「はあぁぁ…………」
トボトボと帰路につきながら、俺は大きなため息をついた。
俺は絶賛就活中のコンビニバイト、葛一月。苗字が『つづら』、名前が『いつき』って読む。ちなみに俺があんなため息をついていたのは、
「内定決まんねぇ〜……!!」
そう、内定が決まっていないのだ。
去年までは普通にいい会社に就職できると思ってたんだけどなぁ……。
「うぅ〜…せめてもっと時給の良いバイトにつきてぇ〜」
そんなことを考えながらふと横を見ると、『アルバイト募集中!』と極太のマジックペンで書かれた雑なポスターが貼ってあった。
時給は隅の方に小さく書かれているようだったので、今日一日で疲労した目を凝らして見てみると、
「なんだこれ!?めちゃくちゃ時給いいじゃん!!」
思わず声が出てしまうほどの高時給だった。
このくらい貰えたら今よりは楽になるだろうし、とりあえず面接だけでも行ってみることにした。
次の日、早速その店に向かった。場所はなんと俺が住んでいるボロアパートのすぐそばにあるらしい。
まあ、そんなことはどうでもよくて肝心なのは何の店なのかが全く書かれていなかったのだ。住所のみ書いてあったので多分アポは取らなくても大丈夫なんだろう。
その場所に着くと、ポスターの雰囲気から想像していたものとは全く違う、お洒落な雰囲気の店でショーウィンドウには美しい人形が数多く並んでいた。
……俺人形って不気味でちょっと苦手なんだけど。
そんな失礼なことを考えていると突然店のドアがカランコロンと音を立てて開き、1人の男が出てきた。
しかもとんでもなく顔がいい。かっこいい、より綺麗の言葉の方が似合うような雰囲気だ。
「ん〜?もしかしてバイト募集のポスター見てきた人?入っていいよ」
いきなり話しかけられたことに驚いていると男は続けて言った。
「ああ、自己紹介がまだだったね。僕はここの店長をしているんだ。よろしく頼むよ」
こんなイケメンが店長とは……。世の中不公平だなぁ。
「さっきから君が僕のことを羨ましそうな目で見ているけど僕だって好きでこうなったわけじゃないんだよ?」
心を読まれたことに驚いたが、それよりも店長の発言の意味がわからなかった。俺が不思議そうにしているのを見たのか、店長はクスッと笑って言った。
「モテたらモテたで女の怖さを思い知るよ?」
あ、俺今めっちゃイラって来た。ここでバイトすんのやっぱやめようかな。
「まあまあ落ち着いて。ほら、お茶でも飲んで」
そう言って出された紅茶からはほんのりと甘い香りが漂ってきた。美味しい……。
「あ、そうそう!君採用ね。明日から来てくれる?」
「えっ!?いやまだ面接すら受けてないんですけど……」
「面接なんて形式だけだし、事務仕事したくな……ゴホン、人手が足りなくてね!」
今なんか言いかけたぞこの人。そんな適当な感じでいいのか?と思ったけど、今の俺にとってはありがたかった。
「じゃあ明日からお願いします」
こうして俺は無事(?)新しいバイト先が決まったのであった。
翌日、出勤するとそこには昨日の男の人が立っていた。
やっぱりイケメンだなーと思っていると彼はこちらに気づいてニコッと笑った。そして、
「おはよ〜葛一月くん。これからよろしくね」
この日から、俺はこの男と多くの人形にまつわる謎に巻き込まれていく事になるとは露知らず、
「はい!」
と答えた。
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