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(いちさえ) 秘密の告白

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(いちさえ) 秘密の告白

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2023年04月23日

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「朝だよ!冴島君!」

まだ眠いという思う意識の中、壱式さんの元気な声が聞こえる。

「朝から元気ですね…」

俺は両手で重い体を起こし掠れる声で言う。

「いつ死ぬか分からないんだし、備えなきゃいけないからね」

無能力者の人達の為に動きながら壱式さんは言う。こんな朝の寒い中、すぐに動ける壱式さんはほんとに凄いと思う。

俺は石のように重く感じる暖かい布団から足を出して立ち上がる。手に少し白くなった息をかけて少し温めながらテーブルに向かった。

そしてテーブルについて朝ご飯を食べる。朝だからかあまり手が進まず、少しご飯を残してしまった。

「冴島君もうお腹いっぱいだったりする?勿体ないから貰ってもいいかな?」

「うぉっ はい 大丈夫ですよ」

後ろから突然壱式さんに呼ばれ、驚きつつも俺は頷いた。

ありがとう!と壱式さんは言い俺の隣に座りササッと食べて食器を戻しに行く。

「あっそうだ!冴島君 今日一緒に見回りに行かない?」

「?はい 俺でいいのなら」

壱式さんにそう言われ特に断る理由もないため二つ返事で承諾した。

「冴島君じゃなきゃ……」

小声でそう聞こえた気がした。


そうして外に出てしばらく歩いた所で壱式さんがひとつの提案をした。

「このまま歩いてても遠いし、僕の大雀蜂の能力で飛んじゃいたいんだけど…いい?」

あぁ、確かに壱式さんが先回りしてくれた方が俺も安全に行けるなと思った。

「いいですよ」

そう返事をした瞬間、地面から足がフワッと浮かぶ。そして背中が暖かくなった。

「えっ…え?」

「ごめん冴島君!ちょっと寒いかもしれないけど許して!」

俺は壱式さんにお姫様抱っこで運ばれていた。

空中を高速で飛び回る怖さと寒さもあったが、それよりお姫様抱っこの衝撃が強かった。

その状況を傍から見られているかもと考えると顔から火が出る程恥ずかしく、俺は両手で顔を覆った。

「下見ると怖いからそうしてた方がいいかもね」

そういう事じゃない…!と言えないまま俺は両手で顔を覆い続けていた。

体感的に数分後、「着いたよ」という壱式さんの声で顔を覆っていた手を外す。

そして地面に降ろされ、周りを見る。

そこは、俺が全く知らないところだった。

壱式さんに案内され、少し開けた場所に着く。

「ごめん、僕ちょっと嘘ついた 実は見回りサボってここに来たんだ。ここは滅多に人が来ないから冴島君に話せると思ってさ」

真剣な顔で俺に言う壱式さん。

いつも通りに聞こえるが、その言葉は冷たいような気がした。

「今から僕が言う事、驚かないでくれる?」

壱式さんは優しく語りかけるように言う。

「はい…」

俺はどんな事が言われるのかと少し怯えていた。

弱すぎる?計画性がなさすぎる?最悪の場合は戦力外告知も考えていた。

「僕ね 冴島君が好きなんだ」

「……へ?」

あまりに予想外の事を言われ、無意識に声が漏れる。

「返事はいらないよ 言えてスッキリした」

ふぅと一息ついて腕を伸ばす壱式さん。

しかし、その顔はまだなにかを言い残しているように思えた。

「何か…言いたいこと残ってませんか?」

「………」

重い空気が周りに漂う。

「…冴島君ってこういう時良く気付くよね」

数秒後に壱式さんが少し笑いながら言う。

「…全部話して下さい お願いします」

俺はじっと壱式さんを見つめて言う。

「……分かった 正直言いたくはなかったんだけどね。ちょっと長くなっちゃうかもしれないから、あそこの岩に座らない?」

壱式さんがそう言い指さした方向にはかなり大きめの四角い石があった。

そしてそこに2人座り壱式さんの話を聞く。

「……これ誰にも言わないでよ?僕と冴島君だけの秘密だからね」

「もちろんです」

「じゃあ…冴島君に質問 冴島君は僕の事どう思ってる?あっ好き嫌いじゃなくて性格ね」

「みんなに優しいから…紳士…ですかね?」

「…ありがとう お世辞でも嬉しいな」

