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#恋愛
#長編
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でも《片翼》は人族だけ。神様は本当に残酷なことをする。
天狐族は寿命が長い。永遠にも近い時間の中で精々後悔すればいい。それが──私の選んだ、たった一つの復讐。
「ごきげんよう」
「あ、ま──」
勢いよく飛び降りた。
(もし、あの方が一度でも私の話を聞いてくれていたら、何か変わったのかもしれない。もし、あの方が夜だけじゃなくて昼間に会いに来てくれたら、妻として扱ってくれていたら、話をして寄り添っていたら……馬鹿みたい。そんなことあるはずないのに)
最初は期待した。
でも生贄は生贄でしかなく、花嫁、妻、伴侶などの名を得ても結局は道具だと分かったから、もういい。押し付けられた《片翼》という役割に、その生き方にも疲れてしまった。
祖国が燃え盛る今、私のことを思ってくれる人はいない。
「──ッ、……、…………」
雨音が酷くなる中で、誰かの声がした気がしたけれど……もうどうでもよかった。もう、私自身を必要としてくれる人は、この世界にいないのだから。
次に生まれ変わるなら、平凡で、平和な世界で幸せに生きたいわ。
***
本当の悪夢は、私の人生が終わった後のことだ。
あの人、私の夫であったヴィクトルは、私──ブリジットを抱き抱えて涙する。それを私は少し離れたところから見ていた。魂の記憶だろうか。少し浮遊している。
『……ブリジット、愛している。誰よりも、愛している』
嘘だ。
そんなことあるはずが無いのに、あの人は泣いていた。まるで本当に愛していたかのように私を抱きしめて、後悔を口にする。その姿がルティ様と被った。
私の名前を呼び、愛を囁く。そんな事実なんてないのに。
『……君は私を許さなく良い。それでも次は君が幸福であるために、私の全てを掛けて、君を見守ることを……どうか許してくれ』
そんなことは望んでいない。
ただ後悔して欲しいだけ。失って絶望すればいいと思った。それ以上の償いなんていらない。少しでも苦しめばいい、でなきゃ復讐にならないから……。
それだけ。
それだけなのに心のどこかで、この夢が本当であったら、と望んでしまう自分がいた。
***
それから少しずつ、教材の分厚い本を読み進めて三カ月が経った頃、教材の中にアンケート用紙が入っていることに気づく。魔法術式があり、アンケート用紙以外にファンレターなども一緒に届けてくれるらしい。
(ダメもとで質問してみるのはありかも。この世界が前世と同じか、よく似ている世界か分かるかもしれないし……)
ファンレターを書こうとして、ふとルティ様のことが脳裏を過った。ルティ様は本屋に行った日から、スキンシップが増えて食事をする時は「これで最期になるかもしれない」と、戦場に行くような面持ちなのが少し気になる。
絶望させる。それが私の復讐だった。
でもルティ様は、割と高確率で絶望する。その悲壮感は凄まじい。すでに私の計画は破綻しつつある。でも幸せいっぱいなところからの絶望のほうがダメージは大きい。しかし現実問題として、この世界でどうやって収入を得るか。あとは避難先だ。
この世界が前世と同じなら、逃げ場は祖国ぐらいだろうか。
(そういえばこの世界で、祖国がどうなっているか調べてなかったわ。西の森しか知らないもの。それに前回の本屋では教材だけで、世界地図や地理的な本を探してなかった)
手紙を書くためにも雑貨に行きたい。朝食時に相談しよう。
「ん、美味しい」
今日も朝食が美味しい。日本食も食べたいけれど、このフレンチトーストはとっても美味しい。蜂蜜と生クリームのデザートも美味しいけれど、ベーコンとサラダバージョンも良い。
もぐもぐ食べていると、ルティ様はニコニコしているのだが、時々食べさせたいとソワソワしていることが多い。十回に一度「はい、あーん」をすると機嫌が良くなる。最近は七回に一度と成功率を上げてきているのだ。
私と少し違った味付けにして「こっちも美味しいですよ」と一口作戦をする。実に手間を増やしてでも、やりたいらしい。
「ルティ様」
「なんですか?」
話しかけたら、ぱああと笑顔になるところは変わっていない。尻尾がブンブンとちぎれるほど反応していた。
「今日また図書館に行ってみたいです。それと雑貨屋も」
「何か欲しいものがありましたか?」
「便箋と封筒とか、あとはノートとペンが欲しいです」
「!?」
素直に告げた瞬間、ルティ様は一瞬で固まり、ズーンとわかりやすく絶望した。絶望させるのが目的だったのだけれど、こう頻繁に絶望されると罪悪感が出てくる。
「だ、誰にお手紙を??」
ファンレターだと言っても、ルティ様は落ち込む。というかすでに落ち込んでいる。どう言うべきか悩んでいると、天竜狐族の片翼、番にして欲しいことの項目ページを思い出す。
(確か、天竜狐族は特に伴侶からの贈り物が嬉しい。「プレゼント」の一言を添えればその変の枝でも家宝にする。手紙など形に残るものを好む。特に定期的に贈ると精神的にも安心する)
まだいっぱいあったけれど、ひとまずルティ様がどのくらい喜ぶのかの反応を見よう。
「ルティ様に手紙を送ろうかなって、思ったのです。本を読んで感謝は口で伝えるのも良いけれど、文字にすると余計に伝わるって」
「シズクが私に……手紙?」
ルティ様は固まっていた。
「はい。あと本の作者さんに本の感想を」
「シズクが私に! 手紙!!」
食事中に立つのはマナー違反なのだが、ルティ様は星や宝石よりも目をキラキラさせて喜びを噛み締めていた。まだあげていないのだが。あまりの興奮に尻尾の数がポポンと増えた。白銀の綺麗な毛並みはモフモフしていつ見てもフサフサしている。五つある内、今は三つほど揺れている。
そして私の傍から離れない四足獣のモフモフもまた嬉しそうだ。可愛い。
「好きな人からの手紙をもらうのは、初めてなので嬉しいです」
「──っ!?」
その言葉に、胸がどうしようもなく痛んだ。初めてだと言う。
喉がカラカラと渇くけれど、なんとか声を絞り出した。
「……本当の本当に初めて?」
「ええ!」