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僕の名前は速水泰輝。
『速水〜 飯おかわり』
『は、はいっ』
今この天狗をお世話をしている人間だ。
異形の花嫁、なんて呼ばれている僕だが…
僕の側で生活するとたちまち異形は活力を取り戻す。
命に関わる怪我も一晩で傷が塞がるくらいらしいが……
つまり、異形達をまるでお嫁さんみたいにお世話する姿から花嫁と呼ばれている。
…絶対、もっと別の呼び方があったはず…
ペタペタとお櫃から白米を椀によそう。
漫画みたいな山盛りご飯を兄貴に手渡す。
『どうぞ!』
『おう』
むしゃむしゃと頬いっぱいにして食べる天狗…小林の兄貴。
兄貴との出会いは、
それはそれは衝撃的なものだった。
『速水!速水は何処にいる⁉︎』
真夜中の社に突然響き渡る男の咆哮。
寝巻きのまま慌てて外に飛び出すと眼鏡をかけた狗天狗…天羽衆の小峠の兄貴が誰かを支えて叫んでいた。
当時の巫女さん達が既に現場にいて…
小峠の兄貴が連れてきたひとを見ていた一人が僕の元へやってきた。
『速水様、天羽衆の鷲天狗殿が大怪我を負ったようです』
『え⁉︎怪我って…ッ』
夜目に慣れ始めた頃、
それは血塗れの大天狗だった。
とくにお腹から大量の血が出ているのか、止血の着物がじっとりと水分を含んで弛んでいる。
こちらが騒いでもグッタリとして動かない。
『腹部…恐らく臓器まで届いてる傷です』
『速水様の奇跡を受けに舎弟の小峠殿がお見えになられたのです』
淡々と話す彼女達は紙の面で表情は見えない。
『き、奇跡って……ぼ、僕何も出来ないよ⁉︎
いつも小峠の兄貴とか他のちっちゃい妖怪とかがなんか知らないけど側にいると疲れがとれるって言うけど…!
医者じゃないし…ッ
あんな怪我…ッ治せないよ…ッ』
『頼む!速水!』
返り血なのか、血だらけの小峠の兄貴が泣きそうな顔で僕に縋る。
『医者に連れて行くにはもう時間がねぇ!
おまえしか頼れねぇんだ!頼む!小林の兄貴を助けてくれ…!』
こんな僕に縋るくらい、非常事態なんだ…。
『ど、どうしよ…っ』
『大丈夫です速水様、貴方様なら』
『小峠殿、小林殿を此方へ』
巫女さん達は動揺する僕らを社へ連れていく。
『……おい……本当に大丈夫なのか…⁉︎』
部屋の外で小峠の兄貴が心配してる…。
それもそうだ…巫女さん達はあの後彼の身体を綺麗にしてから僕と小林?さんを寝室に置いてってしまったのだから…
出ていく前に僕に告げたこと。
『速水様、この御仁の側に今夜はお眠りください』
『肌を重ね合わせるように眠るのが理想的です』
『……はい⁇』
『下着のまま抱きついてください』
『あのーッ⁉︎⁉︎⁉︎』
こうして、
僕らは置いてかれた。
『と、とりあえず…言われたとおりに…』
寝巻きを脱いで、
布団に横になっている小林さんに近寄る。
浅い呼吸、目を閉じたまま苦しそうだ。
新しく巻いた包帯も血が止まってないのか赤いシミが広がる。
ビビりながらも僕はそのひとに抱きつく。
…身体が冷たい…。
『どうか…っ どうか、助かって…』
自分の体温を、このひとに分け与えるように…。
いつの間にか、意識が無くなった。
『ん……?』
『おい』
ドスッ
『! ヒッ…』
顔の横に何かが掠る。
目で追えば、ギラっと鈍く光るドスが寝具に突き刺さっていた。
眠気がぶっ飛んだ僕は天井を見上げると…
そこには天井ではなく、
紫色の瞳を持つ天狗が羽根を広げながらこちらを見下ろす。
『おまえ、何?
腹刺された筈なんだけど俺
なんか塞がってるし、おまえが隣で寝てるし』
慌てて腹を見たら、
あんなに血を流していた傷は瘡蓋どころか塞がって薄っすらと痕になっていた。
『あ……っ…あ……』(声が…)
その強烈な圧に声が出ない。
助かって良かったとか、なんであの怪我が治ってんだろとか。
そんなことより純粋な恐怖が勝る。
『なんで黙ってんだ?』
『あ……う…っ…』
『小林の兄貴いいいッッッ‼︎』
スパン!っと勢いよく開かれた襖。
『⁉︎
やめてくれ小林の兄貴!
そいつは…ッ速水に手を出さないでくれ!』
最初は嬉し涙を浮かべていた小峠の兄貴だったが、僕らの状況に慌てて止めに入る。
『おー 華太〜
なんか知らねーけどこいつなんなの?』
『そいつが例の社の贄です!
兄貴の怪我を治してくれたんですよ!』
小峠の兄貴に続いて、
薙刀を持った巫女さん達が入る。
『天羽衆、鷲天狗の小林殿
いくら貴殿でも速水様に害を成すならば…』
『我らとて黙ってはおりますまい』
『この【神殺し】の社に喧嘩を売る気で?』
『……神殺し……此処がカシラが言ってたところかぁ
つーか、なんで華太はコイツらと知り合いっぽいんだぁ?』
『い、色々ありまして…』
『んで?おまえ此処の贄なの?』
『…は、い……』
『……おまえ、人間?』
『に、人間…です…』
『ふーん……』
ポスンッ
『助けてくれて、ありがとな』
『………は……』
『うぉ…⁉︎(あ、あの小林の兄貴が…人間に素直に礼をしたあああああ⁉︎⁉︎⁉︎)』
こうして、一触即発の雰囲気はなんとか免れて…
僕は無事に腰を抜かしたしなんならちょっと漏らしたのだった。
あの時はめちゃくちゃ小林の兄貴が怖かったなぁ。
なんなら、その後も遊びに来ては玩具…いや弄られたり額に刻まれたり……。
色々あったけどあの小林の兄貴の一件で僕の力について知れたし、
天羽衆とより仲良くさせていただくことが出来たし…。
…まぁ、僕の噂が広まって異形の花嫁って呼ばれる発端でもあるか。
『速水ぃ 食ったら寝るぞー』
『あ、はい!
…小林の兄貴、ご飯粒ついてますよ』ひょいっぱくッ
『……おまえ、ほんと嫁だよな』
『! す、すいませんつい!』
『絶対俺以外にすんなよ』
『わかりました……』
……花嫁ってよりも、お母さんの気持ちなんだよなぁ……
そして、口に出してたらしい僕はこの後小林の兄貴にヤキをいれられるのだった。
end