「えっ、お世辞じゃないですよ!」

「ははっありがとう でも僕、みんなの前ではあんまり自分を出していないんだよね」

「……どういう事ですか?」

「例えば」


僕が異常な恋愛感情抱いてる

「とかね   ドン引いちゃうでしょ?」

「俺はそんなんのじゃ引かないですよ」

「……本当に引かないの?」

そういうと壱式さんは石の上に立ち上がる。

「まず足を縛って動けなくして」

そう言うと鎖が俺の方にとてつもないスピードで足に絡みつく。

「次に手も縛って自由を無くす」

そうして両手もキツく鎖で縛られ、壱式さんと同じ高さくらいに吊るされた。

「で 僕のモノって分かるように首輪も付けるんだ」

そして僕の首に鎖が素早くかけられる。「…?…??」

一瞬にして身動きが取れなくなり、戸惑っている俺の顔を壱式さんは片手で掴んで言う。

「この状態で、僕が君をめちゃくちゃにしたいと言っても?」

「ぇ…?」

「冴島君の全てが欲しいと言っても?」

「…うッ」

「恐怖の表情に染まった冴島君をドロドロにして洗脳みたいに僕から離れられないようにしたいと言っても?」

徐々に俺の体に鎖が巻き付けられて、苦しいほど締めあげられる。

「……僕から逃げようものなら 四肢を破壊してでもずっと一緒にいたい なんて思っても……引かないの?」


「翔生」


「………能力解除」

鎖がゆっくりと俺の体から離れていく。

俺は立ち上がる力もなく、石の上にペタンと座り込んでいた。

「………やっぱり こんなの嫌だよね ごめん」

壱式さんは俺に謝る。

それは、いつも見ている壱式さんとは別人のような気がした。

「ぁ…でも…俺…壱式さんの事…分かって…」

ツギハギの様に出てくる俺の言葉を壱式さんは静かに最後まで聞く。

「分かってないよ」

静かにそう言われる。

その顔は少し笑っていたが、目に光が入っていなかった。

「冴島君は僕の事分かってないし、多分だけど僕も冴島君の事、あんま分かってない」

壱式さんは寂しそうにそう言った。

「…もっと壱式さんの事知りたいです」

俺は必死に声を絞り出して言う。

「俺も……壱式さんの事…好きなん…です…」

今言わなければ、終わってしまうと思った。

その時、自然と目から涙が溢れる。

理由は自分でも分からない。

キャパオーバーか、それとも  自分の言いたいことが言えたからなのか。

それを見た壱式さんは少し驚いてポッケからハンカチを取り出し、俺の涙を拭いてくれた。

少し落ち着くと壱式さんが口を開く。

「僕、その返事が貰えて嬉しいよ 凄く嬉しい 」

壱式さんも泣いていた。

でもそんなのお構い無しで壱式さんは喋り続ける。

「でも 冴島君は優しいから、歪んでいる僕じゃなくて 僕より真っ直ぐ愛してくれる人に尽くせばいいと思うんだ」

壱式さんはまた笑いながら泣いている。

これは壱式さんの癖なのだろうか。

自分を押し殺して笑う癖がついてしまっているのだろうか。

「俺は……壱式さんが…いいです どんなに歪んでても どんなに猫を被ってても 俺は壱式さんが好きです…だから…」

俺はツギハギの様にゆっくりと伝える。

「ありがとう 僕ももっと冴島君のこと知りたい 僕も冴島君の事大好きだよ 両思いだね」

壱式さんは嬉しそうにそう言う。

その涙は嬉し涙か、さっきの残りかなんて、俺には分からないけれど、これで合ってたと思う。

そして壱式さんが俺の手を握る。

少しびっくりしたが、その手は暖かくて俺を安心させてくれるようだった。

「じゃあ…改めて」

そう言うと壱式さんは少し下を向いて…直ぐに視線を戻し、俺と目を合わせる。

「僕と、付き合って下さい」

「…俺からもよろしくお願いします」

まるで学生の様な告白の仕方。

壱式さんは嬉しそうに笑っていた。

僕もつられて笑った。

今日だけはこの世界に居て良かったと思えた。


気付くともう夜が近かった。

「アジトにそろそろ帰らなきゃですかね」

「…1日位大丈夫だよ」

俺の問いに壱式さんは答える。

迷いのない 優しい声だった。

「夕日…綺麗ですね」

「うん…そうだね」

静かに流れる雲を2人一緒に眺めながら話す。

今日の空はいつもよりずっと深いオレンジ色に染まっていて、綺麗に見えた。

音が一切流れない、誰もいないような空間で互いの呼吸を聞きながら、僕らはずっと手を繋いでいた。

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