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こんなに変わってしまったのが、自分でも信じられない。
こんな気持ち、今まで感じたことなかったのに。
蒼といるのが当たり前って思ってたのに、今は一緒にいることが、息するのもつらいくらいに苦しい。
私、どうしちゃったの…。
テレビでは番組は終わり、CMが流れていた。
当然集中できるはずもなく眺めるだけでいた。
チラっと様子をうかがうと、蒼もなんだかつまらなそうだった。
ほんの数秒の沈黙さえ、苦しい今。
こうなれば、なにか会話するしかない…。
私はたどたどしく口を開いた。
「…もしかして…見たい番組とかあった?」
「は?」
「見たい番組の時間が、私の見たいのとかぶってたかな、って」
「別になかったけど。なんでんなこと聞くんだよ?」
「…だって…先にお風呂入りたいって言ってたから…」
蒼はごくっと麦茶を飲み干すと、濡れた前髪の間から横目で私を見てきた。
「入るのに、ためらいあったからさ」
「え…?」
「だって、おまえの入った後の湯船とか、ヤバいじゃん」
それってつまり…
『お父さんが入った後のお風呂なんか入りたくない!』ってやつと同じ…!?
「ひ、ひどい…!そんな嫌な言い方しなくたって…っ」
「ちがうって」
「…」
「その逆だよ。なんか、意識しちゃうだろ。おまえが裸でいた場所に入って…同じ湯につかって…とか…いろいろ。俺だって、お年頃の男のコだし」
は…
どういう…
「それと、おまえの私生活知っちゃうみたいで、いけない気持ちになるんだよ。『あーあの香りの正体ってこれか』とかって考えちゃって」
不意に、蒼の顔が耳元に近づいてきた。
そして、くんと、じゃれつくように、鼻を鳴らした…。
「俺、ずっと好きだったんだ、このシャンプーの匂い。…すげぇ、いい香りだよな」
なっ…
思わず身を仰け反らせた。
「へ、ヘンタイ…!」
口をついて出た言葉にも、蒼はあの色っぽい目を細めて受け流す。
「ヘンタイだよ。男だし。てか、みんな俺のことクールとか硬派とか言ってるけど、バカじゃねぇの?俺だって、普通の男なんだけど」
解かってる。
解かってるよ…。
今日の蒼は、どうしていいかわからないくらいに「男」って感じがすること…。
ううん…。
男って言うより『オオカミ』だよ…!
息が詰まるような雰囲気の中、にぎやかなCMを流していたテレビから、急に静かな曲が流れ始めた。
ドラマが始まった。これ、明姫奈が面白いって進めてきたヤツだ…。
高校生を主人公にしたコテコテの恋愛ドラマ。
片想いの男のコが女の子を思うキュンキュンな話。
すごく人気だけど…私はこういうの嫌い。
恥ずかしくて。
しかも、今のこの状況ではもう、見るに堪えない…。
騒々しいバラエティでも見ないと、この雰囲気から逃れられないような気がして…思わずリモコンに手を伸ばした。
けど、
「このドラマ流行ってるよな。岳緒とかみんな見てるぞ」
すっと蒼の手がリモコンを取り上げてしまって、ボリュームをあげた。
「私はこういうのキライ。替えてよ」
「いいじゃん、流行のもん観ろよ」
「私はっ、こんなコテあまな恋愛ドラマとか興味ないのっ」
「だっせー」
いかにもバカにするように蒼の鼻笑いに、イラッとなる。
「替えてよ!私の家なんだから、私が見たいの見させなさいよっ」
「なに恥ずかしがってんの?」
「…はぁ!?」
「俺とコテあまな恋愛ドラマ観るのが、そんなに気まずい?」
かぁああ、と熱くなる。
図星を言い当てられたショックに。
「返してよ!」
私はほとんどヒステリックになりながら、蒼からリモコンを奪おうと身を乗り出した。
けど、蒼はまたあの慣れた動きで身を交わして…学習能力の無い私は、またもや蒼の身体に倒れてしまう。
そして、待ち構えていたように、捕まえられてしまった。
蒼の腕の中に。
「おまえ…ほんと無防備すぎ」
「は、なして…」
「いやだ」
「ね…離してよ…っ」
泣きそうになりながら、思いっきり手を突っぱねるけど、
全然びくともしない。
「倒れてきたのはおまえだろ。おとなしくしろよ」
今までとは違う威圧的な声に、私はつい声を押し殺して身を強張らせてしまう。
どうして蒼なんかに…と思っても、身体が、心が、反応してしまう。
怖い…。
ずっと我慢してきたなにかを、やっと解放させたかのように、腕の力はしだいに強くなって。
私のこめかみに埋めていた唇が、掠れた声でつぶやいた。
「ずっと…こうしたかった…。ああすっげ…やわらけ…」
腕が動いて、腰や背中をそっと撫でる…。
「や…っ…!」
なんでそんなことするの…!?
くすぐったさを感じると同時に、蒼のさっきの言葉を思い出す。
「わかったって…そんなに丸くなってきたならダイエットするから…っ」
だからもうこれ以上からかわないでよ…!
けど、蒼は腕の力を緩めて私を見つめた。
「別にそんな意味で言ったんじゃない。すげぇ幸せって思っただけ」
わけわかんない…。
わかんないよ。
おかしいよ蒼。
どうして、こんなことするの…!
「まだわかんねぇの?ここまでされて」
蒼の目が怪しく細まった。
「じゃ、キスする」
「は…?」
なに言って…。