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無音だった。
世界の全てから音が消えてしまったのではないかと思えるほどに、辺りは静寂に包まれていた。
そのあまりにも耳に痛い無音に、わたしはふと目を覚ます。
「……あれ?」
そこは、私の良く知る場所。
学校の、わたしの教室の、わたしの席に突っ伏していて。
わたし、また授業中に眠ってた?
そう思ったけれど、そもそも学校に登校してきたという記憶がない。
それに、このあまりの静けさはいったいどういうわけ?
思いながら上半身を起こし、教室の中を見回してみる。
まるでそれが当たり前であるかのように、そこにはわたし以外、誰の姿も見当たらなかった。
教室の蛍光灯は煌々と室内を照らしているが、窓の外にふと目を向ければ、そこに広がっているのはただ闇一色だった。
これは――夢だ。
わたしはすぐに確信する。
何だか意識がふわふわしているし、あまりにも現実味がない。
不気味、というほどではないにしても、このままこんな夢を見続けているのも嫌だった。
昨日の楸先輩の件を思い出して、早く目を覚まさなきゃ、と再び机に突っ伏す。
…………。
………。
……。
起きられない。
いや、逆の言い方をするなら、眠れない。
わたしは小さくため息を吐き、もう一度上半身を起こし、辺りを見回す。
先ほどと何一つ変わらず、夢の世界はそこにはあって。
「……どうしよ」
わたしは誰にともなく呟いた。
昨日のあの夢みたいに嫌な感じはしなかった。
だから、そこまで怖がる必要はない。
それなのに、何だか心がざわざわしてしまうのは、きっと楸先輩の所為に違いなかった。
ぼんやりと窓の外に顔を向けながら、わたしは再びため息をもらす。
どうしてまた、こんな夢を見てしまったのだろうか。
なんだかまたどこかから楸先輩が出てきそうな気がして、もし本当にそうなったら、と思うと何だか不安がわたしを襲う。
出てこないで、と願いながら、何度目かのため息を吐いたところで、
――キュ、キュ、キュ
廊下を歩く、誰かの足音にわたしの身体は跳ね上がった。
「え、うそ、楸先輩?」
思わず席から腰を浮かせて、壁際に身を寄せる。
その足音は確実にこちらのほうに近づいてきていて、まるで迷いなど感じられなかった。
次第に大きくなっていく、上靴と廊下のこすれる音。
その音の大きさと共に、わたしの恐怖は増幅していく。
やがて足音はわたしの教室の前で止まり、咄嗟にわたしは黒板の前、教卓の中に身をひそめた。
こんなところに隠れても意味があるとは思えないのだけれど、とにかく隠れなくては、と身を縮こまらせる。
カチャ、と取っ手に手がかかる音に続いて、ガラガラガラ、とドアが開け放たれる音が間近に聞こえた。
「――ふん」
教室のドアを開けた、何者かの鼻音。
キュ、キュ、キュ、とその何者かは教室の中を歩き回って、やがて教卓のすぐそばまで来てピタリとその足を止めてしまった。
わらしは口を手で覆い、身震いしながらその何者かがわたしに気づかず、立ち去ってくれることを切に願った。
けれど、
「――誰?」
そう言って、その何者かは教卓の中を覗き込んできて、
「ひっ!」
小さく悲鳴を上げるわたしと、完全に視線が交わる。
――見つかった!
心臓がバクバクと激しく脈打ち、息もまともにできなかった。
恐怖が頂点に達して、大きく目を見開いて、絶叫してしまいそうになりながら、必死にそれを抑え込んで。
果たしてそこに見えたのは、楸先輩の顔、
「じゃ、ない……?」
「はい?」
茶色の短い髪を揺らしながら、その女の子は眉間にしわを寄せると、わずかに首を傾げた。