて帰って、後はベッドの上に落とした。そして、そのまま朝が来た。つまり、もう一度言う。風呂に入ってこい」
「申し訳ございません! 只今、行って参ります!」
麗は敬礼した後、風呂場へ急いだ。
どうやらお城《ホテル》に入るために王子様《あきひこ》に抱き上げてもらうプリンセス展開は回避されたようだ、良かった。
しかし、洗面所兼脱衣所の見事に美しい装飾が施された鏡の前で、麗は固まった。
(ブラジャーのホックが外れている……!)
ぐるぐると麗は頭を動かす。
自力で外したのか、寝ているうちに外れたのか、明彦が外してくれたのか。
仮に明彦が外してくれたとしよう。
寝ているときまで締め付けられたら可哀想だろうという優しさだとして、問題はこのなだらかな体を、急勾配な体ばかり見慣れた明彦に見られてしまったかどうかだ。
(……いや、待て。アキ兄ちゃんはモテる。ブラジャーくらい服の上からでも片手で外せるはず。そう、そうに決まっているやん! 今こそアキ兄ちゃんのモテ度を信じなくてどうする)
明彦はブラホック外し大会に出場すれば、日本代表としてファンタジスタと呼ばれてもおかしくない逸材のはずだ。
麗は納得がいく結論が出たので、シャワーを浴びたのだった。